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第94話 魔王様、ひと目惚れですか!?
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「気付いたら宿屋の受付の前に突っ立っていたのニャ!」
「偶然この辺りを通りがかったそうなのです!」
「野宿は可哀想だったから、泊めてあげたのー」
本人へ声を掛ける前に、猫鍋亭で朝食の提供をしていた獣人三姉妹たちに事情を聞いてみた。三人とも最初こそ怪しいとは感じたものの、客としてもてなしたらしい。
「今まで見たことも無いイケメンだったのニャ」
「言葉遣いも丁寧だし、きっと良いひとなのです!」
「ストラ兄ちゃんとは大違いなのー」
おいおい、ピィよ。俺の顔面と比べなくたっていいだろ。それに最近は健康的な生活で痩せたし、だいぶ印象が変わったんだぞ?
「へぇ、そんな人が……でもどうして私たちの村に来たんでしょうか?」
「まぁフシたちも幼いし、まだまだ人を見抜く力は未熟だしな。よし、ここは俺が直々に判断してやろうじゃないか」
隣で聞いていたリディカが不思議そうな顔をする。だが彼女の疑問も尤もだ。もし危険人物ならば、俺が全力でこの村から排除してやろう。
その人物は未だに猫鍋亭のテーブルで食事を続けている。古びたローブを着ていているのだが、フードを深く被っているせいで、こちらからではまだ背中しか見えないが――うん、たしかに背は高くてスラっとした体型をしている。
顔も多少は良いんだろう。でもそれぐらいじゃ、俺の目は誤魔化せないぞ。さっそく確かめるべく、俺は男の背後に近寄っていった。
「なぁ、アンタが昨晩来たっていう旅人さんかい?」
「……うん?」
「あぁ、悪いな。俺はこの村の代表でストラゼスっていうモン……だ…………え?」
その男が振り返った瞬間。彼の顔を見た俺は、思わず言葉を失ってしまった。
「君が噂に聞く、勇者ストラゼスかい? いやぁ、この村はいいね。温泉も最高だったが、何より食事が美味しい。ボクにも是非、料理のコツを教えてほしいよ!」
「え? あ、あぁ……えぇっと」
「うん? どうしたんだい? ボクの顔に何かついてる?」
目の前の男が首を傾げると、長い金色の髪がさらりと揺れる。化粧っ気もなく、短く切りそろえられた金色の髪にやや吊り上がった青い瞳が特徴的だ。
だが何といっても驚くべきは、その美貌だった。あまりにも整い過ぎていて、神々しさすら覚えてしまう。こんなにも美しい人間が、この世にいるものなのか……?
「いや、その……。あまりにも整った顔だったもんで」
「……それって、ボクのこと?」
「あ、あぁ」
あ、あれ? どうして俺は顔が真っ赤になっているんだ?
おかしいぞ、相手は男のはずなのに……。
「ちょっと、ストラ? 貴方まさか、男を口説いているんですか?」
「あ、いや。違うんだリディカ。今のはちょっと驚いただけで……」
ちょっとお怒り気味のリディカが、俺の横っ腹を指の先でツンツンとつついてくる。
「そうか、つまり君はボクに一目惚れしたんだね! いやぁ嬉しいよ!」
「へ?」
目の前の男は満面の笑みを浮かべると、俺の手を握ってきた。そして両手でギュッと俺の手を握ると、キラキラと輝く青い瞳で上目遣いをする。
「いや~、ボクも悪い気はしないけどさぁ。今は旅をしている身だしなぁ」
「……い、いや。待ってくれアンタ……」
「う~ん、困ったねぇ。どうしてもって言うのなら、一晩だけ付き合ってあげても……いいよ?」
「……っ!」
動揺する俺を余所に、目の前の男は勝手に話を進めていく。なんだコイツ!?
「そ、そこまでです!!」
慌てた様子でリディカが間に入ると、ようやく男は手を離す。そして口元を手で押さえると、こらえ切れずに笑い始めた。
「あははははは!! ご、ごめんごめん。冗談だって、キミたちの仲を裂こうだなんて思っていないさ! 大丈夫、大丈夫!」
何が大丈夫なのだろうか。男は目に涙を浮かべながら「うんうん」と一人頷いている。
どうやら俺は目の前のコイツにからかわれていたようだ。そんな光景を見ていたリディカは、あきれ顔になっていた。
「あ~笑った笑った」
ようやく落ち着いたらしい男は、目尻に浮かんだ涙を拭うと席から立ち上がった。そのとき、彼は頭に被っていたフードを取り、絹のような髪を一度手でかき上げた。
「お、おいその耳ってまさか……」
「ボクの名はファルシュ。見ての通り、旅をしているはぐれエルフだ」
「偶然この辺りを通りがかったそうなのです!」
「野宿は可哀想だったから、泊めてあげたのー」
本人へ声を掛ける前に、猫鍋亭で朝食の提供をしていた獣人三姉妹たちに事情を聞いてみた。三人とも最初こそ怪しいとは感じたものの、客としてもてなしたらしい。
「今まで見たことも無いイケメンだったのニャ」
「言葉遣いも丁寧だし、きっと良いひとなのです!」
「ストラ兄ちゃんとは大違いなのー」
おいおい、ピィよ。俺の顔面と比べなくたっていいだろ。それに最近は健康的な生活で痩せたし、だいぶ印象が変わったんだぞ?
「へぇ、そんな人が……でもどうして私たちの村に来たんでしょうか?」
「まぁフシたちも幼いし、まだまだ人を見抜く力は未熟だしな。よし、ここは俺が直々に判断してやろうじゃないか」
隣で聞いていたリディカが不思議そうな顔をする。だが彼女の疑問も尤もだ。もし危険人物ならば、俺が全力でこの村から排除してやろう。
その人物は未だに猫鍋亭のテーブルで食事を続けている。古びたローブを着ていているのだが、フードを深く被っているせいで、こちらからではまだ背中しか見えないが――うん、たしかに背は高くてスラっとした体型をしている。
顔も多少は良いんだろう。でもそれぐらいじゃ、俺の目は誤魔化せないぞ。さっそく確かめるべく、俺は男の背後に近寄っていった。
「なぁ、アンタが昨晩来たっていう旅人さんかい?」
「……うん?」
「あぁ、悪いな。俺はこの村の代表でストラゼスっていうモン……だ…………え?」
その男が振り返った瞬間。彼の顔を見た俺は、思わず言葉を失ってしまった。
「君が噂に聞く、勇者ストラゼスかい? いやぁ、この村はいいね。温泉も最高だったが、何より食事が美味しい。ボクにも是非、料理のコツを教えてほしいよ!」
「え? あ、あぁ……えぇっと」
「うん? どうしたんだい? ボクの顔に何かついてる?」
目の前の男が首を傾げると、長い金色の髪がさらりと揺れる。化粧っ気もなく、短く切りそろえられた金色の髪にやや吊り上がった青い瞳が特徴的だ。
だが何といっても驚くべきは、その美貌だった。あまりにも整い過ぎていて、神々しさすら覚えてしまう。こんなにも美しい人間が、この世にいるものなのか……?
「いや、その……。あまりにも整った顔だったもんで」
「……それって、ボクのこと?」
「あ、あぁ」
あ、あれ? どうして俺は顔が真っ赤になっているんだ?
おかしいぞ、相手は男のはずなのに……。
「ちょっと、ストラ? 貴方まさか、男を口説いているんですか?」
「あ、いや。違うんだリディカ。今のはちょっと驚いただけで……」
ちょっとお怒り気味のリディカが、俺の横っ腹を指の先でツンツンとつついてくる。
「そうか、つまり君はボクに一目惚れしたんだね! いやぁ嬉しいよ!」
「へ?」
目の前の男は満面の笑みを浮かべると、俺の手を握ってきた。そして両手でギュッと俺の手を握ると、キラキラと輝く青い瞳で上目遣いをする。
「いや~、ボクも悪い気はしないけどさぁ。今は旅をしている身だしなぁ」
「……い、いや。待ってくれアンタ……」
「う~ん、困ったねぇ。どうしてもって言うのなら、一晩だけ付き合ってあげても……いいよ?」
「……っ!」
動揺する俺を余所に、目の前の男は勝手に話を進めていく。なんだコイツ!?
「そ、そこまでです!!」
慌てた様子でリディカが間に入ると、ようやく男は手を離す。そして口元を手で押さえると、こらえ切れずに笑い始めた。
「あははははは!! ご、ごめんごめん。冗談だって、キミたちの仲を裂こうだなんて思っていないさ! 大丈夫、大丈夫!」
何が大丈夫なのだろうか。男は目に涙を浮かべながら「うんうん」と一人頷いている。
どうやら俺は目の前のコイツにからかわれていたようだ。そんな光景を見ていたリディカは、あきれ顔になっていた。
「あ~笑った笑った」
ようやく落ち着いたらしい男は、目尻に浮かんだ涙を拭うと席から立ち上がった。そのとき、彼は頭に被っていたフードを取り、絹のような髪を一度手でかき上げた。
「お、おいその耳ってまさか……」
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