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第50話 魔王様、急報です
しおりを挟む「それはそうと、プルア領再興の噂も聞いておる。なんでも獣人共を従え、湯の湧く源泉を掘り当てたそうではないか」
玉座に座り直した王様がニヤりと口角を上げ、眼下で跪き続けていた俺を見下ろした。
魔物討伐に騎士団を派遣しろと言われ、取り乱していたのも一瞬だった。すぐに調子を取り戻すあたり、さすがは社交界の荒波を生き抜いてきた老獪な王といったところか。
「それはそれは、お耳汚しを失礼しました」
「何を言うか。他の土地にはない観光資源であろう? 税収が望めるではないか」
まぁ実際はお湯の沸く源泉を見つけたのは俺じゃなくて、クーなんだけどね。
ていうか税収って……本当にがめついなこの王様。
「はい。その件につきましては後日、具体的な運用の見通しがついてから陛下にご報告をと」
「ハッハッハ、そうか。では楽しみにしておこう」
急かす王様に俺は頷く。
くそ。こっちの要求を通したくば、お前もさっさと金を寄越せということか。だがこっちも魔族の王として何年もやってきたんだ。そう簡単には引いてなんかやらないぜ?
「プルア領を再興するにあたって、ひとつお願いがあります」
「……申してみよ」
「一般的にこの国では新しく拝領した貴族には、陛下からのお心遣いがあると聞いております。さすれば、我がプルア領もそれに倣いたいと考えているのですが」
「む……」
そう。この王都に来るにあたって、事前にリディカ姫から聞いて確かめておいたことだ。
新規で領主になったばかりで領地のもままならない場合、安い金利で資金援助をお願いできるという暗黙の了解だ。
そして今の俺は、領主としてまだまだ未熟。しかも辺境という開拓困難な場所にある。つまり常識的に考えて、資金援助は必要不可欠――そう判断した上での提案だ。
「……はぁ。てっきり戦うしか能のない、田舎者と侮っていたが。まったく、儂の観察眼も曇ったか……が、まぁよい」
俺の申し出を聞き、王様はあからさまに溜め息を吐いた。そして呆れ顔から一転して、今度は好戦的な笑みを浮かべた。
「辺境では近隣の都市と交易は難しい。とあれば金銭よりも、食糧の現物支給が好ましい。であろう?」
「そう、ですね」
「だが今は時期が悪いな。今は夏。穀物が収穫できるのはこれからじゃ。よって、貸し付けられるのは去年の麦となる」
「はぁ……」
それは予想できた範疇の話だ。
というより金銭を出すと言われたら、逆にこっちが食糧が良いと提案するつもりだったが……なんだ? 王様はいったい、何を企んでいる?
「加えて魔族との戦争で国力が疲弊しておる。魔物狩りに騎士団を派遣すれば、その分の負担も掛かる。そんな状況の我らに、お主は手厚い支援を要求したのじゃ。――もちろん、その意味は理解しておるな?」
「………………もちろん、でございます」
王様の言葉の真意は、「貸した金は、きっちり利子をつけて返してもらおう」ということだ。
え、なにそれ。
なんで逆に脅されてんの?
予想外の反応に俺が戸惑っていると、王様は言葉を続ける。
「具体的には来月。お主が再びこの城を訪れるまでに、プルア領で何かしらの成果を上げてくるのじゃ」
「そ、そんな!?」
「それが出来ぬのであれば、支援の話は無しじゃ」
……最悪だ。
急にそんなタイムリミットを設けられても、不可能なものは不可能だ。
いっそ、この話はなかったことにしようか――そう思った矢先だった。
「……聖獣様?」
聖獣のミラ様から加護を貰った際に備わった力。ミラ様と心の中で会話できる念話能力だ。この能力が発動すると、ミラ様の姿が頭の中に浮かぶ。
でもなんだろう。急ぎの用事でもない限り使ってこないと思うんだが、何があったんだ?
『(急に済まないンゴ)』
「(どうしたんだミラ様。こっちはまだ王様と交渉中なんだが)」
急用でなければ後にしてもらおう。
だが、頭の中に響いてきた言葉は悲痛なものだった。
『(フシが……フシが村を出て、行方不明になったンゴ……!)」
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