*婚前なれそめファンタジー* 盟主は手綱を握りたい! ※ 猜疑心強めのいじわる盟主は、光の溺愛男に進化する ※

保志見祐花

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2 ミリアとエリック

第23話 いまたべてる……

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 ポリッ……こっくん。ざわざわざわ……



 止まる時間・急に聞こえ出した周りの雑踏。
 ぽそっと呟いたミリアの口元で、揚げパスタが乾いた音を立て──……



「いま、たべている。………え。どうしよ。もうお腹いっぱいなんだけど、あ、まって? 吐き出してきたらいい?」

「ちょ。ちょっと待って」
「ううううん、ごめん~。おにーさんは二軒目行けるかもしれないけど、わたしはもう入らないっすね……」

「……いや。まって」
「っていうか駄目だ! わたしこのあと仕事だし! 今おひるで中抜けで!」
「……えーと、待ってください」


 ミリアの言動に、思わず『待った』の手を出す国家スパイ。

 ──まさかそう返ってくるとは思わなかった。

 瞬時に今までのデータを集積しつつ(いや、でも、それもそうか)と納得しかけた頭が(次の話だってわからないか? 普通)と否定的な考えもはじき出し、エリックは顔を作ることも忘れて彼女に戸惑いの表情を向けると、


「あー、えーと。今じゃなくて。君とゆっくり話がしたいのは、今度。『機会をとって、ゆっくり出来ないか』って言いたいんだけど」
「あ、今度? こんどか、そっか。ごめん、今かと思った☆」
「………………」
(…………調子が狂うな…………)


 『ごめんごめん、勘違い☆』と笑うミリアに、エリックは微笑みに苦笑いを隠した。

 ──この、『想定した結論にまっすぐ着地できない切り替えし』。
 斜め上から飛んでくるというか、なんというか。予想ができないというか。咄嗟に返せないというか。

 決して会話が成立ないわけではないのだが、返ってくる言葉が予想外過ぎて、こちらは軌道修正を余儀なくされる。


(…………これは、初めてのケースだ)


 縫製ギルドがどうとか言う前に、このミリアという女に手こずりそうだ──と思う半面。

 静かに 心の中で火が灯る。
 『簡単ではない』。
 簡単ではないがこれぐらいを・・・・・・転がす方が・・・・・・面白い・・・・・


(…………彼女の、この感じからして、おしゃべりには事欠かなそうだし。やや向こう見ずなところはあるが、頭は回るほうのようだし。店でも相当の情報を聞いているに違いない)


 ひそかな闘志を色目に隠して。
 エリックは、くすりと彼女に笑いかける。
 

「……君、仕事は何時まで? そのあとはどうだろう?」
 
「うん、別にいいよー。ごはんかー、どうしよっ……か…………?」
「ああ、……嬉しいよミリア。君は話が上手だし、話題もありそうだ。きっと楽しい食事になる」

「……………………うん。」
「…………楽しみだ。いつにしよう? 君の話を、ゆっくり……聞きたい」
「………………ん。」


 ──絡まる視線、送るのは好色の微笑み。
 手こずったが、もう少し。
 エリックはその雰囲気にもうひとこと。
 色気と、キモチを込めた声で──放つ。


「…………なんでもいいんだ。『君のこと、周りのこと』。……あとは……そうだな? 『仕事の話』とか。──俺に、聞かせ」
「うん。」


 ──────がたんっ!
 甘みを利かせたおねだりのその途中。
 唐突に腰を浮かせて立ち上がる彼女に、目を見開いた。


「……ミリア?」


 そのただ事じゃない雰囲気に、エリックが声を上げた時。
 ────ミリアの視線は遥か向こう。猫のように目を見開き、彼の背後をとらえながら、


「…………これ。持ってて」


 言うなり、速足で駆け出していった。




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