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生まれた時から、私の瞳は緑色をしていた。
普通のドワーフであれば、炎と同じ赤色の目しか持たないはずなのに。その珍しさもあって、“緑”を意味する言葉からヴェルデと名付けられた。
そんな私はドワーフ国の第一王女として家族や国民に愛され、何不自由なく暮らしていた。八歳のときに聖女の力に目覚めてからは、よりいっそう皆に大切にされるようになった。
――この身に宿っていた禁忌の力が判明し、十年もの間、地下の牢獄に閉じ込められるまでは。
「……来たか、我が姪ヴェルデよ」
エルフの王と出逢う数日前のこと。
地の底にある檻から引きずり出された私は、叔父の前に立たされていた。
着ているなんて表現したら笑っちゃうくらいの、布切れ一枚の囚人服姿で。女の子からしちゃいけない匂いもする。
玉座の上からそんな私を冷ややかに見下ろす叔父は、十年の年月でだいぶ威厳が増したように見える。
「あの、どうして叔父様がそこに? 父上は……」
「王であるお前の父たちは数年前に死んだ。二人共に鍛冶仕事での事故でな」
「なんですって!?」
思わず玉座の前まで駆け寄り、叔父に訴えかける。
「嘘よ! そんなの冗談ですよね!? どうして……ッ!?」
「……お前はこの期に及んでまで他人の心配か」
「――ッ!?」
私の激情を嘲笑うかのように、叔父は鼻で笑ってみせた。そんな小馬鹿にする態度に、私は怒りのあまり言葉が出てこない。でもこのままではいけないと、震える足を必死に踏みとどまらせた。
「ふん。そういうお優しいところも全く変わらないな」
「それで? 用があって私を呼んだのでしょう?」
何を言われようと今は反抗する時じゃないと、ぐっと堪えて話を本題に戻す。
「あぁ、そうだったな」
叔父は玉座からゆっくりと立ち上がると、私の目前まで歩み寄り……そして頬を思い切り叩いた。乾いた音が謁見の間に響き渡る。
「いっ……」
痛みに頬を押さえた私は叔父から一歩後ずさりする。だがその直後、今度は下腹部に激痛が走り思わず膝をついた。すると私の髪を引っ張りあげて上を向かせながら、叔父が言い放った。『この呪われた娘が』と――。
「お前はかつて、我が国で最も重い罪を犯した」
「……はい」
声色に家族の愛情なんてものは一切感じられない。まるで叱られた子供のように、私の視線は自然と下を向いていく。
「お前は聖女でありながら、『鍛冶の炎』を穢したんだ」
建国の時代より受け継がれてきた神聖な炎。
ドワーフは無骨な外見に反し、手先が器用な種族だ。その長所をさらに伸ばすため、その炎を使って鍛冶技術を発展させてきた。
だから鍛冶の炎は私たちドワーフにとって、掛け替えのない国宝だ。この国では王よりも尊く、神に近い存在といえる。
「おい、聖女の役目を言ってみろ」
「鍛冶の炎を……守護をすることです……」
我が国における聖女とは、女神様から炎の魔力を授かった魔女の別名だ。
聖女たちは火の精霊と力を合わせることで『鍛冶の炎』をコントロールし、ドワーフはより高度な鍛冶ができるようになった。
だから私たち聖女は崇高な存在とされたし、歴代の聖女達もその力を国のために捧げてきた。
「だがお前のしたことはなんだ? 聖女の炎の魔力を失うどころか、国宝の炎を危うく消しかけたんだぞ!?」
もちろん、実際に私が聖火を消そうと思ったことなんてない。だけど私の意思に関係なく、聖火の炎は私が近寄るだけで弱まってしまった。
そのため私は、神を冒涜した大罪人という烙印を押され、十年もの間を地下の牢獄で過ごすことになってしまったのだ。
「贖いとして、その身が朽ち果てるまで、あの地獄に放り込んでおいても良かったのだが――喜べ。お前の新たな使い道が、このたび決まった」
聖火を害せば、たとえ姫や聖女でも罪人だ。投獄だけで済んだのも、両親である当時の王と王妃が温情を掛けてくれたからだ。でもそのお父様やお母様は、もうこの世に居ない……。
「国力の衰えたエルフの国と、新たに交易を始めることになった。それも我が国にかなり有利な条件でな」
エルフに食糧を援助する見返りに、鍛冶で使う薪を貰うことになったらしい。その薪は森に生きる彼らにとって、命の次に大切な資源だ。エルフの国はそこまで危機的な状況ってことなのかしら……。
「そこでお前はエルフの国へ行き、両国を結ぶ友好の架け橋になってもらう」
「……っ!」
その瞬間、私は背筋が凍るような錯覚を覚えた。
冷酷なこの人がエルフと仲良くするですって? そんなこと、微塵も思っていないくせに。
第一、私にはあの忌まわしい力がある。まさかエルフの国でも、災いをもたらしてこいとでも?
「幸いにも相手は選り好みはしないらしいのでな……くくく」
そんな私の反応を楽しむように、叔父は歪んだ笑みを貼りつける。けれど今の私に拒否する術はない。
「決行は今日。すでに馬車は手配した。さぁ、エルフの慰み者になってくるといい」
普通のドワーフであれば、炎と同じ赤色の目しか持たないはずなのに。その珍しさもあって、“緑”を意味する言葉からヴェルデと名付けられた。
そんな私はドワーフ国の第一王女として家族や国民に愛され、何不自由なく暮らしていた。八歳のときに聖女の力に目覚めてからは、よりいっそう皆に大切にされるようになった。
――この身に宿っていた禁忌の力が判明し、十年もの間、地下の牢獄に閉じ込められるまでは。
「……来たか、我が姪ヴェルデよ」
エルフの王と出逢う数日前のこと。
地の底にある檻から引きずり出された私は、叔父の前に立たされていた。
着ているなんて表現したら笑っちゃうくらいの、布切れ一枚の囚人服姿で。女の子からしちゃいけない匂いもする。
玉座の上からそんな私を冷ややかに見下ろす叔父は、十年の年月でだいぶ威厳が増したように見える。
「あの、どうして叔父様がそこに? 父上は……」
「王であるお前の父たちは数年前に死んだ。二人共に鍛冶仕事での事故でな」
「なんですって!?」
思わず玉座の前まで駆け寄り、叔父に訴えかける。
「嘘よ! そんなの冗談ですよね!? どうして……ッ!?」
「……お前はこの期に及んでまで他人の心配か」
「――ッ!?」
私の激情を嘲笑うかのように、叔父は鼻で笑ってみせた。そんな小馬鹿にする態度に、私は怒りのあまり言葉が出てこない。でもこのままではいけないと、震える足を必死に踏みとどまらせた。
「ふん。そういうお優しいところも全く変わらないな」
「それで? 用があって私を呼んだのでしょう?」
何を言われようと今は反抗する時じゃないと、ぐっと堪えて話を本題に戻す。
「あぁ、そうだったな」
叔父は玉座からゆっくりと立ち上がると、私の目前まで歩み寄り……そして頬を思い切り叩いた。乾いた音が謁見の間に響き渡る。
「いっ……」
痛みに頬を押さえた私は叔父から一歩後ずさりする。だがその直後、今度は下腹部に激痛が走り思わず膝をついた。すると私の髪を引っ張りあげて上を向かせながら、叔父が言い放った。『この呪われた娘が』と――。
「お前はかつて、我が国で最も重い罪を犯した」
「……はい」
声色に家族の愛情なんてものは一切感じられない。まるで叱られた子供のように、私の視線は自然と下を向いていく。
「お前は聖女でありながら、『鍛冶の炎』を穢したんだ」
建国の時代より受け継がれてきた神聖な炎。
ドワーフは無骨な外見に反し、手先が器用な種族だ。その長所をさらに伸ばすため、その炎を使って鍛冶技術を発展させてきた。
だから鍛冶の炎は私たちドワーフにとって、掛け替えのない国宝だ。この国では王よりも尊く、神に近い存在といえる。
「おい、聖女の役目を言ってみろ」
「鍛冶の炎を……守護をすることです……」
我が国における聖女とは、女神様から炎の魔力を授かった魔女の別名だ。
聖女たちは火の精霊と力を合わせることで『鍛冶の炎』をコントロールし、ドワーフはより高度な鍛冶ができるようになった。
だから私たち聖女は崇高な存在とされたし、歴代の聖女達もその力を国のために捧げてきた。
「だがお前のしたことはなんだ? 聖女の炎の魔力を失うどころか、国宝の炎を危うく消しかけたんだぞ!?」
もちろん、実際に私が聖火を消そうと思ったことなんてない。だけど私の意思に関係なく、聖火の炎は私が近寄るだけで弱まってしまった。
そのため私は、神を冒涜した大罪人という烙印を押され、十年もの間を地下の牢獄で過ごすことになってしまったのだ。
「贖いとして、その身が朽ち果てるまで、あの地獄に放り込んでおいても良かったのだが――喜べ。お前の新たな使い道が、このたび決まった」
聖火を害せば、たとえ姫や聖女でも罪人だ。投獄だけで済んだのも、両親である当時の王と王妃が温情を掛けてくれたからだ。でもそのお父様やお母様は、もうこの世に居ない……。
「国力の衰えたエルフの国と、新たに交易を始めることになった。それも我が国にかなり有利な条件でな」
エルフに食糧を援助する見返りに、鍛冶で使う薪を貰うことになったらしい。その薪は森に生きる彼らにとって、命の次に大切な資源だ。エルフの国はそこまで危機的な状況ってことなのかしら……。
「そこでお前はエルフの国へ行き、両国を結ぶ友好の架け橋になってもらう」
「……っ!」
その瞬間、私は背筋が凍るような錯覚を覚えた。
冷酷なこの人がエルフと仲良くするですって? そんなこと、微塵も思っていないくせに。
第一、私にはあの忌まわしい力がある。まさかエルフの国でも、災いをもたらしてこいとでも?
「幸いにも相手は選り好みはしないらしいのでな……くくく」
そんな私の反応を楽しむように、叔父は歪んだ笑みを貼りつける。けれど今の私に拒否する術はない。
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