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第33話 魔王様、村の散歩です

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 プルア村の家屋については、復興の目途めどが立った。
 というか大工のゲンさん&オベールさんの登場で、領主である俺の出番がほぼ無くなったと言うのが正しいか。
 とはいえ資材の調達や運搬は、俺の魔法でお手伝いさせてもらっているけれど。


「ただなぁ。この建物が一番最初に完成しそうなのが、なんとも複雑というか……」

 俺が今立っているのは、村の中心部にある元広場だ。

 井戸や時を告げる鐘があって、村が健在だった頃は住人たちの憩いの場だった所。
 それがいまや、誰かさんの私利私欲のために、まったく別の建物へとなり替わろうとしていた。


『なんだ、我が騎士ではないか。そんなところでボサっとして、どうしたンゴ?』
「いや、何でもないッス」
『相変わらずデカい図体で、眠そうにボーっとしおってからに……我の温泉に入って目を覚ましたらどうだ?』
「イエ、用事ガ有ンデ、大丈夫ッス……」

 立派な木造旅館の入り口から、のそのそと顔を出す守護聖獣のミラ様。すっかり我が物顔で、このプルア村温泉に居ついてしまっている。

 ていうか我が温泉ってなんだよ。
 領主である俺の立場はどこへ行った。


『あぁ、クリムに会ったらよろしく言っておいてほしいンゴ。あの者が作ったサウナのおかげで、メッチャ整っているンゴよ』
「サウナ!? いつの間にそんな施設を……」
『じゃ、我はもうひとっ風呂入ってくるンゴねぇ~』

 それだけ言うと、ミラ様は暖簾のれんを潜って再び旅館の中へ戻っていった。
 俺が必死に村の復興のために奔走しているっていうのに、サウナ活動サ活なんて良い身分だなオイ。あとで俺も入れさせてもらおう。


「ま、温泉も人寄せになるしな。勝手に盛り上げてくれるなら、クリムに任せておくか」

 クリムはこの村をとても気に入ったようで、毎日この村を訪れている。
 特に温泉にハマっているらしく、クーと一緒に旅館の建設に精を出したあとは、決まって入浴して帰宅しているほどだ。

 本業である四天王の方は良いのかと思うのだが、本人が大丈夫だと笑い飛ばしているので……きっと大丈夫だろう。

 ついでに奴を温泉大臣に任命しておこう。炎の四天王風呂……うん、いいんじゃないか?


 旅館予定地を離れ、本来の目的地である畑へとやってきた。

 畑の復興予定地は、村の西側を流れる川に程近い場所。50メートルプールが20レーンくらいある広さだ。一度みんなで草むしりはしておいたのだが、ここ数日でまた雑草が生え始めている。

 だいぶ他のことで回り道をしてしまったが、さすがにそろそろ農業にも手を付けなきゃ駄目だろう。

 結局のところ、食料は他の街からの仕入れに頼ってしまっているのが現状だ。それも俺の転移魔法頼りなので、この状況は本当にマズいのだ。


「俺に何かあったら、みんなを飢えさせてしまう。そんなのは絶対に避けなきゃ」

 そう易々とくたばるつもりはないが、常に俺がこの村に居れるとも限らない。

 月に一度は王城に行かなければならないし、他の街に出かける用事ができるかもしれない。もしトラブルに巻き込まれて、数日から数週間も村に戻れなくなったら一大事だ。


「というわけで、今度こそは畑を使える状態にまで復活させるぞー!」
「やりましょう!」

 本日のアシスタントは俺の妻(予定)であり、第三王女であるリディカ姫だ。
 いつもの青いドレスではなく、農作業用のエプロンと麦わら帽子姿でガッツポーズをしている。これがまた可愛いのなんの。

「今日の姫様は、随分と気合が入っているな」

「最近はずっと地味なお仕事ばかりで、あまり活躍できませんでしたからね! ちょっとだけ張り切っちゃっています!」

「あ~。出稼ぎしていた俺の代わりに、事務仕事ばっかり頼んじゃっていたもんな。申し訳ない」
「いえ! 王城でお姉様の陰に怯えながら、暗い部屋で本を読んでいた時代に比べたら何てことないですよ!」

 笑顔で俺を見上げるリディカ姫だが、その青い瞳の奥はドロドロと濁っていた。
 しまった、また彼女の地雷を踏んでしまったようだ。

「と、とにかく。前回の反省を活かして、今回は伝統的オーソドックスな方法で開墾をしていこうと思う」
「はい先生!」

 俺の説明に姫様はピシッと両手を脇につけ、姿勢を真っすぐに正す。今日のリディカ姫は、生徒役として頑張ってもらう予定だ。


「あの、先生。ところでそのオーソドックスな方法というのは、まさかこの……」
「そう。今回は心強い助っ人に、手伝ってもらおうと思ってな。彼らに来てもらったんだ」

 そう言って俺は、畑を縦横無尽に走り回るケルベロウシたちを指差した。
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