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「――ふぅん? キミたちドワーフには、他人のベッドに潜り込む習慣があるのかな?」

 その冷え切った声で、私の意識は夢の世界から強制的に呼び起こされた。そしてまばたきをパチクリと二度三度。

 ……私をジロリと見下ろしている、恐ろしく顔の整ったエルフと目が合った。


「……は、はじめまして? おはようございます??」
「おはよう。ちなみに今は夕方だし、このベッドの上にドワーフはキミしかいないけど?」
「で、ですよねぇ……」

 うぅん、どうしよう。これって夢じゃないわよね。

 何で私、ベッドの中に居たんだろう。そもそもここは誰の部屋? そんな疑問が次から次へと湧いてくる。と同時に「なるほど、これがエルフかぁ……」なんて吞気に目の前の人物を見つめていた。

 サラッサラの金髪に空のように青い瞳。そして非の打ち所がない美貌っぷり。自分と同じ生き物というより、神様がお作りになった精巧なお人形っていう方が相応しいかも。

 ていうか毛穴すらあるんだろうか、この人? もしやエルフに伝わる特別なスキンケアが??

 でも綺麗な顔で怒られると、こんなにも怖いなんて……。


「キミの返答次第では、この後どうなるか……分かるよね?」
「ち、違うんです! これにはドワーフの地下王国よりも深~いワケが……」
「へぇ~? それは王である僕の寝室に、そんなあられもない姿で侵入するほどの深い理由?」

 王様!? ってことはこの方がエルフ王のコルティヴァ様!?

 陛下の仰る通り、王族の私室に無断で立ち入るなど不敬も不敬。場合によっちゃ賊として処刑されても仕方ない。つまり言葉を間違えれば私の未来は――死!?

 しかも今の私は全裸というオマケ付き。かろうじて体は布団で隠せているけれど、このチンチクリンなボディではセクシーさの欠片もない。

 せめて色仕掛けができれば、どうにか誤魔化せたかもしれないのに……くうぅっ、ドワーフに生まれたことが今日ほど悔しいと思ったことはない。


「えっとぉ、気付いたらここに居た……みたいな?」

 無言の時間がしばし流れる。あっ、これミスった。嘘を言えば間違いなく断罪される、そう判断したこの脳が絞り出した答えがコレだったんだけど、完全にやらかした。

 彼の貼り付いた笑顔は、仮面のように固まったままだ。あまりのいたたまれなさに耐え切れなくなった私は、布団から頭だけ出した姿で平伏した。

「……まことに申し訳ございませんでした」

 あぁ、もう最悪だ。終わった。不慮の事故とはいえ、殿方のベッドに全裸で潜り込むなんて、痴女と言われても致し方ない。しかも初対面という最悪なタイミング。でも本当にどうしてこうなった!?

「色々と聞きたいことはあるんだけど……まずは名前から聞かせてもらおうか」

 圧力の高いスマイルで詰め寄られた私は、他人の布団を涙で濡らしながら「ひゃい……」という情けない声で答えた。

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