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第88話 魔王様、絶望する
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「ふいー、良いお湯だった」
ミラ様へのお願いを終えた俺は風呂から上がり、再び旅館内を歩いていた。
辺境の森の木を使った新築の木造建築だけあって、木の良い匂いが漂ってくる。
窓からは夕日が差し込み、ちょうど夕飯時だなと俺は食堂へ向かったのだが……なぜかアクアだけがいなかった。
「あ、ストラ兄ちゃんー!」
「どうしたんだ、そんな慌てて?」
俺を待っていたのだろう。ピィがトテトテと俺の元に走ってくる。そこにはリディカやフシたちの姿もあった。
「アクアお姉ちゃんが大変なのー」
「えっ、アクアが?」
そういえば、アクアの姿が朝から見えなかったな。
温泉好きの彼女なら仕事が忙しくても、「オープン!? 絶対行くわ!」といの一番に駆け付けてきそうなのに。
「どうしたんだ? アイツに何かあったのか?」
俺は辺りを見回し、一番事情を知っていそうなリディカに視線を送る。だが彼女はフルフルと首を横に振った。
「そ、それが……」
事情を聞いた俺は急いで食堂から出ると、彼女が居るという猫鍋亭に隣接している救護室へ向かった。
「ケガしたって聞いたぞ、大丈夫かアクア!?」
「キャアアアッ!?」
バン、と扉を開けるとそこには、ベッドに腰掛けた下着姿のアクアがいた。
「うえっ!? あぁ、ごめん!!」
「も、もう……急に開けないでよね!」
顔を真っ赤にしたアクアが、慌ててシーツを手繰り寄せる。俺は一度廊下に戻ると、扉を閉めた。
「ごほん……それで何があったんだ?」
間を置いて再び部屋に入ると、そこにはいつも通りのアクアが。
仕切り直しに咳払いをしながら聞くと、彼女は残念そうに肩を落としていた。
「実は……魔王様に、この村のことがバレちゃったのよ」
「え!?」
彼女の言う魔王ってことは、俺じゃなくて現魔王のことだ。つまり俺の義妹であるシャルンが、プルア村に関心を持ってしまったことになる。
「発端は魔王様のいる御前会議だったの。ここ最近はクリムや私が不在がちだったじゃない? 理由を魔王様に聞かれたクリムが、正直に答えちゃって……」
「あんの馬鹿クリムめ……!!」
あいつ……マジで余計なことをしてくれやがったな。
「それで? アクアはどうして怪我を」
「急いでこのことを伝えようと思ったら、乗っていた使い魔から落ちちゃって」
てへへ、とバツが悪そうに頭を掻くアクア。彼女はいつも翼竜に乗ってここへ来ていたのだが、そんなことになっていたとは。
「……なんかすまん。危ない目に遭わせちまったみたいで」
「あ、いいのよ! 私もこの村にはお世話になっているし、あんまり迷惑も掛けたくなかったから」
……その気持ちをクリムにも持ってほしかったんだけどなあ。
でもアイツ、魔王が相手だと昔から弱かったからなぁ。娘みたいに思っていたし、嘘も言えなかったんだろうな。
「まぁ、いずれこの村のこともバレるとは思っていたし。それはいいよ。で、その後はどうなったんだ?」
まさか魔王が直々にこの村に来るとか、そんなことは言い出さないよな?
――いや、さすがにそれは無いか。一国の王がこんな辺境までくることは有り得ない。人族の王なんて、頼まれたって絶対に嫌がるだろう。
四天王の二人が異常なだけであって、普通は王も忙しいんだよ。
「そ、それが……魔王様は『興味が湧いた。自分も一度、視察がてら村へ行こう』って」
「なんでそうなるの!?」
俺は額を抑えながら叫ぶしかできなかった。
「そういうわけで、そのうち魔王様がここに視察にくると思うから」
「うぇ!?」
「ほ、本当にごめんね……?」
素っ頓狂な叫び声を上げる俺の胸の内を察したのか、アクアは申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「いや、アクアは悪くないよ……でもなぁ」
どうしてこうなった……。
いや、本当に訳分からん。
しかも視察って……。
「はぁ……」
心配そうな顔で「大丈夫?」と問うアクアに、俺は「大丈夫」と力なく答える。
そのあと魔王が視察にくることをリディカたちにも伝えたら、みんな揃って「どうしてそうなった!?」みたいな顔をしていた。
そうだよな、俺も同じ思いだよ。
――そして翌日。
「本当にどうしてこうなった?」
俺の前に、魔王シャルンが立っていた。
ミラ様へのお願いを終えた俺は風呂から上がり、再び旅館内を歩いていた。
辺境の森の木を使った新築の木造建築だけあって、木の良い匂いが漂ってくる。
窓からは夕日が差し込み、ちょうど夕飯時だなと俺は食堂へ向かったのだが……なぜかアクアだけがいなかった。
「あ、ストラ兄ちゃんー!」
「どうしたんだ、そんな慌てて?」
俺を待っていたのだろう。ピィがトテトテと俺の元に走ってくる。そこにはリディカやフシたちの姿もあった。
「アクアお姉ちゃんが大変なのー」
「えっ、アクアが?」
そういえば、アクアの姿が朝から見えなかったな。
温泉好きの彼女なら仕事が忙しくても、「オープン!? 絶対行くわ!」といの一番に駆け付けてきそうなのに。
「どうしたんだ? アイツに何かあったのか?」
俺は辺りを見回し、一番事情を知っていそうなリディカに視線を送る。だが彼女はフルフルと首を横に振った。
「そ、それが……」
事情を聞いた俺は急いで食堂から出ると、彼女が居るという猫鍋亭に隣接している救護室へ向かった。
「ケガしたって聞いたぞ、大丈夫かアクア!?」
「キャアアアッ!?」
バン、と扉を開けるとそこには、ベッドに腰掛けた下着姿のアクアがいた。
「うえっ!? あぁ、ごめん!!」
「も、もう……急に開けないでよね!」
顔を真っ赤にしたアクアが、慌ててシーツを手繰り寄せる。俺は一度廊下に戻ると、扉を閉めた。
「ごほん……それで何があったんだ?」
間を置いて再び部屋に入ると、そこにはいつも通りのアクアが。
仕切り直しに咳払いをしながら聞くと、彼女は残念そうに肩を落としていた。
「実は……魔王様に、この村のことがバレちゃったのよ」
「え!?」
彼女の言う魔王ってことは、俺じゃなくて現魔王のことだ。つまり俺の義妹であるシャルンが、プルア村に関心を持ってしまったことになる。
「発端は魔王様のいる御前会議だったの。ここ最近はクリムや私が不在がちだったじゃない? 理由を魔王様に聞かれたクリムが、正直に答えちゃって……」
「あんの馬鹿クリムめ……!!」
あいつ……マジで余計なことをしてくれやがったな。
「それで? アクアはどうして怪我を」
「急いでこのことを伝えようと思ったら、乗っていた使い魔から落ちちゃって」
てへへ、とバツが悪そうに頭を掻くアクア。彼女はいつも翼竜に乗ってここへ来ていたのだが、そんなことになっていたとは。
「……なんかすまん。危ない目に遭わせちまったみたいで」
「あ、いいのよ! 私もこの村にはお世話になっているし、あんまり迷惑も掛けたくなかったから」
……その気持ちをクリムにも持ってほしかったんだけどなあ。
でもアイツ、魔王が相手だと昔から弱かったからなぁ。娘みたいに思っていたし、嘘も言えなかったんだろうな。
「まぁ、いずれこの村のこともバレるとは思っていたし。それはいいよ。で、その後はどうなったんだ?」
まさか魔王が直々にこの村に来るとか、そんなことは言い出さないよな?
――いや、さすがにそれは無いか。一国の王がこんな辺境までくることは有り得ない。人族の王なんて、頼まれたって絶対に嫌がるだろう。
四天王の二人が異常なだけであって、普通は王も忙しいんだよ。
「そ、それが……魔王様は『興味が湧いた。自分も一度、視察がてら村へ行こう』って」
「なんでそうなるの!?」
俺は額を抑えながら叫ぶしかできなかった。
「そういうわけで、そのうち魔王様がここに視察にくると思うから」
「うぇ!?」
「ほ、本当にごめんね……?」
素っ頓狂な叫び声を上げる俺の胸の内を察したのか、アクアは申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「いや、アクアは悪くないよ……でもなぁ」
どうしてこうなった……。
いや、本当に訳分からん。
しかも視察って……。
「はぁ……」
心配そうな顔で「大丈夫?」と問うアクアに、俺は「大丈夫」と力なく答える。
そのあと魔王が視察にくることをリディカたちにも伝えたら、みんな揃って「どうしてそうなった!?」みたいな顔をしていた。
そうだよな、俺も同じ思いだよ。
――そして翌日。
「本当にどうしてこうなった?」
俺の前に、魔王シャルンが立っていた。
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