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第70話 魔王様、お色気お姉さんにタジタジです

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 見覚えのある女性が村の外に居るのを見つけた。俺は慌てて外に出ると、彼女の元へと駆け寄る。

「アクア! なんでここに居るんだ!?」
「あら、貴方がクリムの言うこの村の領主? ……初対面なのに、私の顔を知っているような口振りね?」

 あ、しまった。つい魔王時代のノリで呼んでしまった。

 だが時すでに遅し。
 彼女――水の四天王アクアは、怪訝けげんそうな顔で俺をジトっと見つめてくる。


「その、すまない! クリムには大体の容姿と、そのうち来訪するって話を聞いていたから」
「ふぅーん?」

 怪しむように目を細めるアクア。そんな彼女を誤魔化すため、俺は話題を変えた。


「ま、まぁ細かいことはいいじゃないか! せっかくこんな田舎まで来てくれたんだ。歓迎するぜ?」
「そう? ならお言葉に甘えて、お邪魔させてもらおうかしら。商売の相談もそうだけど、美容に効く温泉があるって聞いて、仕事を放り投げて飛んできたの」
「そ、そうか」

 目を爛々らんらんと光らせ、食い気味に迫るアクア。
 さすが魔族領で随一の美容オタクだな……美しくなることに懸ける情熱が半端ないぜ。

 まぁ、ウチの村に興味を持ってくれることは喜ばしいことだ。俺はアクアを連れて村に戻ると、すぐに温泉宿へと向かった。


 ◇

「最っ高、だったわ~!」

 初めての温泉を堪能したアクアは、宿内にある猫鍋亭のテーブルで「はふぅ~」と満足そうな吐息を漏らした。

 わざわざ持参したのかオレンジ色の浴衣を着て、長い青髪を巻いてアップにしている。普段見えないうなじが、なんとも色っぽい。

 そして手には団扇うちわとケルベロウシのミルク。ほんのりと汗ばんだ肌を冷やしている最中だ。

 誰も教えてないはずなのに、ここまで完璧な温泉スタイルになれるのもすごい。温泉を楽しむ最適解はどの世界でも共通なのだろうか?


「まさか温泉があんなにも美容にいいなんてね! おかげで肌もピカピカよ!」

 頬に手を当ててウットリとした表情を浮かべるアクア。

 まるで高級エステで施術を受けたかのようなつやつやの肌をしていた。彼女の言う通り、ウチの温泉の効能は抜群だ。


「トロッとした泉質は魔素の影響かしら? 性質としてはカチオン……いいえ、スルフェート系の溶液で――」
「お、おいアクア?」
「でも臭いはサルファーなのよね。研究し甲斐がありそうだわ……ん、どうかしたかしら?」

 急に訳の分からない単語を呟き始めたので、俺は思わず口を挟む。すると彼女はハッとした様子でこちらを見た。

「あぁごめんなさい! 私ったらまたやっちゃったわ」
「いや、大丈夫だ。気に入ってくれたようで良かったよ」

 俺の言葉を聞いたアクアは恥ずかしそうに頬をかいた。

 ……相変わらずスイッチが入ると凄い。
 見た目はギャルっぽいお姉さんなのに、中身はガチガチの理数系のインテリなんだよなぁ。

 クリムが軍務系なら、彼女は経済や科学系だ。普段は風のブロウと共に内政系を頑張ってくれている。

 ちなみに先代のときは頭脳担当があんまり居なかったんで、その二人は俺が在野民間から引っ張ってきた人材だったりする。つまり貴族令嬢みたいにゴージャスな見た目に反して、彼女たちは努力で成り上がった実力者というわけだ。


「書類仕事でバキバキになっていた首回りも、すっかり軽くなったわ! どうして今まで、こんなに素晴らしいものを知らなかったのかしら。魔族領に帰ったら、皆に広めるべきね……!」

 その満足そうな表情を見て、俺は安心した。彼女はこの村の温泉をいたく気に入ったようだ。

「特に虚弱体質なのに徹夜が続いているブロウは、絶対に喜ぶはずよ」

 ……どうしよう、申し訳なさで泣きたくなってくる。

 いつか会う機会があったら、お詫びに精のつくナニカを差し入れよう。


「さて、それじゃあ仕事の話といきましょうか」

 アクアはそう言って軽く伸びをすると、俺に向かって意味深な笑みを向けて来た。

「この村の財政状況についてよ。どうなのかしら?」

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