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1章3部 勇者の初戦闘
さわがしい朝のひと時
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「シンヤー!」
「はっ!? なんだ!? なんだ!?」
いきなり扉がバンっと開く。それにより寝ていたシンヤは目を覚まし、上体を勢いよく起こした。
ここは宿屋の一室であり、窓からはまぶしい朝日が差し込んでいる。
「シンヤ、いつまでも寝てないで、助けに来てよー!?」
するとトワがあわてて駆け寄り、シンヤの上着をクイクイと引っ張りながら泣きついてくる。
彼女の必死な様子を見るに、相当まずいことが起こったみたいだ。
「なにかあったのか!? もしかして敵襲か!?」
「そういうのじゃないけど、ピンチなの! 今初対面の女の子と二人きりで、何話せばいいかわからなくてー!」
「おいおい、そんなどうでもいい理由で起こされたのかよ。オレはトワをここまで運んだ分、夜遅かったんだからもう少し休ませてくれよ」
「わたしにとっては一大事だもん! こっちはただでさえ人見知りが激しいのに、初対面でしかも二人っきりだよ! ハードルが高すぎるよー!?」
シンヤの肩をぶんぶん揺さぶりながら、うったえてくるトワ。
「そうなのか? だとしてもフローラはかなり接しやすい子だと思うけどな」
「それはわかるよ。おどおどしっぱなしのわたしに、打ち解けようと何度もやさしく話しかけにきてくれるもん。だけどそれをうまく返せなくて、すごい申しわけないというか」
トワは目をふせ、手をもじもじさせる。
「そこまで気にしなくていいと思うがな。まあ、とりあえず勇者としてこれからやっていくなら、コミュ力を上げとかないとだろ? ということでがんばれ。オレはもう少し寝とくから」
彼女の肩に手を置き、投げやりなエールを送っておく。そしてそのまま再び寝ようとするが。
「シンヤー!? そう言わず助けてよー!?」
トワはシンヤの胸板をポカポカたたきながら抗議を。
「えー、正直めんどくさいし」
「シンヤはわたしの補佐役なんでしょ!」
「いやいや、そんな日常生活のところまで、補佐しないといけないのかよ!? さすがにそこらへんは対象外だろ!?」
「あら、起きたのね、シンヤくん。おはよう、ゆっくり休めたかしら?」
言い合っていると、フローラが部屋に入ってきた。そしてにっこりほほえみあいさつをしてくれる。
「それが無理やり起こされてさ。それよりわるいな。人見知りのトワの相手をさせて」
「全然そんなことないわよ。朝からこんなかわいい女の子と話せて、とても有意義な時間を過ごさせてもらってるわ」
「そうだといいんだが。とっつきにくいかもしれないが、愛想尽かさず仲良くしてやってくれると助かる」
トワの頭をポンポンしながら、頼み込む。
すると彼女は両手で頭を押さえ、はずかしそうな視線でうったえてきた。
「ちょっと、シンヤー!?」
「ふふふ、お願いされるまでもないわね。個人的に彼女とはすごく仲よくしたいし、少しでも距離を近づけられるようがんばるわ。ということで改めてよろしくね! トワちゃん!」
フローラは屈託のない満面の笑顔で、トワに手を差し出す。
「は、はい! よ、よろしくお願いします!」
対してトワは緊張しながらも、おずおずとフローラの手をとる。
とりあえずトワのことは、彼女に任せておけば大丈夫そうだ。
「ふふふ、それにしてもシンヤくん、トワちゃんのお兄さんみたい。仲がよさそうで、なんだかほっこりしちゃうわね」
ふとフローラがほおに手を当てながら、ほほえましげに笑った。
「まあ、世話のかかる妹を持つ兄の苦労を、絶賛実感中だけどな」
これまでの彼女のことを振り返り、ため息交じりに肩をすくめるしかない。
「誰が世話のかかる妹よ!?」
「いや、どこからどう見てもトワだろ」
詰め寄り文句を言ってくるトワの頭を、くしゃくしゃとなでる。
「むー」
「こらこら、かわいい妹さんをいじめないの」
「ヘイヘイ、さてと、すっかり目が覚めたことだし起きるか」
フローラにたしなめられながらも、シンヤはベッドから出ることに。
「ふふふ、シンヤくんもさっきのトワちゃんと一緒で、寝グセがついてるわよ。ほら、ここなんてこんなにはねちゃって。直してあげようか?」
するとフローラがおかしそうに笑いながら、シンヤの寝ぐせのところをさすってくれた。
「いや、自分でやるよ。ってかそういうフローラは、お姉さんぽいよな」
彼女は温厚で包容力がある心優しい女の子。しかもおまけにしっかりしていて、とても頼りがいがあるときた。なのでお姉さんみがすごかったといっていい。
「ふふふ、そうかしら? そういうことなら、お姉ちゃんにいっぱい甘えてくれてもいいのよ。シンヤくんやトワちゃんなら大歓迎だから!」
両腕を迎え入れるように広げ、得意げにウィンクしてくるフローラ。
どことなくうれしそうであった。
「ははは、気が向いたらな」
ほおをポリポリかきながら、テレくさげに笑う。
実際のところフローラには金銭的な面もふくめ、ヒモレベルで甘やかせてもらっているのだ。ゆえにこれ以上甘えるのは、申しわけなかった。
「それじゃあ、シンヤくんも起きたことだし、これからのことについて作戦会議しましょうか。トワちゃんをこのままの状態にしておくのも、かわいそうだしね」
「そうだな。トワの件、脱走してからどうなってるんだ?」
「幸いそこまで大事になっていないわ。今は邪神の眷属の封印や魔人の出現、教会内に侵入した女性とか、対応することが多すぎてあまり力を入れられないみたい。あと街の人々にこの情報は伝えられてないようね。ただでさえ今の状況でみなが怖がっているのに、これ以上不安材料を広げるわけにはいかないという判断みたい」
「事情は分かるが、普通はもう少しトワの方へ力を入れるべきなんじゃないのか? 一応危険人物が脱走したわけだし、それで街の人たちに危害が加わる可能性だってあるだろ?」
「――えっと……、見た感じへっぽこそうだし、そこまで大したことはできないだろうという見解だそうよ」
フローラは視線をそらし、どこか言いにくそうに答える。
「なんだかわたしすごくなめられてない!?」
これには驚きを隠せず、ツッコミを入れるトワ。
ただ彼女には悪いが、その意見には同意せずにはいられなかった。トワは見た感じ人畜無害の可憐な少女なのだから。
「それはそうなってもしかたないな」
「ちょっと納得しないでよ!?」
うんうん頷いていると、トワがシンヤの腕をクイクイ引っ張りながら抗議を。
「とはいえ街には兵士たちが目を光らせてるから、動きはかなり制限されるでしょうね」
「邪神の眷属の封印について、なにか進展は?」
「そっちは残念ながらとくにないわね。魔人は姿を見せず、相変わらず周辺の魔物が狂暴化してるぐらいかしら。あと近々封印した場所に、結界の調子を見に行くらしいわね」
「トワはこの件についてなにかわかってることはないか?」
「わたしはすぐつかまって牢屋に入れられてたから全然……」
トワは目をふせ首を横に振る。
「――女神さまはなにか情報をくれなかったのかよ……?」
そんな彼女の耳元に小声でたずねる。
「――ううん、あそこに飛ばされただけで、なにも……」
「――そうか……。トワ、とりあえずオレたちの方針は、魔人や怪しい連中が企んでいる邪神の眷属復活を阻止するでいいか?」
「うん、勇者としてそんなあきらかにやばそうな案件、見過ごすわけにはいかないもん!」
シンヤの問いに、トワは胸元近くで両手をぐっとにぎりながら宣言を。
「じゃあ、オレらも本格的にこの件に首を突っ込むとしてだ。だけど肝心のトワが自由に動けないのがつらいな。あと調査とかするにも、どこから当たればいいのやら」
肩をすくめながら頭を悩ますしかない。
「それならやっぱりリアちゃんに、協力してもらうべきかしらね。封印のこととかくわしいはずだし。なにか思いあたる節とかあるかも」
「確かに。いったんリアに話を聞きに行くか。トワと無事合流できたことも報告したいしな」
こうしてシンヤたちはリアへ会いにいくことに。
「はっ!? なんだ!? なんだ!?」
いきなり扉がバンっと開く。それにより寝ていたシンヤは目を覚まし、上体を勢いよく起こした。
ここは宿屋の一室であり、窓からはまぶしい朝日が差し込んでいる。
「シンヤ、いつまでも寝てないで、助けに来てよー!?」
するとトワがあわてて駆け寄り、シンヤの上着をクイクイと引っ張りながら泣きついてくる。
彼女の必死な様子を見るに、相当まずいことが起こったみたいだ。
「なにかあったのか!? もしかして敵襲か!?」
「そういうのじゃないけど、ピンチなの! 今初対面の女の子と二人きりで、何話せばいいかわからなくてー!」
「おいおい、そんなどうでもいい理由で起こされたのかよ。オレはトワをここまで運んだ分、夜遅かったんだからもう少し休ませてくれよ」
「わたしにとっては一大事だもん! こっちはただでさえ人見知りが激しいのに、初対面でしかも二人っきりだよ! ハードルが高すぎるよー!?」
シンヤの肩をぶんぶん揺さぶりながら、うったえてくるトワ。
「そうなのか? だとしてもフローラはかなり接しやすい子だと思うけどな」
「それはわかるよ。おどおどしっぱなしのわたしに、打ち解けようと何度もやさしく話しかけにきてくれるもん。だけどそれをうまく返せなくて、すごい申しわけないというか」
トワは目をふせ、手をもじもじさせる。
「そこまで気にしなくていいと思うがな。まあ、とりあえず勇者としてこれからやっていくなら、コミュ力を上げとかないとだろ? ということでがんばれ。オレはもう少し寝とくから」
彼女の肩に手を置き、投げやりなエールを送っておく。そしてそのまま再び寝ようとするが。
「シンヤー!? そう言わず助けてよー!?」
トワはシンヤの胸板をポカポカたたきながら抗議を。
「えー、正直めんどくさいし」
「シンヤはわたしの補佐役なんでしょ!」
「いやいや、そんな日常生活のところまで、補佐しないといけないのかよ!? さすがにそこらへんは対象外だろ!?」
「あら、起きたのね、シンヤくん。おはよう、ゆっくり休めたかしら?」
言い合っていると、フローラが部屋に入ってきた。そしてにっこりほほえみあいさつをしてくれる。
「それが無理やり起こされてさ。それよりわるいな。人見知りのトワの相手をさせて」
「全然そんなことないわよ。朝からこんなかわいい女の子と話せて、とても有意義な時間を過ごさせてもらってるわ」
「そうだといいんだが。とっつきにくいかもしれないが、愛想尽かさず仲良くしてやってくれると助かる」
トワの頭をポンポンしながら、頼み込む。
すると彼女は両手で頭を押さえ、はずかしそうな視線でうったえてきた。
「ちょっと、シンヤー!?」
「ふふふ、お願いされるまでもないわね。個人的に彼女とはすごく仲よくしたいし、少しでも距離を近づけられるようがんばるわ。ということで改めてよろしくね! トワちゃん!」
フローラは屈託のない満面の笑顔で、トワに手を差し出す。
「は、はい! よ、よろしくお願いします!」
対してトワは緊張しながらも、おずおずとフローラの手をとる。
とりあえずトワのことは、彼女に任せておけば大丈夫そうだ。
「ふふふ、それにしてもシンヤくん、トワちゃんのお兄さんみたい。仲がよさそうで、なんだかほっこりしちゃうわね」
ふとフローラがほおに手を当てながら、ほほえましげに笑った。
「まあ、世話のかかる妹を持つ兄の苦労を、絶賛実感中だけどな」
これまでの彼女のことを振り返り、ため息交じりに肩をすくめるしかない。
「誰が世話のかかる妹よ!?」
「いや、どこからどう見てもトワだろ」
詰め寄り文句を言ってくるトワの頭を、くしゃくしゃとなでる。
「むー」
「こらこら、かわいい妹さんをいじめないの」
「ヘイヘイ、さてと、すっかり目が覚めたことだし起きるか」
フローラにたしなめられながらも、シンヤはベッドから出ることに。
「ふふふ、シンヤくんもさっきのトワちゃんと一緒で、寝グセがついてるわよ。ほら、ここなんてこんなにはねちゃって。直してあげようか?」
するとフローラがおかしそうに笑いながら、シンヤの寝ぐせのところをさすってくれた。
「いや、自分でやるよ。ってかそういうフローラは、お姉さんぽいよな」
彼女は温厚で包容力がある心優しい女の子。しかもおまけにしっかりしていて、とても頼りがいがあるときた。なのでお姉さんみがすごかったといっていい。
「ふふふ、そうかしら? そういうことなら、お姉ちゃんにいっぱい甘えてくれてもいいのよ。シンヤくんやトワちゃんなら大歓迎だから!」
両腕を迎え入れるように広げ、得意げにウィンクしてくるフローラ。
どことなくうれしそうであった。
「ははは、気が向いたらな」
ほおをポリポリかきながら、テレくさげに笑う。
実際のところフローラには金銭的な面もふくめ、ヒモレベルで甘やかせてもらっているのだ。ゆえにこれ以上甘えるのは、申しわけなかった。
「それじゃあ、シンヤくんも起きたことだし、これからのことについて作戦会議しましょうか。トワちゃんをこのままの状態にしておくのも、かわいそうだしね」
「そうだな。トワの件、脱走してからどうなってるんだ?」
「幸いそこまで大事になっていないわ。今は邪神の眷属の封印や魔人の出現、教会内に侵入した女性とか、対応することが多すぎてあまり力を入れられないみたい。あと街の人々にこの情報は伝えられてないようね。ただでさえ今の状況でみなが怖がっているのに、これ以上不安材料を広げるわけにはいかないという判断みたい」
「事情は分かるが、普通はもう少しトワの方へ力を入れるべきなんじゃないのか? 一応危険人物が脱走したわけだし、それで街の人たちに危害が加わる可能性だってあるだろ?」
「――えっと……、見た感じへっぽこそうだし、そこまで大したことはできないだろうという見解だそうよ」
フローラは視線をそらし、どこか言いにくそうに答える。
「なんだかわたしすごくなめられてない!?」
これには驚きを隠せず、ツッコミを入れるトワ。
ただ彼女には悪いが、その意見には同意せずにはいられなかった。トワは見た感じ人畜無害の可憐な少女なのだから。
「それはそうなってもしかたないな」
「ちょっと納得しないでよ!?」
うんうん頷いていると、トワがシンヤの腕をクイクイ引っ張りながら抗議を。
「とはいえ街には兵士たちが目を光らせてるから、動きはかなり制限されるでしょうね」
「邪神の眷属の封印について、なにか進展は?」
「そっちは残念ながらとくにないわね。魔人は姿を見せず、相変わらず周辺の魔物が狂暴化してるぐらいかしら。あと近々封印した場所に、結界の調子を見に行くらしいわね」
「トワはこの件についてなにかわかってることはないか?」
「わたしはすぐつかまって牢屋に入れられてたから全然……」
トワは目をふせ首を横に振る。
「――女神さまはなにか情報をくれなかったのかよ……?」
そんな彼女の耳元に小声でたずねる。
「――ううん、あそこに飛ばされただけで、なにも……」
「――そうか……。トワ、とりあえずオレたちの方針は、魔人や怪しい連中が企んでいる邪神の眷属復活を阻止するでいいか?」
「うん、勇者としてそんなあきらかにやばそうな案件、見過ごすわけにはいかないもん!」
シンヤの問いに、トワは胸元近くで両手をぐっとにぎりながら宣言を。
「じゃあ、オレらも本格的にこの件に首を突っ込むとしてだ。だけど肝心のトワが自由に動けないのがつらいな。あと調査とかするにも、どこから当たればいいのやら」
肩をすくめながら頭を悩ますしかない。
「それならやっぱりリアちゃんに、協力してもらうべきかしらね。封印のこととかくわしいはずだし。なにか思いあたる節とかあるかも」
「確かに。いったんリアに話を聞きに行くか。トワと無事合流できたことも報告したいしな」
こうしてシンヤたちはリアへ会いにいくことに。
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