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第43話 魔王様、豚まんです
しおりを挟む守護聖獣のミラ様から貰った加護は、予想外に有用なものだった。配下との絆に影響を与える……までは良かったんだけど。
「まさか、範囲がここまで広いとはなぁ」
数か月かけて熟成させる予定だった堆肥も、たった半日で完成してしまった。
さっそくその堆肥を撒いてから、悪魔の肉饅頭の種を畑に蒔いてみた。
デビルヘッドとは、ここ数年で魔族領で栽培され始めた新種の野菜だ。見た目がちょっと悪いだが、味は甘くてとても美味しい果物だ。上手く育てば、この村の特産品になるかも……。
そして次の日。
“変化”はすぐに現れた。
「なぁにこれぇ……」
朝、俺が畑に向かうとそこには“畑に実った豚”がいた。
「ぶひひっ」「ぶひっ」「ぶーひぶーひ」
総勢で何匹いるのか、数える気にもならない。
たぶん百は軽く超えているだろう。
そんな豚の大軍が、畑の上で踊っていた。
「これが例のデビルヘッドなんですか……?」
「た、たぶん……? いや、俺の知ってる豚饅頭と違うんだけど」
リディカ姫に訊ねられたが、俺もよく分からない。
本来のデビルヘッドは、悪魔の角と黒ずんだ皮を持ったおどろおどろしい見た目の果実だ。
だが目の前にあるのは、ピンク色の肌をした丸っこいボディに小さな手足が生えた子豚だ。頭には、緑色の葉っぱがアクセントに1枚乗っている。おおよそ恐ろしさとはかけ離れた、愛くるしい見た目だ。
「ぶひ」「ぶーひ」「ぶふーっ!」
「うわ、見つかったぞ!?」
俺が畑に着いたのを察したのか、豚共が全員こっちを向いた。
そして俺とリディカ姫の周りを囲い、前足で器用に拍手をしている。
いや、何の儀式だよ?
「可愛いのニャ!」
「ストラ兄さんを御主人様だって、歓迎しているのです!」
「えぇ……」
その奇妙な行動に理解が追いつかない俺を置き去りにしたまま、豚たちは華麗なステップで踊り始めた。まるでシンクロナイズドスイミングみたいな、見事な協調性である。
「ぶひぶひ!」「ぶーひぷー」「ぶーっ!」
「なんか……すごいですね」
リディカ姫が唖然とした様子で呟いた。
俺も同意見だ。でも何が起きているのかさっぱり分からん。
「ぶっひぃ~?」
ポカンとしていると、踊っていたうちの1匹が俺の元にやってきた。
「え、なに?」
「食べてほしいって言っているです!」
食べるって……え、コイツを?
見た目が愛くるしいから、愛玩動物にしか見えないんだが。食べられるの?
「食べてほしいのか?」
俺が訊ねると、その豚はコクコクと何度も頷いた。
「じゃあ……」
俺はその丸っこい体を抱き上げる。温かくて柔らかい。
いや、なんかコイツを食べるのは可哀想なんだけど……。
「(じーっ)」
躊躇っていると、周りにいる他の豚饅頭たちが、期待の眼差しを向けてきた。これはもう、覚悟を決めて食べろってことだろう。
「えぇい、ままよ!」
パクリ、とひと齧り。
「うっ……!?」
「ど、どうなんですか勇者様?」
「う、う、うまぁぁぁぁい!」
「えぇぇ!?」
リディカ姫が驚くのも無理はなかった。
このデビルヘッドの変異種、滅茶苦茶旨かったのだ。
普通の個体は甘い梨のような味わいなのだが、これは違う。
「まるで肉まん……しかも極上の……」
あまりにもジューシー。しかも熱々。齧ったあとからはホカホカと湯気が出ている。飲み込んだあとも唾液が止まらないくらい、濃厚な味が舌に残っていた。
これはもっと食べたい……と、本能が叫んでいるのが分かる。
それに体が熱くなってきた。たぶんデビルヘッドは、食べるだけで魔力や栄養素を補充できるのだろう。力が漲るようだ。
「わ、私も食べて良いですか?」
「フシも食べたいのニャ!」
「僕も!」
「あたしもー!」
リディカ姫やフシたちが、我先にと飛びついてきた。
「ちょ、ちょっと待てお前ら、ちゃんと全員分いるから! こら、落ち着けって!」
もみくちゃにされ、地面に引き倒された。そんな俺たちの声に誘われて、デビルヘッドたちも嬉しそうに集まってきた。
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