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2章3部 魔法使いの少女
ねむねむ勇者
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「よし! 目的地に到着っと! シンヤ、トワ、少し休憩しといてね。その間に、どういうルートで進むか決めとくから」
レティシアは地図を見て、シンヤたちに指示を。
歓迎会を終え、次の日の朝10時ごろ。ここは交易都市アルスタリアから北東に進んだところにある、アルダの森と呼ばれる森林地帯の入り口。今日はレティシアの要請を受け、トワと一緒に手伝いに来ていたという。
「ああ、そうさせてもらうさ。ほら、トワ、やっと着いたみたいだぞ」
「――あわわ……、じゃあ、シンヤ、あとのことはよろしくー。わたしはそこらへんで休んどくからー」
トワが大きなあくびをしながら、木の木陰で休もうと。
「おい、なにサボろうとしてるんだ? トワも一緒に依頼をこなすんだからな」
「あれ? そうだっけ?」
うとうとしながら、ちょこんと小首をかしげるトワ。
「ダメだ、寝ぼけてやがる。そんなんで大丈夫なのか?」
「だって朝早かったんだもん。まだまだ寝たりないよー、あわわ……」
彼女はまたもやあくびをし、ねむそうに目をこすった。
ちなみに今日のシンヤたちの朝は早い。そのためかこの場所に来るまでずっと、トワはねむそうにしていたのであった。
「ほんとトワは朝に弱いな。起こしに行ったときもあれだったし、そのせいで……」
シンヤは今朝、トワを起こしに行ったときのことを思い出す。
「トワ、朝だぞー」
時刻は朝6時半ごろ。トワが寝ている宿屋の部屋の扉をノックする。
ちなみにリアはフォルスティア教会の聖女であるアリシアのところで、お泊り中。なのでこの部屋にはトワしかいない状況であった。
「うーん、これは起こしにいくしかないか」
しかし反応がまったくない。なので扉の鍵を使って中へと入った。
この鍵は朝起こしにいくように、宿屋の店主から事前に借りていたもの。実はトワは朝に弱く、ちょっと声をかけた程度ではなかなか起きてくれないのだ。なので寝過ごしたらだめだと、彼女の了承のもと鍵を借りていたのである。
「おーい、トワ。そろそろ起きて準備しないと、間に合わなくなるぞ」
ベッドでスヤスヤと気持ちよさそうに寝ているトワを、さっそく起こすことに。
「まだねむいよー、あと5分」
「それ起きないやつだろ。ほら、起きろ」
すると定番のセリフがきたため、ふとんを取り上げ無理やり起こそうとするが。
「やだー、もう少し寝るー」
トワがふとんをとられまいと、抵抗してきた。
少し余裕を持って行動してるため、まだ多少は時間がある。なのでここは彼女の要望に応えてやることに。
「――はぁ……、しかたない。5分だけだぞ」
「――はーい……」
そしてレイジはいったん自分の部屋に戻り、準備をしにいった。
「トワ、5分たったぞー、――って、こもってやがる」
そして5分たち、再びトワの部屋へ。すると彼女はふとんを頭からかぶって寝ていた。
「おい、トワ」
ふとんごしにゆさゆさするが、反応がない。どうやら熟睡している様子。
「ダメだ、こいつ起きる気ないな。かくなる上は、とりゃー!」
もはや徹底抗戦で寝続けようとしているトワ。
これには問答無用で、彼女のふとんを思いっきり取り上げた。
「ははは、これならどうだって……、おいおい、まだ熟睡してるのかよ」
「――むにゃ、むにゃ……」
ふとんを完全に取り上げられたトワであったが、まだスヤスヤと眠っていたという。ただ少し肌寒いのか、少し丸まりながらだ。
「――ごく……」
そこでふと息を飲んでしまう。
というのもトワははかなげで可憐な美少女。そんな彼女が無防備な姿で寝ているのだ。男として、よこしまな感情を抱いてしまうのもしかたのないことだろう。
(ッ!? なに考えてるんだ!? オレは!?)
だがすぐに我に返り、煩悩を振り払う。
「ダメだ、早く起こさないと間違いをおかしかねないぞ。トワ、頼むから起きてくれ」
彼女の肩を軽くゆすってみるが、一向に起きる気配がない。
「――はぁ……、こっちの苦労もしらないで、気持ちよさそうに寝やがって。おーい、トワさんやー」
思わずトワのほおを、指でつんつんしてしまう。
(おぉ、やわらかい)
すると彼女のぷにぷにとしたほおのやわらかさに、感動してしまった。
「ははは、なんかやみ付きになりそうだ」
それからだんだん楽しくなり、気づけばトワのほおをつんつんして遊んでしまう。
「トワ、レティシアだけど、もう起きてるー?」
だがそこで問題が発生。なんとレティシアが扉の前まで来ていたのだ。
「なっ!? レティシア!?」
「あれ? 返事がない。トワ、入るからねー」
レティシアが扉を開けようと。
対してシンヤはその場から動けず、パニックに。トワのほおで遊んでいたというやましい事実があるため、よけいに焦っていたのだ。
「シンヤ? なにしてるの?」
そして部屋に入ってきたレティシアが、怪訝そうな視線を向けてきた。
それもそのはず今シンヤは、ふとんを取られて寝ているトワにかじりついているのだ。しかも手が彼女のほうへ伸びている最悪な状態で。もはやふとんをはぎとり、今から手を出そうとしているふうに見えてもおかしくはなかった。
「シンヤ! ちょっとそこに座りなさい!」
「――はぁ……、朝っぱらからレティシアに、説教されるはめになったんだからな」
朝のことを思い出しながら、肩を落とす。
結局、あのあと床に正座させられ、レティシアにお説教されたのだ。
ちなみにその間もトワはスヤスヤ寝ていたという。
「えー、朝なかなか起きられなかったのは申しわけないけど、それに関してはシンヤもわるいよね」
対してトワがジト目で抗議してきた。
「そうよ、シンヤ。女の子が寝ているところへ不埒なマネをするなんて、許されない行為なんだからね」
するとレティシアが両腰に手を当て、ムッとした表情でうったえてくる。
「人聞きが悪いぞ。オレはただトワを起こそうとしただけでだな」
「ふーん、それでトワのほおをぷにぷにしたと?」
ジト目でイタイところを突いてくるレティシア。
「――まあ、ちょっとした出来心で……」
「気持ちはわからなくもないけど、本当にそれだけだったの? ふとんをはぎとってたし、
よこしまなことを考えてたり、それかもう手を出したあとだったりとか?」
「いやいや、オレはそんなクズ男じゃないから!」
あらぬ疑いに全力で主張を。
よこしまな感情は少し抱いたかもしれないが、すぐに振り払ったのでそこは大目に見てほしかった。
「えー、でもシンヤには前科があるしねー。アタシもそれで辱めをうけたし」
レティシアがほおにぽんぽん指を当てながら、意地の悪い笑みを浮かべてくる。
「レティシア、あれは何度もいうが事故だからな!」
「トワ、気を付けないとダメよ。あなたはただでさえかわいいんだから、いつシンヤに寝込みを襲われてもおかしくないの」
そしてレティシアは後ろからトワの両肩に手をおき、忠告を。
「え? そうなのシンヤ?」
「いや、それは誤解でだな……」
不安げに見つめてくるトワに、シンヤは頭を抱えるしかない。
「ふふっ、なーんてね! これにこりたら変なことしないで、普通に起こしてあげるように」
困っていると、レティシアがお茶目に笑いながら諭してきた。
「は、はい……」
「じゃあ、ルートを決めたし、そろそろ森へ入りましょう!」
「あれ? そういえばなにしに行くんだっけ?」
トワが再び首をかしげる。
「トワ、まだ寝ぼけてるのかよ」
「ふふっ、トワのためにも、おさらいしとこっか。今回来たのは冒険者ギルドのトップ、アタシのお父さんのアドルフと会うのが目的よ」
「ははは……、まさかレティシアやサクリが、冒険者ギルドのトップの娘だったなんてな。今さらだけど敬語とかで話したほうがいいのか?」
「ふふっ、もう、そんなのいらないって! 今まで通りフランクに接してくれたらいいよ。そういうのむずかゆくなるし、そもそもすごいのはお父さん。敬意を払うのなら、あの人にしてあげて」
レティシアがシンヤの背中を軽くぽんっとたたきながら、ウィンクを。
「わかった。ちなみにどういう人なんだ?」
「そうね。見た目はちょっと頼りなさそうな中年男だけど、戦闘に関しては冒険者の中でも1、2を争うウデを持ってて、英雄視されてるの。これまで各地を冒険しながら様々な偉業をなしとげ、剣聖アドルフの名をフォルスティア大陸中に轟かせたんだから!」
レティシアが胸を張り、誇らしげに説明をしてくれる。
「おぉ、すげー」
「でも極度のコミュ障で、気がすごく弱いの。だから団体行動が超苦手で、冒険するときはいつもソロ。人前にでるときとかいつもガチガチになって、ほんと頼りなくなっちゃうのよねー」
しかしそれもつかの間、やれやれと肩をすくめダメ出しをするレティシア。
「なんでそんな人が冒険者ギルドのトップをしてるんだ?」
「ウデは確かだし、偉業もすごいから名指しされちゃったの。実際、冒険者ギルドのトップなんてただの肩書きみたいなものだし、そこまで特別な仕事もないからやれるだろうってことでね。そしてそんな父さんが今、冒険者ギルド本部にまったく戻ってこない状況なの。あえて遠いところの依頼を受けて、アルスタリア周辺を点々としててね」
「あえて?」
「ええ、アタシにとある大役を押し付けたことを、気にしてるんだと思う。話すのが気まずいって感じね。その件に関してはコミュ障の父さんに全然向いてないから、アタシがするしかないってもう納得してる。だから気に病む必要はないのに、あの人は……、はぁ……」
レティシアが頭を抱え、大きなため息を。
「そういうわけだから今回父さんと会って、戻ってくるように説得するのが目的よ。ほかの冒険者ギルドの受付の人からの情報では、今日父さんはこの森で複数依頼をこなすみたいなの。だからアタシたちもついでにその依頼をこなしながら、父さんを探しだす流れね。父さんにはせめて近くにいてもらって、有事の際にはすぐに動けるようにしてもらわないと」
ちなみにその情報がきたのは、ちょうど昨日の歓迎会の終わりあたり。この世界には魔法を利用した通信機があり、ほかの冒険者ギルドの方から連絡がきたのである。それを聞いてレティシアが今日の作戦を考え、シンヤたちに手伝ってほしいと要請してきたのだ。
「了解だ」
「あわわ、うん、わかったー」
「今度はどこに遠出するかわかったもんじゃないから、ここでなんとしてでも見つけてみせる! みんな張りきっていきましょう!」
こうしてレティシアの先導のもと、アドルフを探しにアルダの森へ向かうシンヤたちなのであった。
レティシアは地図を見て、シンヤたちに指示を。
歓迎会を終え、次の日の朝10時ごろ。ここは交易都市アルスタリアから北東に進んだところにある、アルダの森と呼ばれる森林地帯の入り口。今日はレティシアの要請を受け、トワと一緒に手伝いに来ていたという。
「ああ、そうさせてもらうさ。ほら、トワ、やっと着いたみたいだぞ」
「――あわわ……、じゃあ、シンヤ、あとのことはよろしくー。わたしはそこらへんで休んどくからー」
トワが大きなあくびをしながら、木の木陰で休もうと。
「おい、なにサボろうとしてるんだ? トワも一緒に依頼をこなすんだからな」
「あれ? そうだっけ?」
うとうとしながら、ちょこんと小首をかしげるトワ。
「ダメだ、寝ぼけてやがる。そんなんで大丈夫なのか?」
「だって朝早かったんだもん。まだまだ寝たりないよー、あわわ……」
彼女はまたもやあくびをし、ねむそうに目をこすった。
ちなみに今日のシンヤたちの朝は早い。そのためかこの場所に来るまでずっと、トワはねむそうにしていたのであった。
「ほんとトワは朝に弱いな。起こしに行ったときもあれだったし、そのせいで……」
シンヤは今朝、トワを起こしに行ったときのことを思い出す。
「トワ、朝だぞー」
時刻は朝6時半ごろ。トワが寝ている宿屋の部屋の扉をノックする。
ちなみにリアはフォルスティア教会の聖女であるアリシアのところで、お泊り中。なのでこの部屋にはトワしかいない状況であった。
「うーん、これは起こしにいくしかないか」
しかし反応がまったくない。なので扉の鍵を使って中へと入った。
この鍵は朝起こしにいくように、宿屋の店主から事前に借りていたもの。実はトワは朝に弱く、ちょっと声をかけた程度ではなかなか起きてくれないのだ。なので寝過ごしたらだめだと、彼女の了承のもと鍵を借りていたのである。
「おーい、トワ。そろそろ起きて準備しないと、間に合わなくなるぞ」
ベッドでスヤスヤと気持ちよさそうに寝ているトワを、さっそく起こすことに。
「まだねむいよー、あと5分」
「それ起きないやつだろ。ほら、起きろ」
すると定番のセリフがきたため、ふとんを取り上げ無理やり起こそうとするが。
「やだー、もう少し寝るー」
トワがふとんをとられまいと、抵抗してきた。
少し余裕を持って行動してるため、まだ多少は時間がある。なのでここは彼女の要望に応えてやることに。
「――はぁ……、しかたない。5分だけだぞ」
「――はーい……」
そしてレイジはいったん自分の部屋に戻り、準備をしにいった。
「トワ、5分たったぞー、――って、こもってやがる」
そして5分たち、再びトワの部屋へ。すると彼女はふとんを頭からかぶって寝ていた。
「おい、トワ」
ふとんごしにゆさゆさするが、反応がない。どうやら熟睡している様子。
「ダメだ、こいつ起きる気ないな。かくなる上は、とりゃー!」
もはや徹底抗戦で寝続けようとしているトワ。
これには問答無用で、彼女のふとんを思いっきり取り上げた。
「ははは、これならどうだって……、おいおい、まだ熟睡してるのかよ」
「――むにゃ、むにゃ……」
ふとんを完全に取り上げられたトワであったが、まだスヤスヤと眠っていたという。ただ少し肌寒いのか、少し丸まりながらだ。
「――ごく……」
そこでふと息を飲んでしまう。
というのもトワははかなげで可憐な美少女。そんな彼女が無防備な姿で寝ているのだ。男として、よこしまな感情を抱いてしまうのもしかたのないことだろう。
(ッ!? なに考えてるんだ!? オレは!?)
だがすぐに我に返り、煩悩を振り払う。
「ダメだ、早く起こさないと間違いをおかしかねないぞ。トワ、頼むから起きてくれ」
彼女の肩を軽くゆすってみるが、一向に起きる気配がない。
「――はぁ……、こっちの苦労もしらないで、気持ちよさそうに寝やがって。おーい、トワさんやー」
思わずトワのほおを、指でつんつんしてしまう。
(おぉ、やわらかい)
すると彼女のぷにぷにとしたほおのやわらかさに、感動してしまった。
「ははは、なんかやみ付きになりそうだ」
それからだんだん楽しくなり、気づけばトワのほおをつんつんして遊んでしまう。
「トワ、レティシアだけど、もう起きてるー?」
だがそこで問題が発生。なんとレティシアが扉の前まで来ていたのだ。
「なっ!? レティシア!?」
「あれ? 返事がない。トワ、入るからねー」
レティシアが扉を開けようと。
対してシンヤはその場から動けず、パニックに。トワのほおで遊んでいたというやましい事実があるため、よけいに焦っていたのだ。
「シンヤ? なにしてるの?」
そして部屋に入ってきたレティシアが、怪訝そうな視線を向けてきた。
それもそのはず今シンヤは、ふとんを取られて寝ているトワにかじりついているのだ。しかも手が彼女のほうへ伸びている最悪な状態で。もはやふとんをはぎとり、今から手を出そうとしているふうに見えてもおかしくはなかった。
「シンヤ! ちょっとそこに座りなさい!」
「――はぁ……、朝っぱらからレティシアに、説教されるはめになったんだからな」
朝のことを思い出しながら、肩を落とす。
結局、あのあと床に正座させられ、レティシアにお説教されたのだ。
ちなみにその間もトワはスヤスヤ寝ていたという。
「えー、朝なかなか起きられなかったのは申しわけないけど、それに関してはシンヤもわるいよね」
対してトワがジト目で抗議してきた。
「そうよ、シンヤ。女の子が寝ているところへ不埒なマネをするなんて、許されない行為なんだからね」
するとレティシアが両腰に手を当て、ムッとした表情でうったえてくる。
「人聞きが悪いぞ。オレはただトワを起こそうとしただけでだな」
「ふーん、それでトワのほおをぷにぷにしたと?」
ジト目でイタイところを突いてくるレティシア。
「――まあ、ちょっとした出来心で……」
「気持ちはわからなくもないけど、本当にそれだけだったの? ふとんをはぎとってたし、
よこしまなことを考えてたり、それかもう手を出したあとだったりとか?」
「いやいや、オレはそんなクズ男じゃないから!」
あらぬ疑いに全力で主張を。
よこしまな感情は少し抱いたかもしれないが、すぐに振り払ったのでそこは大目に見てほしかった。
「えー、でもシンヤには前科があるしねー。アタシもそれで辱めをうけたし」
レティシアがほおにぽんぽん指を当てながら、意地の悪い笑みを浮かべてくる。
「レティシア、あれは何度もいうが事故だからな!」
「トワ、気を付けないとダメよ。あなたはただでさえかわいいんだから、いつシンヤに寝込みを襲われてもおかしくないの」
そしてレティシアは後ろからトワの両肩に手をおき、忠告を。
「え? そうなのシンヤ?」
「いや、それは誤解でだな……」
不安げに見つめてくるトワに、シンヤは頭を抱えるしかない。
「ふふっ、なーんてね! これにこりたら変なことしないで、普通に起こしてあげるように」
困っていると、レティシアがお茶目に笑いながら諭してきた。
「は、はい……」
「じゃあ、ルートを決めたし、そろそろ森へ入りましょう!」
「あれ? そういえばなにしに行くんだっけ?」
トワが再び首をかしげる。
「トワ、まだ寝ぼけてるのかよ」
「ふふっ、トワのためにも、おさらいしとこっか。今回来たのは冒険者ギルドのトップ、アタシのお父さんのアドルフと会うのが目的よ」
「ははは……、まさかレティシアやサクリが、冒険者ギルドのトップの娘だったなんてな。今さらだけど敬語とかで話したほうがいいのか?」
「ふふっ、もう、そんなのいらないって! 今まで通りフランクに接してくれたらいいよ。そういうのむずかゆくなるし、そもそもすごいのはお父さん。敬意を払うのなら、あの人にしてあげて」
レティシアがシンヤの背中を軽くぽんっとたたきながら、ウィンクを。
「わかった。ちなみにどういう人なんだ?」
「そうね。見た目はちょっと頼りなさそうな中年男だけど、戦闘に関しては冒険者の中でも1、2を争うウデを持ってて、英雄視されてるの。これまで各地を冒険しながら様々な偉業をなしとげ、剣聖アドルフの名をフォルスティア大陸中に轟かせたんだから!」
レティシアが胸を張り、誇らしげに説明をしてくれる。
「おぉ、すげー」
「でも極度のコミュ障で、気がすごく弱いの。だから団体行動が超苦手で、冒険するときはいつもソロ。人前にでるときとかいつもガチガチになって、ほんと頼りなくなっちゃうのよねー」
しかしそれもつかの間、やれやれと肩をすくめダメ出しをするレティシア。
「なんでそんな人が冒険者ギルドのトップをしてるんだ?」
「ウデは確かだし、偉業もすごいから名指しされちゃったの。実際、冒険者ギルドのトップなんてただの肩書きみたいなものだし、そこまで特別な仕事もないからやれるだろうってことでね。そしてそんな父さんが今、冒険者ギルド本部にまったく戻ってこない状況なの。あえて遠いところの依頼を受けて、アルスタリア周辺を点々としててね」
「あえて?」
「ええ、アタシにとある大役を押し付けたことを、気にしてるんだと思う。話すのが気まずいって感じね。その件に関してはコミュ障の父さんに全然向いてないから、アタシがするしかないってもう納得してる。だから気に病む必要はないのに、あの人は……、はぁ……」
レティシアが頭を抱え、大きなため息を。
「そういうわけだから今回父さんと会って、戻ってくるように説得するのが目的よ。ほかの冒険者ギルドの受付の人からの情報では、今日父さんはこの森で複数依頼をこなすみたいなの。だからアタシたちもついでにその依頼をこなしながら、父さんを探しだす流れね。父さんにはせめて近くにいてもらって、有事の際にはすぐに動けるようにしてもらわないと」
ちなみにその情報がきたのは、ちょうど昨日の歓迎会の終わりあたり。この世界には魔法を利用した通信機があり、ほかの冒険者ギルドの方から連絡がきたのである。それを聞いてレティシアが今日の作戦を考え、シンヤたちに手伝ってほしいと要請してきたのだ。
「了解だ」
「あわわ、うん、わかったー」
「今度はどこに遠出するかわかったもんじゃないから、ここでなんとしてでも見つけてみせる! みんな張りきっていきましょう!」
こうしてレティシアの先導のもと、アドルフを探しにアルダの森へ向かうシンヤたちなのであった。
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