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復讐の行方
しおりを挟む「兄上……いくら弟とはいえ、寝室に押し入るとはお行儀が悪いのでは?」
部屋の入り口に立っていたのは、ヴラド様の兄上――ドラク皇子だった。
「我ら高貴なるヴァンパイアにとって、血とは力に等しい。その家畜が死ねば、いずれお前は俺様よりも弱くなる……そんな男が、皇帝の座に相応しいとは到底思えんよなぁ!?」
幼い時から変わることの無い、いやらしい視線を私に向けるドラク皇子。
私のことを血としか見ていない、あの薄汚い瞳だ。
「それで兄上は、その手に持った剣でレイラを害するおつもりですか?」
ゆっくりとベッドから降りたヴラド様は、壁に掛けてあった自分の愛剣を手にとった。
すでにドラク皇子の手にも剣が握られている。
「クク。死んだ後の血は俺様が有効利用してやるよ。愛だなんだとくだらない理由で強くなれるのならば、愛し合っている奴らから奪って啜れば解決するだろう?」
――その瞬間。ヴラド様の全身から、身の毛がよだつほどの殺気が溢れ出した。
「本当に何も理解されていないようですね、兄上。いえ、僕もう貴方を兄とは思わない」
「あん? 俺様は貴様を弟だと思ったことは一度もないぜ。貴様みたいな弱虫なヴァンパイアなど、皇族の恥晒しだ」
「……旧世代のヴァンパイアはもう、滅びるべきかもしれないな」
――決着はあっという間だった。
血を飲んだ直後だったということもあるかもしれないけれど、ヴラド様の力はあまりにも圧倒的だった。
「まったく、素敵な夜を邪魔されちゃったね」
実の兄の血を浴びたヴラド様は眉を下げて笑った。
彼自身はきっと、傷一つ付いてはいないだろう。
それでも私は居ても立っても居られず、彼に駆け寄った。
「どうしてここまで……それに私が居る限り、ヴラド様は……」
私はいずれ、この世からこっそり消えるつもりだった。
望んでいた当初の復讐は果たせたと思うから。
きっと私が居なくなっても、ヴラド様は私を覚えてくれる。
そう信じられるほどのものを、彼から貰えたから。
「あぁ、あのクズが言っていたアレかい? レイラは僕と同じ、長命種だから寿命を気にする必要はないよ?」
――え?
「気付いてなかった? レイラは人間じゃなくてサキュバスだよ? だから男の精を吸っている限り、ほぼ不死なんだ」
「う、うそ……?」
「ちなみに僕がキミを欲しがったのは、サキュバスが理由じゃないからね。僕に生きる理由をくれたレイラに心底惚れたんだ」
ヴラド様はそのあとも何か私のどこが好きだのと語り始めたけれど、私はまったく頭に入ってこなかった。
私がサキュバス……すぐには死なない……?
「だから僕はキミの血を貰い、キミは僕の精を吸う。そうすればずっと傍に居られるよ」
「そ、それじゃあ……」
それ以上は言葉を続けられなかった。
本日何度目かも分からない口付け。
だけど……これは生まれて初めての、吸血じゃないキスだった。
「これでレイラも、僕のことを忘れないでいてくれるだろう?」
「――ばか」
絶対に離さないと言わんばかりに、ヴラド様は強く私を抱きしめながら笑った。
出逢った頃はあれだけ不快だった彼の温もりが、今の私にはとてつもなく幸せに感じていた。
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