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4 取引をしよう
第59話「あっあっ、んっんっ。」
しおりを挟む「────んっ。」
昼。
「────アッ。」
声。
「あっ。
あっ。
ん……っあっ……!」
ミリアのそれと
「…………へえ、もっと?」
エリックのそれが
「あっ。あっ……!?
やだっ……!
ああっ、あっ?
あっ。あっ。
んっ……あぁっ。」
「…………ミリア……これは?」
────店内に響く。
彼女の声は焦り上ずり
「あっ! あっ! やだっ。
ちょっ……、とっ
まっ……てっ!」
「…………もう少し、入れようか? ほら」
彼の声は、余裕そのもの
はあはあとした息遣い
篭る熱気に 滴る汗
「あっ、やだっ! だめっ
あっあっあっあっ。」
「ダメって言われても……君が求めたんだろ?」
彼のそれには、加減がない。
耐える彼女の表情は、真っ赤に紅潮し────
ギリギリのところで 持ち堪えていた。
腕が
倒れる
ギリギリのところで。
「────んんんんああああああ!
ねえ待って!? ちょっとまって!?
こんなギリギリのとこで力キープするっ!?
ちょっとキミッ……大人げなさすぎるのでは!?」
「……大人げないことを求めたのは君だろ?」
「ちっとも動かない! ちっとも動かない!
あああああっ腕がぷるぷるッ!
ぷるぷっ。
あああああああっ!
もう無理ああああああああ!」
「…………だから言ったんだよ。
何度やらせるつもりなんだ、『腕相撲』」
あと1ミリ。
もう少しで『負け』というところで力をキープし続けている、黒髪くせ毛の青年エリック・マーティン……
いや、エルヴィス・ディン・オリオン盟主は、絶妙な加減で腕に力を込めた。
お察しの通りである。
『契約』を終えた彼女が求めたのは『腕相撲』。
言われ戸惑うエリックに向かって、彼女は『マジェラの儀式だから』と嘘八百を言い放ち、そのまま試合へと縺れ込ませた。
もちろん、マジェラにそんな儀式はない。
しかし
ソレを知らないエリックは──
『馬鹿げてる』と思いつつも、ソレに付き合い手を貸したのである。
エリックが内心
『…………本当か?』と思いつつ手を貸して早数回。
顔を真っ赤にして
『ふんぬううう!』と唸るミリアに、彼は呆れ気味に目を向けると
「…………なあ。
君の力で俺に勝てるわけないだろ?
もういい加減にしたらどうだ?」
「……わかっ、……ってるけど、
奇跡っ、
がっ、
あっ!」
「──あるわけがない。筋肉量が違う」
力はそのまま。
プルップルの彼女からそっぽを向いて、彼は頬杖を突きながら言い放つ。
ミリアから『勝負!』と言われたその時には、魔法を使って挑んでくるかと思いもしたが、彼女は純粋に力で挑んできた。
馬鹿にされているのか、おちょくられているのか、それともただの馬鹿なのか。
彼女の真意はまるでわからないが────
それにしても『弱すぎる』。
右手一本。
身を入れなくとも、片手で頬杖を着きながらでも、余裕しゃくしゃく。
カウンターを挟んで、顔を真っ赤にしながら力を込めている彼女の『全力』を疑うレベルだ。
まあそもそも性別が違うのだから
腕力が違うのは明らかであるが
『こんなにも違うのか……?』と子供を相手にしているような気分であった。
しかし彼女は諦めない。
カウンターすれっすれのところで、今もぷるぷる耐え忍ぶミリアの手と、その顔をちらり。
エリックは「また」ため息交じりに口を開いて、
「…………なあ。
…………確認なんだけど、
君、これで全力なんだよな?」
「全力じゃないように見えますかなっ!?」
「……見えないよ。
見えないから聞いてるんじゃないか」
勢いよく返ってくる言葉に、エリックは静かに首を振る。
……ハァ……
そしてこぼれる、お決まりのため息。
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