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   1章3部 勇者の初戦闘

シンヤの武器

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 時刻は昼過ぎ、シンヤとトワはリアの祖父から依頼の説明を聞き終え、教会の外へと出ていた。その依頼内容とは、このあと封印の森の奥地にある神殿の様子を見に行くリアの護衛ごえい。メンバーにはフローラも同行してくれるとのこと。
 そして現在、出発の時間になるまで、街中の方で時間をつぶすことに。ちなみにリアとフローラは準備のため、別行動中という。

「やっと自由だー! あぁ、堂々と街中を歩けることが、こんなにもすばらしいだなんて!」

 にぎわう街中に来たトワは、胸元むなもと近くで手をにぎりしめ感動のあまり打ち震える。

「ほら、シンヤも早く、早く!」

 そして彼女はシンヤの方に手を振り、催促さいそくしてきた。

「ははは、テンションがやけに高いな」
「だって目の前に広がるのは、ファンタジーモノでよく見るあこがれの街並みだよ! これまで我慢してた分、いっぱい満喫しないと!」

 うでをブンブン振りながら、熱くかたるトワ。

「お嬢ちゃん、一つどうだい? おいしいよ!」

 そんなはしゃぐ彼女を見て、果物くだものを売っていたおばさんが声をかけてきた。

「――あ……、はい……、わぁ! 確かにおいしそう! えっと、一ついいですか?」

 知らない人に声をかけられビクビクしていたトワであったが、おいしそうな果物の数々
に目を輝かせる。

(オレもあんな感じだったのかな。ははは、でもオレの場合ここで金がなくて、いきなり出鼻をくじかれたっけ)

 そんな異世界ライフを満喫している彼女を見て、ほほえましい気持ちに。そして金がなかった時のことを思い出し、笑ってしまった。

「あれ?」

 ふとトワがスカートのポケットに手をつっこみ、固まってしまう。
 どうしたのかと不思議に思っていると。

「シンヤー!? お金がないよー!?」

 トワは青ざめた顔でシンヤの方を振り向き、涙目でうったえてきた。

「って!? トワもかよ!?」

 これには盛大にツッコミを入れるしかなかった。




「わぁ! これおいしい!」

 ベンチに座り、リンゴに似た果実をさぞおいしそうに食べるトワ。
 ちなみに商品に関しては、フローラにもらっていたお金で買ってあげたという。

「ははは、それはよかったな。でもまさかトワも女神さまから、お金をもらってなかったとは」

 彼女の隣に座って、肩をすくめながら笑う。

「ほんとびっくりだよ。シンヤがいなかったら完全に一文無しで、冒険どころの話じゃなかった……。というかシンヤ、どうやってお金を稼いだの? 昨日転生してきたばっかって言ってたよね?」
「うーん、まあ、そこはいろいろがんばってだな、――ははは……」

 ちょこんと首をかしげてくるトワに、笑ってごまかそうと。
 フローラにもらっているのは、ヒモっぽくて恰好がつかない。なのでここはだまっておくことにしたのであった。

「あと金銭面もそうだけど、人脈の方もヤバいよね。そのおかげでフローラさんやリアちゃんが味方になってくれて、わたしが自由になれたわけだし。あれ? そう考えるともしかしてわたしの補佐ほさ役、すごく優秀なんじゃ……」

 トワは両腕を組み、うんうんとうなずきながら感心しだす。そして畏怖いふの念がこもったまなざしを向けてきた。

「ははは、まあ、それほどでもあるかもな。ちなみにオレのスキルは予知という、女神さまから一目おかれたやつだぜ」
「しかもすごいスキル持ってたー!? あわわ!? 極光きょっこうのスキルに、できる補佐役までついてくるこの私への優遇ゆうぐうっぷり! 転生系でよくある、異世界で無双できるやつが始まっちゃってる感じかな! あぁ、私の時代が来てる……!」

 両ほおに手を当て、うっとりするトワ。

「シンヤくん、ここにいたのね」

 そうこうしていると別行動をしていたフローラが、声をかけてきた。

「フローラ? どうしたんだ?」
「はい、これ、頼まれてた武器よ」
「おっ、サンキュー」

 フローラが手渡してくれた武器を受け取る。
 それはさやにおさまった二本のナイフ。封印の森の神殿に向かう道中、戦闘が起こる可能性が。なのでシンヤも戦えるよう、フローラに武器の調達を頼んでいたのだ。

「それがシンヤの武器?」
「とりあえずのやつな。ちょうど今、どういうバトルスタイルにするか迷ってるところなんだよ。ガチガチの近接武器にするか、弓とかの遠距離武器にするか」

 ナイフに関してはウルフ戦のとき、案外使いやすかったから。小回りが利き、予知による回避からのカウンターが決めやすい。なのでメイン武器にしてもよかったが、せっかくなのでいろいろ迷っているところなのであった。

「それともここは思い切って魔法という選択肢もあるが、実際のところオレが使えるかどうかなんだよな。フローラ、そこのところどうなんだ?」
「そうね。魔法を使うには、この世界に存在する純粋なエネルギーであるマナが肝心かんじんなの。マナ自体は誰もが体内で生成できるんだけど、問題はそこから。無色のエネルギーに属性や形といった方向性を与えて、確固とした力に変える。この工程には生まれながらの素質とセンスが問われ、かなり難しいのよね」

 フローラはほおに手を当てながら、くわしく説明してくれる。

「ちなみに私は風と氷の魔法が得意よ。これは人によって得手不得手が全然違って、基本相性があってないと生成できないの」
「いろいろややこしそうだから、魔法はいったんスルーで……。となると、うーん、でもどうせなら自分の好きな武器で戦いたいよな。フローラ、たとえばなんだけど、こういうコンパクトな形で、引き金一つで遠距離攻撃できる武器とかないよな」

 銃の情報をジェスチャーしながらたずねる。
 さすがにこの世界の技術レベルではまだなさそうだが、ダメもとで聞いてみた。

魔動銃まどうじゅうのことかしら?」
「銃!? マジであるのか!」

 まさかのありそうな気配に、フローラの両肩をつかむ。

「――ええ……、ユーリアナ王国の近くに魔法の文化が発達した大国があって、そこで生み出されたものらしいわね。魔法を弾とし、それを打ち出すみたいな」

 そんなシンヤの食いつきように押されつつも、教えてくれるフローラ。

「おぉ! なんかそれっぽい! フローラ! オレのメイン武器、その魔道銃ってやつにしたいんだが!」
「でもかなり貴重で高価なものらしく、手に入れるのは難しいかもしれないわね」
「な、なんだって!? くっ、だがここであきらめるわけには……。フローラ、なんとかならないか?」

 手に入れるコネもそうだが、今のシンヤに肝心かんじんの資金を用意できるのか。このままでは手に入れられるのがいつになることやら。さすがに待ちきれないため、フローラに聞いてみることに。

「そうね、王都に戻れば調達してあげられるかもしれないわ」
「ほんとか! 頼む! どうしてもほしいんだ! この通り!」

 バッと土下座して、必死に頼み込む。
 さすがにそんな高価なモノをねだるのは、どうかと思う。ただでさえお金をもらってヒモみたいになっているのに。しかしどうしても欲しいため、もはやなりふりかまっていられなかったのだ。

「ちょっと、シンヤくん!? 頭を上げて!?」

 シンヤのまさかのアクションに、うろたえるフローラ。

「シンヤ、必死過ぎない? 少し引くレベルなんだけど」

 トワもトワであきれたまなざしを、シンヤに向けてくる。

「なんとでも言え! こっちは銃をぶっ放せる夢の時間がかかってるんだ! そのためならプライドなんてしったことか! 足だって喜んでなめさせてもらう所存だぜ!」

 fpsゲームが大好きだったシンヤゆえ、銃には尋常でないあこがれがあるのだ。もしそんな銃でこの異世界を駆けめぐれるなら、もはやほかになにもいらないほど。ゆえにそのためなら、なんだってしてみせる気であった。

「そこまでしなくていいから!? わかったわ。シンヤくんがそんなにもほしいなら、なんとかしてあげる」

 フローラはやれやれとほほえみながらも、引き受けてくれた。

「フローラさま、マジ女神! もう一生ついていきます!」
「もう、大げさなんだから……」

 シンヤの熱烈なあがめっぷりに、フローラは目をふせテレだす。

「フローラさん、だめだよ! 甘やかしちゃ!」

 するとトワがシンヤたちの間に割り込み、止めに入ってきた。
 せっかくうまくいっていたのに、まさかの邪魔を。これには抗議の視線を送るしかない。

「おい、トワ、お前!?」
「シンヤもフローラさんの優しさに付け込んで! もしかして持ってたあのお金も……」

 トワはシンヤにビシッと指を突き付けて文句を。そして険しいまなざしを向け、いぶかしんできた。

「ギクッ!?」
「まあまあ、トワちゃん、私が好きでやってることだから」
「それならせめてなにか要求しないと! そこまでしてあげるんだったら、どんな無理難題を押し付けても許されるよ!」
「確かにトワの言い分も一理あるな。フローラ、そういうことだ。銃のためなら下僕げぼくにだってなってやるぜ!」

 立ち上がり胸板をトンっとたたきながら、宣言する。

「さすがにそこまではわるいから……、うーん、どうしよう……」

 ほおに手を当て、頭を悩ませるフローラ。

「してほしいこととか、なんでもいいぞ」
「な、なんでも? それじゃあ! でもこれは私の趣向に走りすぎてるような!?」

 フローラはなにか思いついたのか、ぱぁぁと表情を明るくする。だがすぐさま恥ずかしそうに目をぎゅっと閉じ、思いとどまってしまった。

「――やっぱり、考えておくわね……」
「今思いついたのはいいのか?」
「――え、ええ……、さてと! 要件も済んだし、もう少し準備の方を進めてくるわね。また、あとでね、二人とも」

 そしてなにやら逃げるように去っていく、フローラなのであった。
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