3 / 28
勢いで出たら死にかけた話
3. 童 話 礎の少女
しおりを挟む童話『いしずえのしょうじょ』
昔々あるところに、悪霊に困っている国がありました。
人里に降りてきては悪さをする悪霊に、村長は大変困っていました。
「誰か悪霊をどうにかできる者はおらんのか」
そこに少女が手を上げました。
「お父様、私が悪霊を閉じ込めてみせましょう」。
少女は村長の娘でした。
村長は激しく反対しましたが、少女は言いました。
「村のためです 行かせてください」
少女の決意が固いので、村長は娘を行かせることにしました。
暗いくらい森の中。
かさかさ、がさがさ音がします。
「おばけさん おばけさん どこにいますか?」
おばけの返事はありません。
深い深い森の中。
ぎーぎー・ごうごう音がします。
「おばけさん おばけさん いたら返事して?」
おばけの返事はありません。
高い高い枯れ木の下。
がたがたごろごろ音がします。
「おばけさん おばけさん ここにいる?」
「だれだあ~!!」
「きゃああああ!」
枯葉にかこまれた石からぬるりと出てきたおばけに、少女はびっくりして飛び上がってしまいました。
どてーん! と 尻もちをついたあと、見上げたおばけの体は朽ちていました。
そんなおばけに、少女はぎゅっと驚きましたが、すぐに起き上がると、おばけに向かって言いました。
「おばけさん、ここで何をしているの?」
「おれさまはここにいるだけだ! ここが家だからだあ!」
「お友だちは居ないの?」
「しつれいな奴だな! ほっといてくれ!」
「村の人が怖がってるの。この木や草が枯れたのはあなたのせい?」
「おれさまは、腹が減っているのだあ~!」
なんということでしょう。
おばけは草を食べて生活していたのです。
『いたずらもきっと、お腹がすいていたのね?』と思った少女は、持っていたリンゴをひとつ、あげました。
「これ食べて? おいしいわよ」
おばけはリンゴを食べました。
「もっと食べたいぞ!」
「わかったわ。じゃあもってくるね」
「おばけさん、リンゴをどうぞ。おいしいよ」
「おばけさん、パンをもってきたの」
「おばけさん、干肉をもってきたよ」
次の日も次の日も、少女はおばけに食事をあげ続けました。
少女はおばけと毎日お話をしました。
食べ物もたくさんあげました。
おばけは満足したのか、森からでなくなり、悪戯することもなくなりました。
すっかり時間が過ぎて、おばけと仲良くなったころ。おばけは少女に言いました。
「いつもさみしい。よるはさみしい。いっしょにいてほしい」
「……いっしょに。ねてほしいの?」
とても寂しそうなおばけはこくんと頷きました。
「いいよ、いっしょにねてあげる」
少女も頷きました。
夜が来ました。
月明かりがしっとりと場を照らす中、おばけは石のおうちの中から言いました。
「おやすみ、ありがとう」
とても嬉しそうな声でした。
少女は嬉しくなり、ゆっくりとおばけの家の蓋をしめると、そこに俯せて言いました。
「おやすみなさい。おばけさん」
朝が来て、夜が来て、また朝が来ました。
何回も何回も夜が来て、朝が来ました。
季節がひとつまわったころ。
すっかり平和になった村のほうから、ある日、一人の青年がおばけの森の奥を訪れました。
そこには草木で埋もれたお墓のまえに、少女の石像が蓋を塞ぐように横たわっていました。
「おや、これは立派な石像だ。封印の石像かな」
それを町の人に伝えると、街の人は大喜び。
「あの子のおかげだったのか」
「あの子が悪戯おばけを止めてくれたのか!」
街の人は、少女の行動を称え『いしずえのしょうじょ』と語り継ぐようになりました。
☆☆
「……え、終わり? えっ?」
エリックさんの小屋にあった本を読み終えて、わたしは思わず声を上げていた。
最後のページをめくりなおしてみるが、やっぱり続きはない。
固い背表紙を前に、もう一度。
一人きりの部屋で眉を寄せ、続きを探すように最後のページを行ったり来たり。
「えっ、これで終わり? なんか後味悪くない? 少女死んでるじゃん! わあ」
正真正銘の結末だと確認して、ひとりで抗議の声を上げた。
……うーん……
なんというか、後味が悪い話だった。
童話というものは昔から、こういうテイストのものが多いが、まさか、少女の自己犠牲? が万歳される結末だとは思わない。
眉を寄せながら、固い表紙のそれをくるくる。
丁寧な造りのおもて表紙を見つめ──、疑問は、ぼそぼそと零れ落ちていく。
「…………とりあえず要約すると~「えさを与えないでください・食べられてしまいます」「要求はエスカレートします、騙されないようにしましょう」って言いたいのかな?」
少女はおばけに優しすぎ。
干し肉はもったいないと思うの。
でもこれ、他のメッセージもあるよね?
「……それとも「クレクレ詐欺に注意しましょう」ってアレ? にしても村人の反応はちょっとなくない? まあ自己責任っていえばそうかもしれないけど、恩恵受けてるんでしょー? えー、なんかモヤっとする~」
ベッドの上でころころブツブツ。
本をぱたんと閉じて、そして──腕組みである。
「……そもそもおばけと仲良くなろうとか、思わないし近づかないし、触らぬ神にたたりなしって言うじゃん……? というか、なんでおにーさん、こんな本持ってるんだろ……?」
眉間にしわを寄せて呟いて、疑惑の視線で本を見つめた。
読んで確信したが、どこをどうしても幼い子供向けの書物だ。あれぐらいの成人男性が持っているような本ではない。それらを踏まえて推測を立てるとしたら──
「…………もしかしてあの人、別居してる娘がいるとか……?」
ぼやーっと考えてみる。
まあ、顔面は美麗カラットの彼だ。
性格はやや難ありだとは思うが、妻子がいてもおかしく…………いや……うーん……、でも……、ここで独りで生活してるわけで……だとすると……
「…………ああ見えて離縁経験済みだったり……? いや、それにしては若くない? だってあの人、せいぜいにじゅう────」
────どんっ!
「…………!?」
わたしの一人会議を遮って。
突如扉が開かれ──いや、蹴り開けられた。
ドカドカと、けたたましい靴音を立ててなだれ込んでくる、見覚えのある兵装の男たちに飛び起きる。
──セント・ジュエルの兵士……!
本を片手に、構え警戒の姿勢を取るわたしの前。
見覚えのある兵士の一人が、ぬらりと前に出て──にたりと笑った。
「……ミリアさまぁぁ、みつけましたよお~。いけませんねえ、我々から逃げるなんてえ」
「──リュウダ……!」
────ピンチは、お構いもなしにやってくる。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる