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第61話 魔王様、内緒ですよ?
しおりを挟む「ぐふっ!? ……リディカさん!?」
え、今なんて? 危うく口からワインを噴き出すところだった。
冗談かと思って思わず隣を見るが、すでに間近まで彼女の顔が来ていた。
心臓が痛いほどに跳ねあがる。
彼女から目が離せない。
だってその目が、冗談を言っているようには見えなかったから……。
「キスをしたら、貴方のことを好きになれるかもしれない……」
「ま、待てまて!? ちょっと心の準備が」
「目、閉じて?」
は、はい……!!
◇
目を瞑って待ち構えるも、何も起きないことに気が付いた。おかしいな、急にリディカ姫が静かになった。
おそるおそる目を開けると、彼女は俺にもたれかかるように、コクリコクリと舟を漕いでいた。
「あ~、やっぱそういう展開になりますよね」
すーすーと静かな寝息を立てるリディカ姫の肩に手を回して抱き起すと、そのままお姫様抱っこしてベッドへと運ぶことにした。
――っていう展開になれば良かったのになぁ。
翌日の朝。
俺が食堂の扉を開くと、そこには仁王立ちするリディカ姫の姿があった。
「……それで、その……お願いが……」
話しにくそうに目を泳がせているリディカ姫を前に、俺はどうしたものかと考えを巡らせる。いやまぁ何を言われるかはだいたい想像ついてるんだけども。
「き、昨日のことは忘れて……ください……」
「あ、うん。分かってる、全部分かってるから大丈夫だよ」
消え入るように語尾が小さくなっていくリディカ姫。そんな彼女を安心させるように、ポンポンと肩を叩いてやる。
「で、でも……私ったら、あんな恥ずかしいことを……」
酒の勢いとはいえ、リディカ姫が俺を誘ったこと。そして俺がそれに応えてしまったこと。それが彼女にとって、どれだけの大胆な行動だったことか……。
「忘れてください!!」
いやまぁ無理だよ。忘れようにも忘れられないし、なんなら思い出すだけでこっちが赤面してしまう勢いなんだもの。
「と、とにかくそのことはもういいから! な?」
このままでは昨日のリディカ姫のように暴走してしまいそうだったので、強引に話題を変えた。
「それよりも今朝はどうする? ほら、なんでもリクエストに応えるからさ」
せっかくの気分が良い朝なんだ。ご飯でも食べて、気分を変えようじゃないか。そんな俺の問い掛けに、彼女は顔を赤くしたまま口を開いた。
「もう! ……じゃ、じゃあ、あの……おはようのチューを」
「はいはい。じゃあチューを……え?」
今、チューって言った? 言ったよね!?
思わずリディカ姫の唇へ目が釘付けになりそうになる。そんな俺の視線に気付いたのか、リディカ姫は慌てて自分の口を手で隠した。
「ち、違うんです! 昨晩は私からだったので、貴方からすれば帳消しになるかなって!」
え、なにその理論。
俺にとっては得にしかならないけど……いや、めっちゃ恥ずかしいなコレ!?
「い、今のは忘れてください! やっぱり無しで!」
いや、そんな可愛いおねだりを無かったことには……。
だがこんなピンクオーラが漂う空間を壊すように、慌ただしく廊下を走ってくる人影が現れた。
「どうしたんだ、フシ。そんな慌てて」
「た、大変なのニャ。この村を返せって言う人らがやってきたのニャ!」
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