79 / 106
第79話 魔王様、お見事でございます
しおりを挟む「……今回は上手くいったから良かったですけど! あの大きな口をしたサラマンドラに、私がパクっと食べられちゃったらどうするんですか!!」
治療を終えたリディカは、頬を膨らませながら俺を睨みつけてきた。
彼女の背後にはすっかり傷の癒えたサラマンドラと、それを見て歓喜の舞を踊る数十体のリザードマンたちがいる。
こんな状況になった経緯は簡単だ。
サラマンドラの治療を決定した俺は、まず妖精の国で待機させていたリディカの元へ転移した。急に現れた俺に驚く彼女を抱き抱え、再びブゥード坑道へ。
今度はアクアやリザードマンたちを含め、その場にいた全員をプルア村へと飛ばしたのだ。
そうして俺たちは、温泉宿の前にある広場へとやってきた。最低限の事情を説明して、リディカに治療をお願いしたのだが……。
「でもリディカの結界魔法は、誰も近寄らせなかったじゃないか。サラマンドラの火炎ブレスも、全く効かなかったし」
「ふふん♪ 私の魔法も、聖獣様の加護と日々の鍛錬で成長していますからね。あれぐらいの威力であれば問題ありません! ……って、褒めたって許しませんからね!?」
「まぁまぁ。もし本当に何かあったら、俺が隣で守るつもりだったし……」
「ふぇっ!?」
俺がそう言うと、リディカは頬を赤く染めて固まってしまった。
「いや、だから本当に何かあれば、俺がリディカを庇うつもりだったんだって」
もしそうなるならば、サラマンドラを倒す算段だったが……それはせずに済んでよかった。
「もうっ、もうっ! ストラはそうやって、また都合のいいことばかり言うんですから!! 元はと言えば、貴方がちゃんと事前に説明してくれればこんなことには……」
リディカは真っ赤な顔を隠すようにそっぽを向くと、小さくつぶやいた。
「……でも、ありがとうございます」
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
こちらに顔を合わせないまま、彼女は小さく息を吐いた。
照れている顔も可愛いな。あんまりおちょくると嫌われそうだけど、リディカの反応がいちいち可愛くて仕方ない。
そんな事を考えていると、アクアが俺の肩をチョンチョンと指で叩いてきた。
「ねぇ、二人とも。いちゃつくのはその辺にして、アッチをどうにかしなさいよ」
「アッチ? ……あ~、うん。たしかに」
アクアの視線の先には、すっかり元気になったサラマンドラがこっちをジッと見つめていた。
特に襲ってくる様子もなく、周りのリザードマンたちも大人しく座っている。っていうか、まるで軍隊のように一糸乱れぬ隊列を組んでいるように見えた。何をしているんだアレは?
「ストラ兄さん……」
「ん、どうしたんだクー。そんな微妙そうな顔して」
「それが……」
騒ぎを聞きつけてやって来ていた獣人三姉妹のクーが、気まずそうに犬耳をペタンと垂れさせながら俺に告げた。
「あのサラマンドラが、命を救ってくれたお礼に忠誠を誓うって言い出しているです」
「えっ、マジで?」
思わずサラマンドラの方を向くと、トカゲ特有の縦に長い瞳と目が合った。
崇拝じみた熱い視線を送ってきていているのだが、それが約30体分である。さすがの俺もビビッてたじろいだ。
ええっと……忠誠とか誓われても困るっていうか、かなり怖いんですけど。悪いけど、どうにかお断りできないかな。隣にいるリディカなんて、涙目でガタガタと震え始めてしまっているし。
「……ん? そういえば、どうしてクーはサラマンドラの言葉が分かるんだ?」
「聖獣様の加護のおかげか、僕にも彼らと会話できるようになっているです」
「ケルベロウシと同じ現象か……ってことは」
「すでにプルア領の配下になっているです……」
うわぁ、もう配下キャンセルできないじゃん……。
0
お気に入りに追加
1,078
あなたにおすすめの小説
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる