上 下
68 / 106

第68話 星々の祝福のもとに

しおりを挟む

 なぜだ? なぜバレた?
 しかもどうしてこのタイミングで!?

「この村に来たときから、変だなってずっと思っていたんです。勇者様はプルア村の出身であるはずなのに、まるで初めて来たかのように村を見て回っていましたよね?」
「そ、それは……」
「ホウジさんたちのことだってそうです。彼らがこの村の住人かどうかなんて、すぐに分かっていたはずでしょう?」

 彼女がゆっくりとこちらに歩いてくる。そして俺の前で立ち止まった。じっと俺の顔を見つめている。まるで俺の中身を見透かすかのように……。


「ホウジさんたちの態度に怒ってくれたこと……。私が作った料理を美味しいって言ってくれたこと。全部が、まるで魔王様がしてくれてたみたいで。さっきも、私の命を救ってくれたあの時と立ち振る舞いがそっくり……それで確信したんです」
「いや、えっと……それはたまたまというか……なんというか」

 俺はどう答えていいか分からずに言葉に詰まってしまった。

 そんな俺に彼女はさらに言葉を続ける。


「勇者様、行ったことのある場所なら転移できるって。ならどうして最初から村に転移しなかったんです?」
「……」
「……どうして私に隠すんですか?」

 彼女はそう言うと、つらそうに顔を伏せた。

 そんな表情を見た俺は、もう隠し通すことは出来ないと判断する。話した末にリディカ姫を悲しませるかもしれないが……仕方がない。


「俺は……魔王だ」
「……やっぱり」

 俺が観念して正体を明かすと、彼女は小さく頷いた。
 そして銀色の髪を流星のようになびかせながら、俺の胸元にギュッと抱き着いてきた。

「あ、あの……リディカ姫?」
「ずっと、ずっと貴方に逢いたかった……」

 彼女は俺の胸に顔を埋めながらそう呟いた。
 そんな彼女の体をそっと抱きしめる。


「おかえりなさいませ、魔王様」
「……ただいま。リディカ」

 俺は彼女の耳元でそう囁くと、優しく頭を撫でた。

 リディカ姫はゆっくりと体を離した。そして真っ直ぐに俺の顔を見る。星空を映すその瞳は、涙で潤んでいた。


「貴方を……愛しています」
「……えっ!?」

 突然の告白に驚きの声を上げてしまう。
 そんな俺の反応を見てリディカ姫は恥ずかしそうに頬を赤らめた。

 いやだって……そりゃ驚くでしょ! 姫様が突然“愛してる”なんて言ってきたら! あぅあぅ……これはまずい。
 なんだか顔が熱くなってきたぞ! そんな俺を見て、彼女はクスクスと楽しそうに笑った。


「ふふっ。魔お――勇者様ってば、照れているんですか?」
「うぐっ……」

 リディカ姫に指摘されて思わず手で顔を覆う。だって仕方がないじゃないか! “愛してる”なんて言われたの初めてなんだぞ!

 すると彼女は俺の手を取って、その手のひらにそっとキスをした。彼女の柔らかい唇の感触が俺の脳を刺激する。もう頭がおかしくなりそうだっ!!


「今すぐに返事がほしいとは言いません。ですが、いつまでも私はお待ちして――」

 それ以上の言葉や時間は不要だった。
 満天の星が見守る中、俺は彼女の唇に自らの唇を押し当てた。

 リディカ姫の柔らかな唇が、俺の唇と重なる。
 五感全てが彼女を認識しているような感覚に襲われる。それはとても心地よくて……甘美なものだった。


 数秒ほど経ってから、ゆっくりと唇を離す。
 すると彼女は恥ずかしそうに両手で顔を隠してしまった。まるでリンゴのように真っ赤になったその顔は、とても可愛らしいと感じる。

「自分だって顔真っ赤だぞ、姫様……」
「うっ。だって……こんな、急に」

 なんだか急に照れくさくなってしまって視線を逸らすと、温泉宿の物陰からこちらを覗いている聖獣様と獣人娘たちと目が合った。

「あ、バレたのニャ」

 ハッとした顔でこちらを見たあと、ニヤニヤとした笑みを浮かべて去って行った。

 うん。完全に見られたなコレ……。


「こほんっ……」

 気を取り直すと俺は一度咳払いをした。そして彼女の手をそっと握る。

「リディカ姫」
「……はい」
「今の俺はもう魔王でも勇者でもない、ただの領主だ。自分の世界を守ることしかできない、小さな男だが……それでも一緒に付いてきてくれるか?」

 そう言うと彼女は驚いた表情で俺を見上げた。

「もちろんです。私も姫としてではなく、貴方の妻として支えるつもりですよ?」

 そう言って俺の手をギュッと握りしめ、眩しい笑みを見せるリディカ姫。思わずつられて、俺も頬を緩ませた。


「改めてよろしく頼むよ、
「はい。こちらこそ」

 彼女の期待に応えるためにも、もっと頑張らなければならないな。そう決意を新たにするのであった。




――――――――――――――――――――

「……」
「…………」


「恥ずかしいな」
「恥ずかしいですね。穴があったら入りたいです」


「お、おかげさまでこの作品も10万文字に到達したそうですよ」
「すれ違っていた俺たちもひとまずの進展があったところで、次話から新章になるようだな」
「色々ありましたね……」
「そうだなぁ(しみじみ)」


「ただ、誰かを忘れているような……」
「魔族領のお知合いは魔王様のことを知っているんですか?クリムさんとか。そういえば現魔王さんは……」
「あっ……」


「ファンタジー大賞に投票してくれた方、ありがとうな!」
「魔王様。あからさまに話をそらしましたね?」
「ま、まだの人はどうか作品ページから投票を頼むぜ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...