*婚前なれそめファンタジー* 盟主は手綱を握りたい! ※ 猜疑心強めのいじわる盟主は、光の溺愛男に進化する ※

保志見祐花

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第56話「目を覚ましてこっとぉぉぉぉぉぉぉぉん!ううっ!こっとぉぉぉぉぉぉぉんっ」

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 ミリアは────愕然と呟いていた。


「──うそ……でしょ……?」
「…………」


 服飾工房・ビスティー店内。 
 ずん……と落ちる重い空気。
 

 問屋が述べた事実に、カウンターの内側で頭を抱えるのは、ミリア・リリ・マキシマム。この店の着付け師であり、カウンセラーだ。

 彼女は今、生きた心地がしなかった。



 そんな彼女の向かい側。
 カウンターに頬杖を付き、綺麗な顔を険しく砥ぐのは、スパイ エリック・マーティンである。



 割り引き目的で
 布の問屋に出かけたのが、約1時間ほど前。


 (ふふー♡ 荷物持ちもいるし、安く買えるし、スペシャルラッキー♪)と、意気揚々と店を訪れたミリアに、衝撃が走った。






 問屋のおばさんは言う。
 『────ごめんねえ
  先月からシルクと綿もあがったのよ~』


 ミリアは動揺した。
 『なんでっ!? 
  えっ、シルク……は、わからなくもないけど! なんで綿までっ?』


 エリックは問う。
 『…………それ。いきなりですか?
  それともじわじわと?』



 困る常連のミリアと、見慣れぬ『ミリアの付き添い』におばさんは答えた。


 『んン~……

  シルクはまあ
  大体この時期にハネるからねえ。
  
  でも、綿のほうはいきなりでねー?
  先々週まで普通だったのに、発注かけたら『在庫不足』って言われちゃってねぇ。こっちも、困ってるのよ~。夕飯一品減らさないとだわぁ。
  
  ……ごめんねぇ、ミリアちゃん。
  メーターあたり15メイル増しなの。こっちも生活があるの。悪いわね?』





 ──と言われ、問屋を後にして、十数分。




「まって。ありえん。
 単価15メイル上がるとか、マジであり得ん。
 何が起こった? なんで?」


 店について早々。
 買い込んだ素材もそのまま、手で頭を抱え、どこかを見ながらぶつぶつと呟くミリア。




「え、だって綿だよ、綿。
 庶民と我々のお友だちが、どうして……!
 いままでこんなことっ……、ああああああああ!」
「……………………」


 やかましいミリアの隣で、黙り込んで考えるのはスパイのエリックだ。
 彼女の叫びを右から左へスルーして、口元を覆いながらカウンターを睨みつけている。



(──『毛皮』と言われてそれだけに注目していたけど……糸じゃなくて綿とシルクまで?
 …………これは、想定外──
 というか、予想していなかったな……)

「ねえ、なんで綿? 
 なんだろ、えええ? 何に使うの、そんな在庫切れるなんてことあるっ?」
 


 共に服飾産業に大きく関わる彼ら。

 カウンターを挟み、ビスティーの店内は──
 静寂と騒音ではっきりと分かれていた。



(…………綿の高騰は痛いだろう。服飾だけじゃなく、寝具や他の産業にも関わってくるよな? 素材自体の価格の底が上がると、商品として出す時にはさらに上乗せしないと利益が出ない。

 …………うちの産業の6割は服飾だぞ。
 ……どうするんだよ。
 下手をしたら、来期の税収にだって響くことになる)


「ねえコットン?
 あなた、いつからそんな高い女になったの?
 わたしと『ずっ友だょ……!』って言ってくれたのは嘘だったのコットン!」




(──いや……、ここは逆に捉えるべきだ。
 ”毛皮に引き続き、綿とシルクの高騰に気づけた”ことは、大収穫じゃないか。
 おそらく、まだ報告も上がっていないはず。

 同じ服飾の材料で、同じ時期に高騰している。
 これが、無関係だとは……思えないよな)


「確かにね?
 綿は気持ちいいけどさあ、毎年こんなことなかったのに!
 どこかでボーンの大売り出しでもやってるのかなー!?
 それとも、流行ってる?
 いやそんな話は聞いてない!

 ────コットン! 
 ねえ、目を覚ましてコットン!」



 黙るエリック。
 布に向かって話しかけるミリア。



 はっきり言って店内はカオスである。
 側から見るなら多いに楽しい光景であるが、本人たちはそれどころではなかった。


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