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1章4部 トワの答え
戦う覚悟
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「トワ、そのネコって」
「さっき会ったネコちゃんみたい。ついてきちゃったのかな?」
座りこんでいたトワの方へ行くと、そこには街で出会った黒猫の姿が。
「こんな森の奥まで? すごいな」
黒猫はトワに懐いているのか、スリスリと彼女に身を寄せる。
そんな黒猫の頭を愛おしげになでるトワ。
「なぐさめてくれてるのかな。よしよし」
「それでトワ、大丈夫か」
「――あはは……、正直に言うと、ちょっとダメそうかも……。見て、今でも少し震えてるの。みんなと戦いたいけど、こんなんじゃまた足を引っ張っちゃう。ほんと情けないな、わたし……」
トワは力なく笑いながら、手を見せてくる。その手は小刻みに震えていた。
「――トワ……」
「わたし、勇者としての輝かしい側面しか見ていなかった。いろんなところを冒険して、さまざまな出会いを繰り返しながらも、道中困ってる人を助けていく。そうして人々の希望の光として、いづれは大事を成し世界に平和をもたらす。それこそがずっとあこがれ続けた勇者の物語」
空を見上げ、ぽつりと自身の想いをかたっていくトワ。
「でもそれには勇者として戦わないといけない。そのことに関して、わたしは甘く見すぎていた……。全部が全部物語のように、うまくいくわけなんかない。戦いになれば傷つくのは当たり前だし、一歩間違えればあっけなく死んでしまう。それが現実。実際に戦場に立って、それを痛いほど痛感したの。そしたらもう怖くて怖くてたまらなくなって……」
彼女は自身の両肩を抱きしめ、うつむいてしまう。
「結局、わたしには戦う覚悟がまったくなかったの。あるのは理想とあこがれだけ。それじゃあ、初めから戦えるわけがない。それなのにあんなにも大口をたたいて……。――あはは……、ほんと笑っちゃうよね……」
「でもそれはしかたのないことだろ。これまでオレたちは戦いとは、無縁の日々を送っていたんだから。それにさっきはダメだったとしても、次にがんばって取り返せばいい話だ。今回の教訓を生かして、切り替えていこうぜ」
自嘲気味に笑うトワに、なんとか励まそうと笑いかける。
「――はぁ……、問題はそこなんだよね。戦うということを理解して一歩前進っていきたいところなんだけど、気持ちが全然ついてきてくれないの。怖じ気づくだけで、戦う覚悟が持てない。こんなんじゃ勇者失格だよ」
しかし彼女の気は晴れず、当面の問題に肩を落とす。
確かに戦えないとなると、勇者としてはもはや致命的。自身に失望するのも無理はない。
「まあ、そう簡単に割り切れるものでもないからな」
「でもシンヤは戦えていたよね。怖くなかったの?」
「もちろん怖かったさ。ゲームのようにやり直しができず、死ねばそれで終わり。どれだけ逃げ出したいって思ったことか……。でもそれをしたらトワが死んでしまう。それに気づいたら、もうなりふり構わず立ち向かってたよ、ははは」
先ほどの戦いでの想いを振り返りながら、頭の後ろをかく。
「もしかしてわたしのために?」
「そうだな。正直な話、オレが死ぬのは別にいいんだ。一度もとの世界でそれなりに生きたし、本来ならこの世界に転生することもなかった身。こんな序盤で死ぬのもオレだったらこんなもんだろって、案外笑って済ませられる」
ちょこんと小首をかしげるトワに、遠い目でしみじみとかたる。
「でもキミの死はダメだ。だってトワはこれまで病気のせいで、ずっと辛い人生を送ってきたんだろ。だからその分、この世界では思う存分生きてほしい。いっぱい冒険して、夢をかなえる輝かしい人生を。それを理不尽に踏みつぶされる、悲しい結末なんて認められない」
そしてトワの両肩をがっしりつかみ、まっすぐに告げた。
「――シンヤ……」
「これがオレの戦えた理由だ。そしてこれからも、この想いを胸に戦い続けるつもりだ。トワが立派な勇者に成長して、夢をかなえるその日までな」
彼女の頭をやさしくなでながら、ほほえみかける。
「――そっか……、やっとわかった。わたし困ってる人たちのために戦うって偉そうに言ってただけで、それを実現できてなかったんだ。だって怖くて震えてるときの感情は、痛いのがイヤとか、死にたくないとか全部自分のことばかり。そこに誰かのためとかまったく頭になかったの。そんな戦う意味を見失ってる状態じゃ、自分を奮い立たせられるわけないよね……」
トワは胸をぎゅっと押さえ、目をふせる。
「わたしもイヤだ。フローラさんやリアちゃん、そしてシンヤがいなくなるのは。大切な人はもちろん、誰かの輝かしい未来が踏みにじられるなんて認められない! ――あぁ、これが誰かのために戦うということなんだ……。わたしが頑張れば、その分みんなを守ることができるんだもん。なら傷つくことを恐れてるヒマなんてない。前に出て戦わないと!」
バッと目を見開き、決意に満ちた表情で宣言するトワ。
そんなどこか吹っ切れた様子の彼女であったが、突如異変が。
「そうだ。わたしは勇者。邪神に組するモノたちすべてを葬らないと。それが女神さまの剣であるわたしの使命。存在理由。だから戦って戦って戦うんだ……」
トワは額を押さえながら、強迫観念にとらわれたようにつぶやきだしたのだ。しかもその瞳には少し狂気の色が。まるでなにかに取りつかれているようにだ。
「トワ?」
「行こう、シンヤ。女神さまを仇なす敵を倒しに」
トワは立ち上がり、一切の迷いなく告げる。
本来なら頼もしい限りなのだろうが、彼女のどこか危うげな雰囲気にイヤな予感がして止まないシンヤなのであった。
「さっき会ったネコちゃんみたい。ついてきちゃったのかな?」
座りこんでいたトワの方へ行くと、そこには街で出会った黒猫の姿が。
「こんな森の奥まで? すごいな」
黒猫はトワに懐いているのか、スリスリと彼女に身を寄せる。
そんな黒猫の頭を愛おしげになでるトワ。
「なぐさめてくれてるのかな。よしよし」
「それでトワ、大丈夫か」
「――あはは……、正直に言うと、ちょっとダメそうかも……。見て、今でも少し震えてるの。みんなと戦いたいけど、こんなんじゃまた足を引っ張っちゃう。ほんと情けないな、わたし……」
トワは力なく笑いながら、手を見せてくる。その手は小刻みに震えていた。
「――トワ……」
「わたし、勇者としての輝かしい側面しか見ていなかった。いろんなところを冒険して、さまざまな出会いを繰り返しながらも、道中困ってる人を助けていく。そうして人々の希望の光として、いづれは大事を成し世界に平和をもたらす。それこそがずっとあこがれ続けた勇者の物語」
空を見上げ、ぽつりと自身の想いをかたっていくトワ。
「でもそれには勇者として戦わないといけない。そのことに関して、わたしは甘く見すぎていた……。全部が全部物語のように、うまくいくわけなんかない。戦いになれば傷つくのは当たり前だし、一歩間違えればあっけなく死んでしまう。それが現実。実際に戦場に立って、それを痛いほど痛感したの。そしたらもう怖くて怖くてたまらなくなって……」
彼女は自身の両肩を抱きしめ、うつむいてしまう。
「結局、わたしには戦う覚悟がまったくなかったの。あるのは理想とあこがれだけ。それじゃあ、初めから戦えるわけがない。それなのにあんなにも大口をたたいて……。――あはは……、ほんと笑っちゃうよね……」
「でもそれはしかたのないことだろ。これまでオレたちは戦いとは、無縁の日々を送っていたんだから。それにさっきはダメだったとしても、次にがんばって取り返せばいい話だ。今回の教訓を生かして、切り替えていこうぜ」
自嘲気味に笑うトワに、なんとか励まそうと笑いかける。
「――はぁ……、問題はそこなんだよね。戦うということを理解して一歩前進っていきたいところなんだけど、気持ちが全然ついてきてくれないの。怖じ気づくだけで、戦う覚悟が持てない。こんなんじゃ勇者失格だよ」
しかし彼女の気は晴れず、当面の問題に肩を落とす。
確かに戦えないとなると、勇者としてはもはや致命的。自身に失望するのも無理はない。
「まあ、そう簡単に割り切れるものでもないからな」
「でもシンヤは戦えていたよね。怖くなかったの?」
「もちろん怖かったさ。ゲームのようにやり直しができず、死ねばそれで終わり。どれだけ逃げ出したいって思ったことか……。でもそれをしたらトワが死んでしまう。それに気づいたら、もうなりふり構わず立ち向かってたよ、ははは」
先ほどの戦いでの想いを振り返りながら、頭の後ろをかく。
「もしかしてわたしのために?」
「そうだな。正直な話、オレが死ぬのは別にいいんだ。一度もとの世界でそれなりに生きたし、本来ならこの世界に転生することもなかった身。こんな序盤で死ぬのもオレだったらこんなもんだろって、案外笑って済ませられる」
ちょこんと小首をかしげるトワに、遠い目でしみじみとかたる。
「でもキミの死はダメだ。だってトワはこれまで病気のせいで、ずっと辛い人生を送ってきたんだろ。だからその分、この世界では思う存分生きてほしい。いっぱい冒険して、夢をかなえる輝かしい人生を。それを理不尽に踏みつぶされる、悲しい結末なんて認められない」
そしてトワの両肩をがっしりつかみ、まっすぐに告げた。
「――シンヤ……」
「これがオレの戦えた理由だ。そしてこれからも、この想いを胸に戦い続けるつもりだ。トワが立派な勇者に成長して、夢をかなえるその日までな」
彼女の頭をやさしくなでながら、ほほえみかける。
「――そっか……、やっとわかった。わたし困ってる人たちのために戦うって偉そうに言ってただけで、それを実現できてなかったんだ。だって怖くて震えてるときの感情は、痛いのがイヤとか、死にたくないとか全部自分のことばかり。そこに誰かのためとかまったく頭になかったの。そんな戦う意味を見失ってる状態じゃ、自分を奮い立たせられるわけないよね……」
トワは胸をぎゅっと押さえ、目をふせる。
「わたしもイヤだ。フローラさんやリアちゃん、そしてシンヤがいなくなるのは。大切な人はもちろん、誰かの輝かしい未来が踏みにじられるなんて認められない! ――あぁ、これが誰かのために戦うということなんだ……。わたしが頑張れば、その分みんなを守ることができるんだもん。なら傷つくことを恐れてるヒマなんてない。前に出て戦わないと!」
バッと目を見開き、決意に満ちた表情で宣言するトワ。
そんなどこか吹っ切れた様子の彼女であったが、突如異変が。
「そうだ。わたしは勇者。邪神に組するモノたちすべてを葬らないと。それが女神さまの剣であるわたしの使命。存在理由。だから戦って戦って戦うんだ……」
トワは額を押さえながら、強迫観念にとらわれたようにつぶやきだしたのだ。しかもその瞳には少し狂気の色が。まるでなにかに取りつかれているようにだ。
「トワ?」
「行こう、シンヤ。女神さまを仇なす敵を倒しに」
トワは立ち上がり、一切の迷いなく告げる。
本来なら頼もしい限りなのだろうが、彼女のどこか危うげな雰囲気にイヤな予感がして止まないシンヤなのであった。
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