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しおりを挟む「嫁入り道具は囚人服だけ……って、我ながら笑えない冗談だとは思うのですが」
「俄かには信じがたいが……その姿を見るに、キミの話は本当なんだろうな」
「お目汚し、大変失礼いたしました」
ずんぐりむっくりなドワーフにあるまじき、ダシの抜けた鶏ガラみたいな姿を見せてしまったことを思い出し、私は深々と頭を下げた。
そして改めて謝罪の弁を述べるけれど、彼はさも興味なさそうに「ふーん」と軽く受け流すだけだった。ていうかベッドに腰掛けているせいで、私との距離が近い。いや近過ぎる。あの、こっちはまだ裸なんですけど!?
「でもそんなキミがどうして裸でここに? さすがに城の誰かが応対したと思うんだけど」
「それが到着早々に、メイド姿のエルフさんに捕まってですね……」
この城に来てからの出来事を、私は掻い摘んで説明することにした。
「お風呂に投げ込まれて綺麗になった後は、マッサージやらアロマやらフルコースを受けることになりまして。そうしたらつい、ウトウトと寝てしまい……」
「気付いたら僕のベッドの中だったと?」
「はい……」
疑わし気な表情で私の顔を覗き込むコルティヴァ様。いや、本当なんです。だからそんな目で見ないで、私の心が折れそう。
「……キミに一つ確認してもいいかな。キミの対応をしたエルフの名前は?」
「名前、ですか? えっと、たしかオーキオさんとか言ったような……どうしたんですか、魂まで抜けそうな大きな溜め息を吐いて」
名前を聞いた瞬間、ガックリと頭を俯かせるコルティヴァ様。……私、何かやっちゃった?
「オーキオ……予想はしていたけれど、やはり彼女か。はぁ、なるほどね」
「お知り合いですか?」
「知らないエルフはいないだろうね。……というより、僕の姉さんだ」
「……うぇ!?」
のっそりと立ち上がると、コルティヴァ様は棚にずらりと並べられた写真立てからひとつを抜き出した。そして私に見せてくれたのは――。
「あっ、この人です!」
「やっぱり……」
コルティヴァ様は私の返答に頭を抱えてしゃがみ込んだ。
写真立ての中には、どこかコルティヴァ様の面影を残した美青年が映っている。その隣には私を応接してくれた美人の女性エルフが立っていた。あれ? でもどうしてお姉様がメイド姿に……?
「彼女はかなりの悪戯好きでね。キミを騙すためにメイドを装ったんだろう」
「うえぇええ!?」
まさかのお姉様の悪戯に、私は心底驚いた。
「姉さんは僕よりも頭が冴えているし、責任感もある。だから普段はしっかりしているんだけど……おかげで昔から苦労させられてばかりでね……」
はぁと深い溜息と共に肩を竦めるコルティヴァ様。
「あの人には後できつく言っておくよ。まったく、こっちは例の問題でゴタゴタ続きだっていうのに……」
うわぁ、なんだか大変そうだ。苦労性なんだなぁ。
「あぁ、すまない。色々と行き違いはあったものの、大変失礼な物言いをしてしまったのは事実だ。僕の非礼をどうか許してほしい」
話題を変えるように、彼は深々と頭を下げた。
「ともかく、そのままでは風邪をひいてしまう。あの馬鹿姉さんを呼んでくるから、まずは服を着よう」
そう言ってコルティヴァ様は隣の部屋に顔を出すと、少ししてメイド服を着た女性エルフさんが現れた。どうやらずっと隣室で待機していたらしい。
というかこの人、もしかしてドア越しに私の反応を楽しんでいた?
「はーい! それじゃお姉さんがヴェルデちゃんに合う衣装を選んであげるわね!」
「ちょっと、オーキオ姉さん!? どうして彼女を裸で放置したんですか!」
「あら? 性欲の枯れた我が弟に潤いをあげようと思ったんだけど。ヴェルデちゃんのうら若きボディに興奮した?」
「……枯れてるのは否定しませんけど、利用された彼女が可哀想でしょうに」
そうボヤくコルティヴァ様だけど、私は特に気にならなかった。だってこのオーキオさん、凄くフレンドリーで優しいのだ。
たしかに王様のベッドに放置されたのは酷かったけれど、理由があったみたいだし。何より私のことをドワーフであることや、体が貧相などという偏見の目で見てこない。
あ、でも気になることがひとつだけ――。
「あのぅ……」
「なんだい?」
こっそりとコルティヴァ様に耳打ちした。
「私ってそんなに魅力がありませんでしたか?」
「……ノーコメントだ」
その十数分後。
私はシンプル装飾をした新緑色のドレスを身にまとっていた。コルティヴァ様が選んでくれたもので、私の瞳の色に合わせてくれたそうだ。
「エルフ王の名において、ヴェルデを我が国民として迎え入れよう」
着替え終わった私は、王城にある食堂で晩餐会に招待された。私を取り囲むはこの国の重鎮達。きっと事前に根回しを済ませていたのだろう、誰も私の正体に驚く者はいない。
「陛下のご厚情に心より感謝いたします」
カーテシーで頭を垂れる私にコルティヴァ様は満足そうな笑みを浮かべ、ワイングラスを高く掲げてみせた。
「今日は新しい国民の誕生と、ドワーフとの友好を祝って……乾杯!!」
テーブルいっぱいに並ぶ美食の数々に、舌鼓を打つ。
どれもエルフの国特有の食材や調味料を使っているだけあって、どこか異国情緒を感じさせられた。食べたことのない食材もいくつかあったけれど、私の舌にはとても新鮮な味だ。……まぁ、食事自体十年ぶりだからそう感じるのかもしれないけれど。
そんなことを考えていると、コルティヴァ様がワイングラスを片手にこちらへとやってきた。
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