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第58話 魔王様、「あーーん」です
しおりを挟む「ほら、あーん」
「えっ、えっ??」
「いいから、ほら。できたてだぞ」
「えーっと、はい……」
彼女が遠慮がちにパクッと小さな口でかじりつく。モグモグと口を動かしたあと、リディカ姫はパッと表情を明るくさせた。
「美味しいです! 優しい味で、酢の臭いとかも無いんですね! んん~、これが夢にまで見たチーズ!」
相当美味しかったのか、ほっぺに手を当てて感動を示している。ここまで喜んでくれると、こっちまで嬉しくなるな。
しばらく咀嚼を続けている姫だったが、急に彼女の眉が下がった。何だろうと思って首を傾げていると、ふとリディカ姫と目が合った。
「……?」
「あの、もう少しだけ食べても良いですか?」
「ん? あ、あぁ……」
エサを待つひな鳥のように、自ら口を開けて待っている。
さっきまで恥ずかしがっていたのに、積極的だな……いや、嬉しいんだけどさ。もっとこう、お淑やかなイメージがあったんだけども。
そんな俺の感想など知らないといった様子で、彼女は幸せそうにカッテージチーズを食べ進めていく。
幸せそうだからいっかな?
むしろ俺まで嬉しくなってきたくらいだし……と俺ももう一つのスプーンを手にして食べてみる。うん、美味い!
「あっ……」
「おぉー、あっという間に無くなっちゃったな」
結局、用意したボウルは二人でペロリと食べてしまった。
途中からパンに乗せてみたり、サラダに掛けたりといろいろと試しながら。
「はぁ……美味しかったです」
お腹をさすって、満足そうに息を吐くリディカ姫。
そんな彼女の幸せそうな表情が見れただけで、俺は満足だ。……と思っていたら、彼女がおもむろに口を開いた。
「あの、お願いがあるんですが……」
何故か言い辛そうにモジモジとしている。そんな彼女の様子を見て、なんとなく察した俺は笑いながら頷いた。
「なんだ? お代わりなら、まだ作れるぞ?」
「い、いえ! お代わりじゃないんです!」
彼女は首を左右に振って恥ずかしそうに俯いた。
「えっとですね……と、とっても美味しかったので、その……これを食堂のメニューに入れても良いですか……?」
「入れるって、このチーズを?」
リディカ姫の方からそんなことを言ってくるなんて思わなかったので、ちょっと驚きながら返事をした。
きっと食堂のメニューを増やそうと考えた上でのお願いなんだろう。
メニューに加えることは、この村の特産品をアピールすることにも繋がるし、何も問題はない。店主(仮)のフシもきっと気に入ってくれるだろう。
もちろん良いと伝えると、彼女は顔を上げて嬉しそうにはにかんだ。
「ありがとうございます! あ……それとですね……」
と、何かを言いたげな彼女が、決意を込めた瞳で俺を見上げた。
「今度は私の作ったチーズを……ぜひ食べて欲しいです」
ああそうか……王城で卑屈になっていた頃のリディカ姫はもう居ないんだな。ここに居るのは、ただの年相応な明るい女の子だ。
「あぁ、楽しみにしてるな」
俺がそう返すと、彼女はパァッと笑顔を咲かせるのであった。
「あーっ、ストラ兄たちがフシたちに隠れて美味しいものを食べてるのニャ!」
「ずるいです!」
「ずるー」
あ、しまった。
獣人三姉妹の分まで食べちゃった。
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