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   1章2部 勇者との出会い

スヤスヤ勇者と一日の終わり

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 深夜となり現在リザベルトの街中は、誰も出歩いていないため静まりかえっている。なのでトワを探していた兵士たちも見当たらず、堂々と街中を歩けていた。
 そんな中、宿屋を目指すシンヤは。

「よし、もうすぐ宿屋にたどりつくぞ。それにしてもほんとぐっすりだよな」
「――もう食べられないよー、えへへー」

 背中ですやすやと幸せそうに寝ているトワの方を見る。
 そう、現在シンヤは、彼女をおんぶしてあげている状態。ではなぜこうなったのかというと。


「そろそろ街のほとぼりも、いったん冷めたぐらいだろうな。そろそろ戻るとするか」

 ここはさきほどからいる、穏やかに流れる川辺の近く。だんだん夜も深くなり、人々が寝静まり始めたころ合い。さすがにトワを探していた兵士たちも、いったん切り上げていることだろう。
 だがそこで異変に気付く。

「って、トワ!? 大丈夫か?」
「ふにゃ、どうしたのー、しんやー」

 なんとトワがウトウトして、今にも寝てしまいそうだったのだ。

「おいおい、さっきまであんなに元気だったじゃないか。なのにどうして急に」

 そう、少し前まで彼女は、子供のようにはしゃぎまくっていたという。川辺で水遊びや、ほたるといった生き物の観察をしたり、花をめでたり。よく目を輝かせながら手を振り、シンヤ見て見てと報告してきたものだ。
 ちなみにシンヤは腰を下ろしながら、そんな彼女をほほえましげにながめのんびりしていたのであった。

「えっへへ、どうやらはしゃぎすぎたみたいー。もう、眠くて眠くてしかたないよー。あわわ」

 目をこすりながら、かわいらしいあくびをするトワ。

「もう少し我慢してくれ。さすがにこの今のヤバげな状況で、野宿は危険だろ。寝るなら宿屋についてからな」
「もう、だめー、一歩も歩けないー」

 彼女はヘナヘナとその場にへたれこむ。
 どうやらもう限界らしい。

「おいおい、それだとどうやって街に戻る気だよ?」
「うーんと、しんや、おんぶしてー」

 トワはちょこんと小首をかしげる。そしてシンヤの方へ両腕を伸ばしながら、おねだりしてきた。

「オレも疲れてるんだぞ。勘弁かんべんしてくれよ」
「しんやー、しんやー、おねがいー」

 シンヤの服をクイクイと引っ張り、子供のように駄々だだをこねてくるトワ。

「ああ、もうげんかいー、あとは、よろしくー」

 どうしたものかと頭を悩ませているのもつかの間、トワがシンヤの方へもたれかかりそのまま寝てしまった。

「マジかよ。――はぁ……、しかたないな」

 このまま放置していくわけにもいかず、シンヤは彼女をおんぶすることに。




「――ははは……、まさか本当に宿屋まで背負わされるとは……」

 途中で起きて歩いてくれないかと期待したが、ずっとこの調子。寝心地がよかったのか熟睡じゅくすいしているという。

「まあ、少し役得感はあるけどさ」

 そう、おんぶしている関係上、シンヤの背中にはマシュマロのようなやわらかい感触が。しかも彼女はたまに寝ぼけてぎゅっと抱き着き、さらに押し付けられる形に。なのでそうわるいことばかりではなかった。

「ようやく転生初日がおわるのか」

 星空をながめながら、今日のことを振り返る。

「すごく長いというか、濃密な一日だったな」

 リザベルトの街に来る前だけでも濃かったのに、そこからも怒涛どとうのイベントの数々。もはや転生初日は、ハラハラドキドキの連続で大満足といってよかった。

「ははは、でも全然わるくないけどな。むしろどんっとこいって感じにさ」

 これから先もこんな日々が続くと思うと胸がはずみ、思わずにやけてしまう。
 そうこうしていると宿屋が見えてきた。あそこは確かフローラが部屋をとってくれた場所のはずだ。

「やっとたどり着いた。さすがにもうくたくただぜ」

 宿屋のドアに手をかけ、建物内へと入る。
 中のカウンターの方には、店主と思わしき中年の男がいる。そして店内に設置されたテーブル席の方には、知っている顔が。

「あら、シンヤくん、おかえりなさい……」

 フローラは目をこすりながら、少し眠そうに出迎えてくれた。

「フローラ!? もしかしてずっと待っててくれたのか?」
「いろいろ心配だったからね。でも、よかった、無事その子を見つけて帰ってこれて」
「はっ!? フローラ。こいつはその……、わるいやつじゃなくて……。脱走も事故みたいなものでさ……」

 彼女は教会の方にいたため、いろいろトワに関する情報を知っているはず。脱走したことも当然耳に入っていることだろう。なのでなんとか説得しなければ、牢屋ろうやに連れ戻される可能性が。

「ふふふ、安心して、シンヤくん。私はあなたたちの味方よ」

 あわあわしていると、フローラが胸に手を当てまぶしい笑顔を向けてくれた。

「ってことはトワのことを信じてくれるのか?」
「うーん、どちらかというと、シンヤくんを信じているというべきかしらね。あなたは全然わるい人にみえないもの」

 フローラはシンヤの顔をぐいっとのぞきこみながら、自身のほおに指を当て小首をかしげる。

「そんなシンヤくんが、必死になって助けようとしてる女の子でしょ? ならこの子もいいこなんだろうなってね」
「ああ、いいやつだよ。いろいろ残念なところはあるけど、人々の笑顔を守るためにがんばってる勇者さまだ」
「ふふふ、じゃあ、私の目に狂いはなかったってことね! とりあえず彼女を、ちゃんとしたところで寝かせてあげましょう。宿代はこの子の分も、念のため払ってるから」

 得意げにウィンクするフローラ。そしてトワの髪をやさしくなでながら、提案してくれる。

「そうだな」

 彼女に案内された部屋の中へと入る。ここは二人用の部屋らしく、フローラが現在借りている一室らしい。
 シンヤは片方のベッドにトワを寝かせて、ふとんをかけてあげた。

「ふう、一時はどうなることかと思ったが、無事合流できて本当によかった」

 心地よさそうに眠るトワを見ながら、改めて安堵あんどの息をつく。
 教会につかまり、さらにはそこから脱走するという予想外のオンパレード。しかもヘタしたら、合流するのがずっと先になる可能性があったのだ。いろいろあったが、とりあえずは一安心であった。

「私も驚いたわ。教会に行ったら、シンヤくんが探していた女の子がつかまってたんだもの。どうにかしようとしたんだけど、教会側の事情が事情だけに手が出しにくくてね。明確な確証もなかったわけだし」

 申しわけなさそうに目をふせるフローラ。

「あとシンヤくんのこともびっくりしたのよ」
「オレのこと?」
「だって封印の巫女であるリアちゃんの護衛をやってたじゃない。この街に来たばかりのキミが、あんな大役にいているなんて。しかもちらっと見かけたとき、リアちゃんと仲よさそうにしてたし。もしかしてもともと彼女と面識があったとか?」

 フローラはほおに指を当て、首をかしげてくる。

「いや、今日初めて会った子だ」
「それで護衛役にまで上り詰め、おまけにあのなつかれよう。シンヤくん、恐ろしい子だわ」

 フローラは口元に手を当て、なにやらシンヤに畏怖の念を。

「うーん、これからどうするか話し合いたいところだけど、夜も遅いし今日は解散しましょうか。シンヤくんも疲れたでしょう?」
「――ははは……、さすがにもうくたくたで今すぐベッドに飛び込みたい気分だよ」

 両腕をぐっと伸ばし、ぐったりする。

「ふふふ、今朝の件といい、リアちゃんの護衛の件といい、そしてこの子のことも。今日はよくがんばったわね。ゆっくり休むといいわ」

 するとフローラがシンヤの頭をなでながら、ねぎらってくれた。
 そんなまるでやさしいお姉ちゃんみたいな彼女のアクションに、気恥ずかしくなってしまう。

「――あ、ああ……」
「それじゃあ、シンヤくん、おやすみなさい。また明日ね!」

 そしてフローラはにっこりほほえみ、寝る前のあいさつを。

「おやすみ、フローラ」

 こうして最後は美少女に見送られながら、長い長い一日を終えるシンヤなのであった。

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