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1章2部 勇者との出会い
リアという女の子
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ここは一般公開されている教会の礼拝堂。
そこで一人の少女が、ステンドガラスに差し込む光を浴びながら人々に演説していた。
「はるか昔この世界に突如として現れた邪神。邪神との戦いで多大な被害を受けた人類でありましたが、世界を守護する女神さまの力を借りてなんとか倒し、平和を勝ち取りました。しかし邪神の怨念は残り、次々と魔物を生み出しては人々の身を脅かす今の世の中に」
その少女こそ、先ほど会った女の子のリア。彼女は粛然とした態度でかつての歴史をかたっていく。
ちなみに急きょ護衛になってしまったシンヤはというと、彼女のすぐ後ろに控え演説を聞いていた。
「そして今から150年前、勢力を強めた邪神側の進行により世界は再び混沌へ。しかしユーリアナ王国の王家の血筋を持つ勇者が、女神さまの力を借りて立ち上がり劣性だった戦況が好転。魔物を率いていたリーダーの邪神の眷属を激闘の末、リズベルトの街の奥地にある封印の森に追いこみ、封印することに成功したのです」
おそらくここでかたられている女神様とは、シンヤたちを転生させてくれたあの女神なのだろう。彼女はこれまでこの世界の人々のために、力を貸し続けてきたみたいだ。
「しかしみなさんご存じのとおり、今その封印になにかしらの異常が見られ始めました。その影響のせいか封印の森に魔のよどみが発生し、ここら周囲の魔物の動きが活発になっている」
リアは瞳を閉じ、深刻そうに説明する。
「ですがみなさんご安心ください! かつてリアの先祖は巫女として勇者さまに力を貸し、さらにこの封印の地を任されました。その使命は当代の封印の巫女であるリアが必ず果たします。決して邪神の思い通りになどさせません!」
そしてリアは瞳をバッと見開き、胸に手を当てながら力強く宣言を。
「おお、さすが巫女さま」
「まだ若いのにりっぱだねー」
「ありがたや」
そんな見事に演説をこなす彼女に対し、人々はみな感服していた。
(シスター見習いの普通の女の子だと思ったら、まさかあんなすごい子だったなんて……)
目の前の現実に改めて驚くしかない。
リアの正体。それはなんと邪神の眷属の封印に大きくかかわる、封印の巫女だったのだ。そのため地位もかなり高いらしく、この聖地の象徴ともいえる存在らしい。そんな彼女ゆえ、護衛の一人や二人いてもおかしくないというものだ。実際、今の物騒な状況に、護衛をつけないかという話があったらしい。リアは大げさだと断っていたが、シンヤを助けるためその話を利用してくれたのである。おかげでリアに気に入られ、しばらく護衛を頼まれた冒険者としての立場を手に入れることに。それにより先ほどの怪しまれるピンチを、回避できたというわけだ。
(ははは、協力者としては最高すぎないか? これならトワって子に対する誤解を解くのも、わりと簡単かもしれないぞ)
彼女のことはただ教会関係の普通の子供ぐらいにしか思っていなかったため、そこまで期待していなかった。口裏を合わせてもらったり、軽く情報を集めてもらったりする程度だと。しかしまさかこんなにも大物だったとなると、話は別。事態が一気に好転したかもしれなかった。
そんな感じでいろいろ考えていると、演説がおわったらしい。
リアがそっと話かけてくる。
「シンヤさん、護衛お疲れ様です。いったんリアの部屋に行きましょう」
「ああ」
そしてリアに連れられ、彼女の部屋へと案内された。
中は執務室のような部屋。作業用の机があり、来客用のソファーやテーブルが設置されている。あとところどころにかわいい小物などが置かれており、部屋の中は女の子っぽい感じにアレンジされていた。ここは封印の巫女に与えられている一室らしく、普段リアはここにいるとのこと。
「ふう、封印の巫女として、うまくやれてましたかね」
胸に手を当て一息つきながら、少し不安そうにたずねてくるリア。
なのですごかったと、心からの賞賛を伝える。
「ははは、それはもうバッチリ決まってたよ。もう大人顔負けで、お兄さん感服しっぱなしだった」
「ほんとうですか?」
「もちろん、よくがんばったな」
「あ、えへへ」
頭をやさしくなでてあげると、リアが気持ちよさそうに目を細める。
「それにしても驚いたよ。リアのこと普通のシスター見習いの子共なのかと思ってたら、まさか封印の巫女さまとかいうすごい女の子だったなんて」
「でもリアはそこまですごくないですよ。たまたま巫女としての力がほかの人よりも濃いだけで、まだまだいたらない身。なんとか封印の巫女の体裁を保とうとするのが、精一杯。もっと精進しないと」
リアはテレくさそうに視線をそらす。そして胸元近くで両手をぐっとにぎりしめ、己に喝を入れた。
「おぉ、まだこんなに小さいのになんて立派なんだ。よくそこまでがんばれるな。オレだったらきっと投げ出してるよ、ははは」
「封印の巫女の必要性は、重々理解してますから。この役目は人々が平穏に暮らすために欠かせないもの。リアのがんばりで人々の未来を明るいものにできるんですから、これほどすばらしいことはありません。それに150年前、我々の先祖に託してくれた勇者さまの信頼。さらには女神さまの寵愛に報いるためにも、封印の巫女の役目をまっとうする所存です!」
リアは祈るように手を組みながら、万感の思いを告げる。
「えへへ、ですが少し思うところもあるんですよね。封印の巫女の業務でなかなか遊べないし、なによりこの地を離れるわけにもいかない。だから街の外にあこがれが強いんです。旅とか一回でもいいからしてみたいなって……」
そんな立派な志のリアであったが、ふと表情に陰りを見せる。
彼女はまだ十歳ぐらいの女の子ゆえ、そう思ってしまうのも無理はない。むしろ我慢して責務をこなしているのだから、よくやっているほうであろう。
「――リア……」
「すみません。なんだか空気を重くしちゃったみたいで……。そうだ! 実はすごいお姉さんに王都のお土産ということで、お菓子をいっぱいいただいたんです! よかったら一緒に食べませんか?」
リアはテーブルに置いてあったおしゃれな箱を手に取り、午後のティータイムの提案をしてくれる。
「いいのか? 貴重なものなのに」
「一人で食べるより、誰かと食べた方がおいしいですから!」
シンヤの心配に、屈託のないまぶしい笑顔を向けてくれるリア。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
それからリアが紅茶とお菓子を用意してくれ、始まるティータイム。
「さすが王都のお菓子。見た目がかわいくて、食べるのがもったいないぐらいですね! ぱく、おいしい、ほっぺたが落ちちゃいそうです!」
リアはクッキーを手に取り、目をキラキラさせる。そして小動物のようにほお張ると、両ほおに手を当てうっとりし始めた。
彼女に続きシンヤも一口クッキーを。ほどよい甘さで、いかにも高そうな代物であった。
「たしかにこれはうまいな」
「聞いた話によると都会の方では、カフェというおしゃれな店内でお茶するところがあるみたいなんですよ! いいですよね! 一度でいいからぜひ行ってみたいです!」
両腕をブンブン振りながら、はしゃぐリア。
「きっと優雅なティータイム気分を味わえるんだろうな」
「ですね。ああ、それにしてもおいしい」
「ははは、ほんと幸せそうだな。よし、今度またこの街を訪れるときは、リアのためにいっぱいお菓子をお土産に買ってくるよ」
幸せそうにクッキーをほお張るリアの姿を見ていると、自然といろいろ買ってきてあげたくなってしまっていた。
「ほんとうですか! やったー! 約束ですよ!」
するとリアは両腕を上げながら、喜びをあらわに。
「任せとけ」
「――あ、そうでした。今牢屋にいる勇者さまの件なんですけど」
そんな感じで和やかなティータイムを過ごしていると、リアが思い出したかのように報告を。
そこで一人の少女が、ステンドガラスに差し込む光を浴びながら人々に演説していた。
「はるか昔この世界に突如として現れた邪神。邪神との戦いで多大な被害を受けた人類でありましたが、世界を守護する女神さまの力を借りてなんとか倒し、平和を勝ち取りました。しかし邪神の怨念は残り、次々と魔物を生み出しては人々の身を脅かす今の世の中に」
その少女こそ、先ほど会った女の子のリア。彼女は粛然とした態度でかつての歴史をかたっていく。
ちなみに急きょ護衛になってしまったシンヤはというと、彼女のすぐ後ろに控え演説を聞いていた。
「そして今から150年前、勢力を強めた邪神側の進行により世界は再び混沌へ。しかしユーリアナ王国の王家の血筋を持つ勇者が、女神さまの力を借りて立ち上がり劣性だった戦況が好転。魔物を率いていたリーダーの邪神の眷属を激闘の末、リズベルトの街の奥地にある封印の森に追いこみ、封印することに成功したのです」
おそらくここでかたられている女神様とは、シンヤたちを転生させてくれたあの女神なのだろう。彼女はこれまでこの世界の人々のために、力を貸し続けてきたみたいだ。
「しかしみなさんご存じのとおり、今その封印になにかしらの異常が見られ始めました。その影響のせいか封印の森に魔のよどみが発生し、ここら周囲の魔物の動きが活発になっている」
リアは瞳を閉じ、深刻そうに説明する。
「ですがみなさんご安心ください! かつてリアの先祖は巫女として勇者さまに力を貸し、さらにこの封印の地を任されました。その使命は当代の封印の巫女であるリアが必ず果たします。決して邪神の思い通りになどさせません!」
そしてリアは瞳をバッと見開き、胸に手を当てながら力強く宣言を。
「おお、さすが巫女さま」
「まだ若いのにりっぱだねー」
「ありがたや」
そんな見事に演説をこなす彼女に対し、人々はみな感服していた。
(シスター見習いの普通の女の子だと思ったら、まさかあんなすごい子だったなんて……)
目の前の現実に改めて驚くしかない。
リアの正体。それはなんと邪神の眷属の封印に大きくかかわる、封印の巫女だったのだ。そのため地位もかなり高いらしく、この聖地の象徴ともいえる存在らしい。そんな彼女ゆえ、護衛の一人や二人いてもおかしくないというものだ。実際、今の物騒な状況に、護衛をつけないかという話があったらしい。リアは大げさだと断っていたが、シンヤを助けるためその話を利用してくれたのである。おかげでリアに気に入られ、しばらく護衛を頼まれた冒険者としての立場を手に入れることに。それにより先ほどの怪しまれるピンチを、回避できたというわけだ。
(ははは、協力者としては最高すぎないか? これならトワって子に対する誤解を解くのも、わりと簡単かもしれないぞ)
彼女のことはただ教会関係の普通の子供ぐらいにしか思っていなかったため、そこまで期待していなかった。口裏を合わせてもらったり、軽く情報を集めてもらったりする程度だと。しかしまさかこんなにも大物だったとなると、話は別。事態が一気に好転したかもしれなかった。
そんな感じでいろいろ考えていると、演説がおわったらしい。
リアがそっと話かけてくる。
「シンヤさん、護衛お疲れ様です。いったんリアの部屋に行きましょう」
「ああ」
そしてリアに連れられ、彼女の部屋へと案内された。
中は執務室のような部屋。作業用の机があり、来客用のソファーやテーブルが設置されている。あとところどころにかわいい小物などが置かれており、部屋の中は女の子っぽい感じにアレンジされていた。ここは封印の巫女に与えられている一室らしく、普段リアはここにいるとのこと。
「ふう、封印の巫女として、うまくやれてましたかね」
胸に手を当て一息つきながら、少し不安そうにたずねてくるリア。
なのですごかったと、心からの賞賛を伝える。
「ははは、それはもうバッチリ決まってたよ。もう大人顔負けで、お兄さん感服しっぱなしだった」
「ほんとうですか?」
「もちろん、よくがんばったな」
「あ、えへへ」
頭をやさしくなでてあげると、リアが気持ちよさそうに目を細める。
「それにしても驚いたよ。リアのこと普通のシスター見習いの子共なのかと思ってたら、まさか封印の巫女さまとかいうすごい女の子だったなんて」
「でもリアはそこまですごくないですよ。たまたま巫女としての力がほかの人よりも濃いだけで、まだまだいたらない身。なんとか封印の巫女の体裁を保とうとするのが、精一杯。もっと精進しないと」
リアはテレくさそうに視線をそらす。そして胸元近くで両手をぐっとにぎりしめ、己に喝を入れた。
「おぉ、まだこんなに小さいのになんて立派なんだ。よくそこまでがんばれるな。オレだったらきっと投げ出してるよ、ははは」
「封印の巫女の必要性は、重々理解してますから。この役目は人々が平穏に暮らすために欠かせないもの。リアのがんばりで人々の未来を明るいものにできるんですから、これほどすばらしいことはありません。それに150年前、我々の先祖に託してくれた勇者さまの信頼。さらには女神さまの寵愛に報いるためにも、封印の巫女の役目をまっとうする所存です!」
リアは祈るように手を組みながら、万感の思いを告げる。
「えへへ、ですが少し思うところもあるんですよね。封印の巫女の業務でなかなか遊べないし、なによりこの地を離れるわけにもいかない。だから街の外にあこがれが強いんです。旅とか一回でもいいからしてみたいなって……」
そんな立派な志のリアであったが、ふと表情に陰りを見せる。
彼女はまだ十歳ぐらいの女の子ゆえ、そう思ってしまうのも無理はない。むしろ我慢して責務をこなしているのだから、よくやっているほうであろう。
「――リア……」
「すみません。なんだか空気を重くしちゃったみたいで……。そうだ! 実はすごいお姉さんに王都のお土産ということで、お菓子をいっぱいいただいたんです! よかったら一緒に食べませんか?」
リアはテーブルに置いてあったおしゃれな箱を手に取り、午後のティータイムの提案をしてくれる。
「いいのか? 貴重なものなのに」
「一人で食べるより、誰かと食べた方がおいしいですから!」
シンヤの心配に、屈託のないまぶしい笑顔を向けてくれるリア。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
それからリアが紅茶とお菓子を用意してくれ、始まるティータイム。
「さすが王都のお菓子。見た目がかわいくて、食べるのがもったいないぐらいですね! ぱく、おいしい、ほっぺたが落ちちゃいそうです!」
リアはクッキーを手に取り、目をキラキラさせる。そして小動物のようにほお張ると、両ほおに手を当てうっとりし始めた。
彼女に続きシンヤも一口クッキーを。ほどよい甘さで、いかにも高そうな代物であった。
「たしかにこれはうまいな」
「聞いた話によると都会の方では、カフェというおしゃれな店内でお茶するところがあるみたいなんですよ! いいですよね! 一度でいいからぜひ行ってみたいです!」
両腕をブンブン振りながら、はしゃぐリア。
「きっと優雅なティータイム気分を味わえるんだろうな」
「ですね。ああ、それにしてもおいしい」
「ははは、ほんと幸せそうだな。よし、今度またこの街を訪れるときは、リアのためにいっぱいお菓子をお土産に買ってくるよ」
幸せそうにクッキーをほお張るリアの姿を見ていると、自然といろいろ買ってきてあげたくなってしまっていた。
「ほんとうですか! やったー! 約束ですよ!」
するとリアは両腕を上げながら、喜びをあらわに。
「任せとけ」
「――あ、そうでした。今牢屋にいる勇者さまの件なんですけど」
そんな感じで和やかなティータイムを過ごしていると、リアが思い出したかのように報告を。
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