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   2章3部 魔法使いの少女

夕食のひととき

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 冒険者ギルド本部をあとにしたシンヤは、宿屋にてトワとフォルスティア教会から戻っていたリアと合流。そして現在は夕食をとりに、レティシアのおすすめの一つであるとある食堂に来ていた。
 こじんまりとした店だがお客も多く、店内はにぎやか。これが隠れた名店というやつなのだろうか。

「おー、マジでうまいな。さすがアルスタリアにくわしい、レティシアのおすすめだけはある」

 シンヤが注文した肉のグリル料理に、思わず感動してしまう。
 脂の乗った上質な肉が、絶妙な火加減で焼かれているのだ。味つけも好みのものであり、非常においしかった。

「ですね! この魚、脂が乗って身もプリプリですごくおいしいです! 調理技術はもちろん、食材も新鮮でいいのを使ってますね!」

 リアも注文した魚のソテーを、絶賛する。

「ははは、交易都市ならではってやつだな。この肉もすごくジューシーで、食べ応え抜群だ」
「辺境にあったリザベルトだと、こういった新鮮な食材はなかなか食べられなかったので感動します! あー、やっぱりこういう大きな街はいいですね! いろんなお店があって、ほしいものがたくさんある! フローラさんにもらったようなお菓子が売ってる店も、あるそうなんですよ! 絶対いきたいです!」

 あこがれの大都市に、目をキラキラ輝かせるリア。

「オレはアルスタリアのうまいもんめぐりしてみたいな。レティシアのおすすめの店はまだまだあるし」
「いいですね! かわいいアイテム巡りとかもぜひやりたいです!」
「トワはどうだ?」
「うん?」

 話が盛り上がってきたので、トワにも振ってみることに。すると彼女はもぐもぐ食べながら、小首をかしげた。

「ははは、食べるのに夢中だったか。続けてくれ」
「あー、おいしーい。こんなのいくらでも食べられちゃうよー」

 トワは口に入れた料理を飲み込み、ほおに手を当てながらうっとりしだす。
 ちなみに彼女が食べていたのは、なぜかこの世界にもあったオムライス。見た目もシンヤたちがいた世界のものと、瓜二つだったといっていい。

「トワってほんとおいしそうに食べるよな」

 彼女は毎回、一口一口かみしめるように味わって幸せそうに食事しているという。その食べっぷりは見ていて、気持ちがいいほどであった。

「――あはは……、だってこれまでずっと、質素な病院食ばっかだったから。好きなものとかなかなか食べられなかったし、そもそも病気のせいで食欲もちょっとね……」

 トワは力なく笑って、自身の過去のことを教えてくれる。
 これにはさすがにいたたまれなくなってしまう。

「――あ、そういえば……」
「でも今なら身体のこととか、なんの心配もない! 好きなものを好きなだけ食べられるんだよ! 改めて食事のすばらしさを実感して、食欲が止まらないほどなんだから!」

 しかし暗い表情をみせるのもつかの間、両腕を胸元むなもと近くでブンブン振りながらウキウキで伝えてくるトワ。

「そっか。じゃあ、思う存分、グルメを楽しまないとな」

 本当に転生できてよかったなと、しみじみ思いながらやさしくほほえみかけた。

「うん! そうだ、シンヤ、デザートも頼んでいいかな?」
「ははは、今日の依頼で稼げたし、好きなだけ食べたらいいさ。リアもな」
「やった!」
「いんですか! えへへー、じゃあ、お言葉に甘えて!」
「リアちゃん、どれにする?」
「どれも捨てがたくて、困っちゃいますね」

 トワとリアはメニュー表を見て、楽しげに悩みだす。

「うーん、にしても」

 先ほど見たメニュー表と、周りの人々が食べてる料理を見回しながらふと思う。

「シンヤさん、どうしたんですか?」
「いや、見慣れた……、じゃなくて斬新な料理がいっぱいあるなと思ってさ。トワが食べてるオムライスだったり、デザートのプリンとか」

 実のところ、シンヤたちがいた世界の馴染みの深い料理がけっこうあったという。一応、こっちの世界と前の世界の植物や動物の生態系は似通っており、食材に関しては同じものが多々ある。しかしだからといってここまで調理もかぶるのだろうか。

「ここ、十数年、食文化の発展がすごいらしいですからね。アマネ商会様様みたいですよ」

 シンヤの疑問に、リアが答えてくれる。

「アマネ商会?」
「はい、食事、武器、道具などなど、様々な分野で革新的な新商品を生み出しまくり、今や商業界を牛耳ってるといっても過言ではない商業組織ですね。なんでも現トップの方が湯水のように湧き上がるアイディアを駆使くしして、一代で築き上げたとか」

(おいおいおい!? もしかしてそのトップって、オレたちと同じ転生者なんじゃ……」

 おそらく元居た世界の技術を流用することで、金をもうけていったに違いない。転生者がシンヤたちのほかにもいるのは事実ゆえ、この推理は的を射ているはず。

「わたし季節のフルーツシャーベットにしようかな!」
「リアはプリンで」

 思考を巡らせていると、二人が元居た世界でなじみ深いデザートを注文し始め。




「そういえばリアは今どんな感じなんだ?」

 トワと一緒にデザートタイムに入っているリアへ、今の状況をたずねてみる。
 ちなみにシンヤもあれから食後のコーヒーと、ゼリーを頼んでいた。

「えっと、すごく恐れ多いのですが、教会のほうで熱烈な歓迎を受けてる真っ最中ですね。遠方からあいさつしに来てくれたり、教会にまつわるありがたいお話を聞けたり、普通の人では入れない貴重な文献ぶんけんや本が保管されている書庫にも案内されちゃったんですよ!」
「言葉だけで聞くと、いろいろと大変そうだな」
「でも楽しかったですよ! それにアリシアさんがずっとそばにいて、気遣ってくれて。本当にすごくいい方でした! 昨日の夜なんか、一緒のベッドで仲よく寝かせてもらって!」

 リアがとても充実していたと、楽しそうにかたる。

「一緒のベッド? リア、アリシアさんになんか変なこととか、されなかったか?」

 聖女のアリシアといえば、かわいい女の子が好きで好きでたまらない少女。リアやトワに対するヤバげな反応を見るに、リアがなにかされなかったか心配になってしまう。さすがに節度は守っていると信じたいが。

「あー、その日は疲れちゃってたせいで、すぐにぐっすり寝ちゃって。アリシアさん、すごく話したそうにしてたから、悪いことをしちゃったと謝ったら、ううん、私にとってむしろご褒美だったみたいなことおっしゃってましたっけ?」
「リア、あの人には少し警戒心をもっといたほうがいいぞ。いろんな意味で危ない気がする」

 ちょこんと小首をかしげ不思議がるリアの両肩に手を置き、しっかりと言い聞かせる。

「はー、シンヤさんがそういうなら」
「とりあえずリアに関してはもう少し、教会へ通い詰めることになりそうです。なのでシンヤさんたちと合流できるのは、もうちょっとしてからですかね」
「そっか、楽しみに待ってるよ」
「シンヤさんたちのほうはどうでしたか? いろいろ聞かせてほしいです!」

 リアは身を乗り出し、わくわくしながらたずねてくる。

「昨日は冒険者ギルドに行って、さっそく冒険者になってきたんだ。ただ実力を計るための模擬戦をやらされて、ちょっと大変だったよ。まあ、そのあとみんなが歓迎会を開いてくれて、楽しいひと時を過ごさせてもらったけどな」
「わー、歓迎会ですか! いいですね!」
「そして今日は依頼で、アルダの森に本部を留守にしてる冒険者ギルドのトップの人を探しにいってきたんだ」
「今日、朝も早くて、おまけにずっと歩きっぱなし。もう、くたくただよ……」

 トワがぐったりテーブルに突っす。

「オレなんかそこに、二人分の介護の疲れも入ってるんだぞ」
「二人分ですか?」
「ああ、一人は酔っぱらってダルがらみしてくる今回の目的の人で、もう一人は捜索中に偶然出会ったイオって女の子でさ。その子がまたなんというか、アレな感じで……」
「アレですか?」
童顔どうがん小柄こがらなかわいい女の子なんだけど、天然というか、不思議ちゃんというか。空をぼーっとながめてたり、蝶々を追っかけてるような子でさ。いろいろと危なっかしすぎて、目が離せなかったよ。こっちに戻るときなんか、絶対はくれるだろうから手をつないで帰ってきたんだぜ」
「ふーん、手をつないでねー」

 イオのことを話していると、トワがジト目を向けてきた。

「トワ、なんだよ、その目は?」
「シンヤ、ここ最近かわいい女の子と、仲よくなりすぎじゃない? フローラさんにリアちゃんはもちろん、ハクアさんもそうだし、アルスタリアに来てレティシアさんやそのイオって子まで。この分だと今後サクリさんやミリーさん、アリシアさんとか最終的にはあのミルゼちゃんにまで手を出してそう」

 そして彼女は不服そうに抗議してくる。

「いや、別に狙ってやってるわけじゃないぞ。気づいたら、なんか仲よくなってるだけで」
(自分でも驚いてるぐらいだしな)

 実際のところ、こんなにもかわいい女の子たちとよろしくできていることに、驚きを隠せなかったという。

「どうだか。今回だってかわいい女の子と手をつないで、いい思いしてきたわけだしね」

 必死に弁解するも、ぷいっとそっぽを向くトワ。

「あれは迷子にならないようにでだな。というか手ならトワともつないでただろ」
「わたしはいいの! ――そ、その……、補佐ほさしてもらってる立場だし……」

 トワはほおを赤らめ手をもじもじさせながら、正当化を。

「えー」
「とにかく! あまりほかの女の子に、うつつをぬかし過ぎないでよね! シンヤにはわたしの補佐という重要な役目があるんだから!」

 そして彼女は指をビシッと突きつけ、言い放ってきた。

「わかった、わかったから。ほら、これでも食べて機嫌をなおしてくれよ」

 まだ手をつけていなかったゼリーを差し出し、怒りをしずめようと。

「わたしそんなに単純じゃないんだけど」
「いらないならいいけど」
「――うっ……た、食べる」

 トワは少し悔しそうに受け取り、パクパクとゼリーを食べ始めた。

「わー」

 そんなシンヤとトワのやり取りを見ていて、ぱぁぁっとほほえましそうにするリア。

「リア、そのほほえましいものを見るような目はなんなんだ?」
「いえ、お気になさらず♪」

 ツッコミを入れるが、ごちそうさまでしたとなにやらときめいているリアなのであった。


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