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第90話 魔王様、修羅場です
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「ふぅん。お姉さん、ウィル兄さまの婚約者なんだぁ」
リディカが自己紹介すると、魔王シャルンは意味深な笑みを浮かべながらそんなことを言ってきた。
「あ、あぁ。まぁ一応そういうことになっている」
「いちおう?」
「あ、いえ。正式に奥さんになる予定の人です」
俺の曖昧な返事に、リディカはニコニコと笑顔で圧をかけてくる。どうやら俺がきちんと恋人だと認めていなかったことに、腹を立てているようだ。
「ところで、彼女がウィルの言っていた義理の妹さんですか? どうやら貴方の正体に気付いているみたいですが」
「あ、あぁ。シャルンの魔眼でバレた。誤魔化そうとはしたんだが」
「もう、ウィルってば……。でも私は、貴方の婚約者であることを偽りたくありませんから」
俺の耳元で囁いていたリディカが、そっと手を重ねてきた。その途端、周囲の空間に満ちる魔力の量が跳ね上がる。
(ひぇぇっ!?)
ちょ、待って! もうこれ以上俺の心臓に負担を負わせないで!
シャルンは「ふぅん?」と言ってわずかに目を細めると、今度はリディカの方に向き直る。
「アタシは魔王のシャルンよ。よろしくね?」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
さっきと違ってやけに丁寧な言葉使いになったな?
怒っていると思ったけど、俺の勘違いだったのか?
なんてことをグルグル考えていたら突然、シャルンが俺に飛び込んで抱き着いてきた。
「アタシ、ウィル兄さまのことがずっと大好きだったんだよ? なのに人族の婚約者だって? ふざけんじゃないわ、殺してでも奪い返してやる」
「うえぇぇっ!?」
ぎゅーっと俺に抱き着いているシャルンは、まるで猫のように頬をスリスリしてくる。その瞳は物騒な物言いとは裏腹に、無邪気な子供のようにキラキラと輝いていた。
「ちょ、ちょっと! ウィルから離れなさいよ!」
俺が戸惑っていると、リディカが慌てて俺からシャルンを引き剝がした。シャルンの華奢な肩を摑んでガクガクと揺さぶる。
「はぁ? 兄さまはアタシのだっつーの」
「ウィルは私の婚約者です!」
睨み合う二人。そして二人の魔力がぶつかり合い、凄まじい衝撃波が周囲の木々を薙ぎ払った。暴風に煽られた豚饅頭たちが、「ぶひぃ~」と可哀想な鳴き声を上げながら吹き飛ばされていく。
もうやだこの娘ら。どうして仲良くできないんだよぉ……。
「あ、あのぉ……二人とも?」
「なんですか、ウィル兄さま?」
「何? ウィル」
「……仲直り……しよう?」
俺はなけなしの勇気を振り絞って、二人の仲裁に入ろうとした。
だがそれは逆効果だったようで、リディカとシャルンは互いに目を合わせると……。
「「無理です(だよ)!!」」
ついにはぶつかり合っていた互いの魔力が限界を迎え、二人を中心に大規模な爆発が起きた。
衝撃波で吹き飛んだ俺は地面に倒れ伏し、空を見上げた。
「ああ……空が、青いなぁ……」
あぁ、もう。やっぱり大変なことになってしまった……。
「だいたいこの女は、どうして兄さまをウィルって呼んでいるのよ!?」
紫髪のツインテールを振り回しながら、ギャーギャーと地団駄を踏むシャルン。
対してリディカは「はぁ?」と首を傾げると、俺の事を後ろから抱きしめてきた。
「私は勇者様の正体を知っているからです。もちろんその上で彼のことを愛しています」
「だ、だってアンタは人族のお姫様なんでしょう? なんで平然と抱き着いちゃってんの!?」
「そ、それは……」
顔を真っ赤にして狼狽えるリディカは、俺の背中から手を離すと指を突き合わせて視線を逸らした。
「私が姫であるかどうか、彼が元魔王か勇者か……そんなものは関係ありません。私は彼の人柄を好きになったのです。……そもそも、魔王様は私にとって幼い頃からの憧れの人でしたし」
なんだか聞いている俺まで顔が真っ赤になってしまいそうだ。そして俺の正体を知った上で受け入れてくれた彼女は、本当に凄いと思う。
「ぐぬぬ……!!」
悔しそうに歯ぎしりするシャルン。
今にもリディカに飛び掛かりそうな勢いだったが、急に握りしめていた拳を下ろすと、諦めたように大きな溜息を吐いた。
「くっ……わ、分かったわよ。貴女のことを認めるわ」
え? いいの??
――――――――――……★
いつも作品をご覧くださり、ありがとうございます。
多くの読者さまのおかげで、コンテスト期間中も楽しく投稿を続けることができました。
また、別作品が小説のコンテストで受賞したため、しばらく製作期間に入ります。
投稿1か月と90話という区切りもありますし、今後はもう少しじっくり内容を詰めつつ投稿したいと思っております。
つきましては、こちらの作品は毎週土曜日の夜に更新を続けていく予定です。
今後とも皆様に楽しんでいただける作品になるよう努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
リディカが自己紹介すると、魔王シャルンは意味深な笑みを浮かべながらそんなことを言ってきた。
「あ、あぁ。まぁ一応そういうことになっている」
「いちおう?」
「あ、いえ。正式に奥さんになる予定の人です」
俺の曖昧な返事に、リディカはニコニコと笑顔で圧をかけてくる。どうやら俺がきちんと恋人だと認めていなかったことに、腹を立てているようだ。
「ところで、彼女がウィルの言っていた義理の妹さんですか? どうやら貴方の正体に気付いているみたいですが」
「あ、あぁ。シャルンの魔眼でバレた。誤魔化そうとはしたんだが」
「もう、ウィルってば……。でも私は、貴方の婚約者であることを偽りたくありませんから」
俺の耳元で囁いていたリディカが、そっと手を重ねてきた。その途端、周囲の空間に満ちる魔力の量が跳ね上がる。
(ひぇぇっ!?)
ちょ、待って! もうこれ以上俺の心臓に負担を負わせないで!
シャルンは「ふぅん?」と言ってわずかに目を細めると、今度はリディカの方に向き直る。
「アタシは魔王のシャルンよ。よろしくね?」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
さっきと違ってやけに丁寧な言葉使いになったな?
怒っていると思ったけど、俺の勘違いだったのか?
なんてことをグルグル考えていたら突然、シャルンが俺に飛び込んで抱き着いてきた。
「アタシ、ウィル兄さまのことがずっと大好きだったんだよ? なのに人族の婚約者だって? ふざけんじゃないわ、殺してでも奪い返してやる」
「うえぇぇっ!?」
ぎゅーっと俺に抱き着いているシャルンは、まるで猫のように頬をスリスリしてくる。その瞳は物騒な物言いとは裏腹に、無邪気な子供のようにキラキラと輝いていた。
「ちょ、ちょっと! ウィルから離れなさいよ!」
俺が戸惑っていると、リディカが慌てて俺からシャルンを引き剝がした。シャルンの華奢な肩を摑んでガクガクと揺さぶる。
「はぁ? 兄さまはアタシのだっつーの」
「ウィルは私の婚約者です!」
睨み合う二人。そして二人の魔力がぶつかり合い、凄まじい衝撃波が周囲の木々を薙ぎ払った。暴風に煽られた豚饅頭たちが、「ぶひぃ~」と可哀想な鳴き声を上げながら吹き飛ばされていく。
もうやだこの娘ら。どうして仲良くできないんだよぉ……。
「あ、あのぉ……二人とも?」
「なんですか、ウィル兄さま?」
「何? ウィル」
「……仲直り……しよう?」
俺はなけなしの勇気を振り絞って、二人の仲裁に入ろうとした。
だがそれは逆効果だったようで、リディカとシャルンは互いに目を合わせると……。
「「無理です(だよ)!!」」
ついにはぶつかり合っていた互いの魔力が限界を迎え、二人を中心に大規模な爆発が起きた。
衝撃波で吹き飛んだ俺は地面に倒れ伏し、空を見上げた。
「ああ……空が、青いなぁ……」
あぁ、もう。やっぱり大変なことになってしまった……。
「だいたいこの女は、どうして兄さまをウィルって呼んでいるのよ!?」
紫髪のツインテールを振り回しながら、ギャーギャーと地団駄を踏むシャルン。
対してリディカは「はぁ?」と首を傾げると、俺の事を後ろから抱きしめてきた。
「私は勇者様の正体を知っているからです。もちろんその上で彼のことを愛しています」
「だ、だってアンタは人族のお姫様なんでしょう? なんで平然と抱き着いちゃってんの!?」
「そ、それは……」
顔を真っ赤にして狼狽えるリディカは、俺の背中から手を離すと指を突き合わせて視線を逸らした。
「私が姫であるかどうか、彼が元魔王か勇者か……そんなものは関係ありません。私は彼の人柄を好きになったのです。……そもそも、魔王様は私にとって幼い頃からの憧れの人でしたし」
なんだか聞いている俺まで顔が真っ赤になってしまいそうだ。そして俺の正体を知った上で受け入れてくれた彼女は、本当に凄いと思う。
「ぐぬぬ……!!」
悔しそうに歯ぎしりするシャルン。
今にもリディカに飛び掛かりそうな勢いだったが、急に握りしめていた拳を下ろすと、諦めたように大きな溜息を吐いた。
「くっ……わ、分かったわよ。貴女のことを認めるわ」
え? いいの??
――――――――――……★
いつも作品をご覧くださり、ありがとうございます。
多くの読者さまのおかげで、コンテスト期間中も楽しく投稿を続けることができました。
また、別作品が小説のコンテストで受賞したため、しばらく製作期間に入ります。
投稿1か月と90話という区切りもありますし、今後はもう少しじっくり内容を詰めつつ投稿したいと思っております。
つきましては、こちらの作品は毎週土曜日の夜に更新を続けていく予定です。
今後とも皆様に楽しんでいただける作品になるよう努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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