上 下
92 / 106

第92話 魔王様、イチャイチャですか?

しおりを挟む
 来週は仕事で多忙のため、更新できないかもしれません。
 なので今回は普段の倍のボリュームです。

 ――――――――――――


「げっ、あの声はまさか!?」

 何かの危機を感じた現・魔王シャルンが顔を引き攣らせ、一歩後退る。
 いったい何事かと彼女の視線を追うと、そこには妖精国の女王ティターニアがニコニコと嬉しそうな笑顔を浮かべて立っていた。

「いや待て待て! 転移魔法もなしに、どうしてここへ来れたんだ?」

「毎回貴方に頼りっきりなのも悪いし、好きな時に温泉に浸かりたいじゃない? だからリザードマンたちが見つけた魔法宝石と、私の妖精魔法を組み合わせて、知り合いの魔道具職人に頼んで試作の転移装置を作ってもらったのよ!」

 はあっ? そんな無茶苦茶なことを!?

 ていうかそんな神具レベルの魔道具を作れる知り合いって誰だ!?

「ちなみに転移先を指定するポータル玄関は、この前ここへ来た時にこっそり置いておいたの」

 おいっ! 人の村で勝手にそんなことをするなよ、防犯も何もないじゃないか!


「ところで、私のシャルンちゃんが居る気配がしたんだけど……」

 キョロキョロとあたりを見渡しながら、こちらに歩いてくるティターニア。だが当のシャルンは伯母の姿を見た瞬間、目にも止まらぬスピードで家屋の陰に素早く身を隠していた。

 だがティターニアは、すぐにシャルンの隠れている方角をロックオンしてしまう。

「あらら~? もしかして、久しぶりの再会で照れちゃったのかしら~?」

「ひっ!?」

 咄嗟に隠れたものの、ティターニアには魔力の探知能力がある。いとも簡単に見つけられてしまったようだ。そんなシャルンにイタズラっぽい笑みを向けながら近付いていく。

「ま、まずい!」

「うふふふっ、逃げなくたっていいのよ~?」

「ふあっ!?」

 ティターニアは、先ほどのシャルンに負けず劣らずの速さで彼女の後ろに回り込むと、そのまま抱きついて頬ずりを始めた。

「うわあぁぁ! は、放せ!」

「あらあら、まぁまぁ? 見た目はちっちゃいままで変わらないけど、魔力は随分と強くなったわね!」

「や、やめろぉ! ティア伯母さま許してぇ!」

 腕の中でジタバタと暴れるシャルン。だがティターニアはお構いなく、嬉しそうに彼女の頭を撫でまくる。

「私は嬉しいのよ。貴方とまたこうして、元気な姿で会えたことが……」

 急に大人しくなるシャルン。ティターニアは昔を懐かしむように微笑む。

「それに今の貴方はもう魔王だし、昔みたいに気軽に“ティア伯母さま”って呼んでもらえないと思ったわ」

「……う、うるさいなぁ! それぐらいなら別に、普通に呼んであげるわよ!?」

「あぁん、もうっ! そういう素直じゃないところも可愛いっ!」

 ティターニアは満足そうな表情で、シャルンの額に軽くキスをした。

「きゃーっ! やめてって言ってるでしょ!? もう知らない! 魔王の権限で、今ここで伯母さまを滅してやるんだから!!」

「あらまぁ~? 可愛い姪っ子から愛の告白かしらー?」

 顔を真っ赤にしたシャルンは涙目になりながらも、必死で攻撃魔法を繰り出してティターニアを攻撃し始めた。
 しかし彼女は余裕そうな笑みを浮かべつつ、楽しそうに攻撃を躱していく。普段は魔王としての威厳ある態度を見せているシャルンも、こうして見るとやはり子供なのだということが実感できる。

 そんな光景に俺は呆気に取られていたが、隣にいるリディカは「あらあら」と嬉しそうに眺めていた。

「ティターニア様は昔から、こうして姪っ子であるシャルンちゃんを溺愛していたんですか?」

「そうなんだよ。あの傍若無人なシャルンがあんなにも大人しくなるぐらいにな……」

 普段のシャルンは背伸びして大人っぽく振る舞っているから、こうして年相応にじゃれ合っている姿は新鮮だ。二人とも近い親族を喪っているから、血の繋がった家族はやはり特別なんだろう。

「さてと……それじゃあそろそろ仕事に戻るか」

「ウィル兄さま!? ちょっと助けてよー!」

「えー? もう少しだけいいじゃない?」

 魔王としての威厳もどこへやら。涙目で助けを求めるシャルン。
 そんな義妹の姿に苦笑すると、俺は軽く手を挙げて二人に声を掛ける。

「それじゃあ後は頼むわ……。これから“視察”があるんだろ? 仲良く二人で行ってこい」

「お兄さまの薄情者ー!!」

 こうして出荷される牛のごとく、哀れにもドナドナされていく義妹を見送った俺は……。

「さてと……」

 本来の目的である畑仕事を再開することにした。


 ◇

「ふふっ、久しぶりにするシャルンちゃんとのデートは楽しかったわぁ」

「別に、アタシは楽しくなんてないから……」

 あれから数時間後。シャルンは視察を終えたのか、ティターニアと共に旅館にある猫鍋亭へ戻ってきた。

 久しぶりの姪っ子を堪能したティターニアは肌をツヤツヤとさせながら、特産である川魚の串焼きや甘口に作ったコッケの厚焼き卵をつまんでは、幸せそうな声を上げている。

 すると先ほどまでツンケンとしていたシャルンだったが……急にソワソワし始めると、チラチラと隣に座るティターニアの手や横顔を盗み見ていた。どうやら料理が気になるらしい。

「はい、シャルンちゃんにも……あーん」

「うっ。あ、あぁーん」

 もはや抵抗する気も起きないのか、素直に口を開けて卵焼きを食べるシャルン。

「どう、美味しい?」

「悔しいけど……うん、美味しかった」

 素直になれないのか、顔を背けながらモグモグと口を動かしている。そんな姪っ子にティターニアは嬉しそうに微笑んだ。こうして二人の仲睦まじい姿を見ているとまるで本当の母娘のようで微笑ましくなる。昔からティターニアに可愛がってもらっていた俺の目には、少し成長した二人が家族のように映った。

 するとその時、今度は別のテーブルで食事をしていたリディカが、ジッと何かを見つめているのに気付いた。

「どうかしたのか?」

「……いえ、別に」

 気になった俺が声をかけると、彼女は何事も無かったかのように視線を逸らす。

「ほら、リディカも。あーん」

「えっ!? い、いや。別に私は羨ましがったわけじゃ……うぅ、でも。あ、あーん」

 俺に対してリディカは恥ずかしそうに、しかししっかりと卵焼きを頬張る。

「どうだ?」

「……美味しいです」

 平常を装っているが、なんとなく照れているのが分かる。
 そのままリディカがチラチラと俺の食事風景を見てくるので、串焼きの肉を口に運ぶと……彼女はおずおずと近寄ってきた。そして目をギュッと瞑って、小さく口を開くと……一口でパクッと食べた。

「じぃー……」
「あらあら、まぁまぁ」

 そんな俺たちの様子を眺めていたティターニアとシャルンは悪魔もビビるほどの恐ろしいニヤニヤ顔を見せていた。

「な、なんだよ!? 別にいいだろ、俺たちはそういう間柄なんだから」

「別に駄目なんて言ってないわよ。ねぇ、シャルンちゃん?」

「アタシは二人を応援するつもりだしー? むしろもっとヤれって感じ?」

 おいおい、二人して揶揄うなよ……。リディカも顔を真っ赤にして俯いちゃったじゃないか。

 その後、何度も二人だけで食事をしているところを見られては、生温かい目を向けられてしまったのだった。


 それからしばらくして。温泉の視察を終えたシャルンたちが帰ることになったので、俺は彼女を見送ろうと村の出入り口までやって来た。

 相変わらず村は賑やかだ。最初は魔王が来たことに警戒していた人たちもすぐに慣れたようで、日常を過ごしている姿がチラホラと見える。


「そうだ、貴方に伝えておきたいことがあったんだ」

「俺に?」

 不意にティターニアから声を掛けられた俺は、首を傾げた。

「リザードマンたちから聞いたんだけど……実は姿を消していたドワーフたちが、ブードゥ火山の地下に国を作って住んでいるらしいの」

「え?」

「それで私も会いに行ったんだけどね。ドワーフたちの国が、存亡の危機を迎えているみたいなの」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る

咲阿ましろ
ファンタジー
とある出来事をきっかけに仲間から戦力外通告を突きつけられ、パーティを追放された冒険者カイル。 だが、以前に善行を施した神様から『万物創生』のスキルをもらい、人生が一変する。 それは、便利な家具から大規模な土木工事、果てはモンスター退治用のチート武器までなんでも作ることができるスキルだった。 世界から見捨てられた『呪われた村』にたどり着いたカイルは、スキルを使って、美味しい料理や便利な道具、インフラ整備からモンスター撃退などを次々とこなす。 快適な楽園となっていく村で、カイルのスローライフが幕を開ける──。 ●表紙画像は、ツギクル様のイラストプレゼント企画で阿倍野ちゃこ先生が描いてくださったヒロインのノエルです。大きな画像は1章4「呪われた村1」の末尾に載せてあります。(c)Tugikuru Corp. ※転載等はご遠慮ください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...