32 / 106
第32話 魔王様、建設です
しおりを挟む
「おぉー。自分の村が復興していく光景って、なんだか心躍るなぁ……」
我がプルア村に、トンテンカンと釘を打つ小気味いいハンマーの音が響く。
放置されていた廃屋はすでに取り壊され、代わりに新しい家の柱や基礎が作られ始めている。最初にこの村に来た頃の物寂しい雰囲気は、今はもう微塵も感じられない。
領主兼、村長である俺は、その様子を眺めながら満足気に頷いた。
「何だかんだあったけど、クリムの提案を受けて良かったな」
家屋の建て直しはリディカ姫を始め、フシたち獣人三姉妹も大賛成だった。
守護聖獣のミラ様?
あの白玉兎は『巨大な温泉旅館を作るンゴ!』とか言い出したので、シカトしておいた。
ともあれ住人全員が可決ということで、さっそく俺はナバーナ村に支援を要請することに。
ナバーナ村からプルア村までの移動や工事中の生活。そして賃金を払う条件で、向こうも快く了承してくれた。
ちなみにだが、このお賃金。
勇者が元々持っていたお金は、買い物でほとんど使い果たしてしまったので、新たに稼いでくる必要があった。
仕方ないので、俺は森で魔物を狩り、それを街で売ってきた。何だか最近、村で過ごすよりも森にいる時間の方が長い気がするな……?
「そういえば領地は貰ったけど、王様から支度金を貰っていなかった気がするな?」
……ま、いいか。
月イチで王城に行くし、きっとそのときに貰えるんだろう。
「おう、ストラの兄ちゃん! 木材の調達は上手くいきそうかい!」
「おかげさまで、なんとかなりそうです。ちょうど売り手に困ってる木材屋が街に居たので、安く譲ってもらえました」
声を掛けてきたのは、今回ナバーナ村から派遣されてきたゲンさんだ。彼は大工さんで、なんとこの道50年の熟練らしい。
「……(じー)」
「オベールさんもお疲れ様です」
「……(ぺこっ)」
それとゲンさんの弟子であるオベールさん。とても寡黙な人で喋っているところを聞いたことがない。だけど腕の方は確かで、この二人のおかげで建設がスムーズに進んでいる。
しかもこの二人は魔族なだけあって、魔法を使った建築をしている。浮遊魔法で木材を持ち上げたり切ったりと、重機要らずなのだ。しかもそれがまた早い。この調子でいけば、予定よりも早く完成しそうだ。
「いやぁ~。『森の木を用意したから、これで家を建ててくれ』なんて言われたときは、ビックリしたぜ!」
「ははは、すみませんゲンさん。本当に知識が無かったもんで……」
「まぁ勇者つっても、できねぇこともあらぁな! まぁ俺っち達に任せてくれ!」
日焼けした顔でニカッと笑うゲンさん。
彼のいう通り、恥ずかしながら俺は、森の木があれば家が建つと思っていたのだ。
だがゲンさんいわく、切ったばかりの木材は建設に向かないらしい。
じっくり水分を抜いたり、柱や板材として適した形に変えたりと専門的な技術が要るんだとか。
結局その木材は俺が転移で別の街で売り、専門店で買い直すことになった。まぁ、今となればいい経験となったかな。
だから今はゲンさんにすべてお任せすることにした。指示を出してもらって、それを俺たちが従う。適材適所ってやつだね。
「しっかし、ストラの兄ちゃん。本当に良かったのか? こんな老いぼれ職人に大金を渡してよ。ありゃあ相場よりだいぶ高い給料だぜ?」
「良いんですよ、ゲンさん。その代わり、ナバーナ村の人たちにプルア村は良いところだって宣伝しておいてください」
「んなははは! そりゃあ金なんて貰わずともしてやるさ! なにしろプルア温泉は肩凝り腰痛、擦り傷にまで効く万能温泉だしな!」
ゲンさんが、グッと親指を突き出した。
彼は大金だと言っていたが、俺はそう思っていない。
たとえ相手が老人や女子供だろうと、技術に見合った分はキチンと給金を出すのが当たり前だ。
資金を稼いでくるのは確かに大変だけど、良い人材を引き入れる。そうすればゆくゆくは村のためになる……これは先行投資なのだ。
「ところで、ゲンさん」
「あぁ、アレか? アレは……あんま気にしないでやってくんな」
「う、うーん……」
俺とゲンさんは、村の中央にあるプルア温泉旅館(仮)の建設作業をしている赤髪の男を見やる。
もちろんその男とは、四天王のクリムである。しかも隣にはウチの犬獣人であるクーもいる。パワータイプ同士で気が合ったらしく、一緒に旅館を建てるんだと二人ではしゃいでいた。
「なんで魔王軍のトップが、人族の村で大工仕事を……」
「アイツはたまに行動力がバグるんだ。俺はもう、諦めたよ……」
「クリム様はすごい人だと、憧れていたんだがなぁ……」
ゲンさんは皺だらけの顔で遠い目をしながら、悲しそうに呟いた。
我がプルア村に、トンテンカンと釘を打つ小気味いいハンマーの音が響く。
放置されていた廃屋はすでに取り壊され、代わりに新しい家の柱や基礎が作られ始めている。最初にこの村に来た頃の物寂しい雰囲気は、今はもう微塵も感じられない。
領主兼、村長である俺は、その様子を眺めながら満足気に頷いた。
「何だかんだあったけど、クリムの提案を受けて良かったな」
家屋の建て直しはリディカ姫を始め、フシたち獣人三姉妹も大賛成だった。
守護聖獣のミラ様?
あの白玉兎は『巨大な温泉旅館を作るンゴ!』とか言い出したので、シカトしておいた。
ともあれ住人全員が可決ということで、さっそく俺はナバーナ村に支援を要請することに。
ナバーナ村からプルア村までの移動や工事中の生活。そして賃金を払う条件で、向こうも快く了承してくれた。
ちなみにだが、このお賃金。
勇者が元々持っていたお金は、買い物でほとんど使い果たしてしまったので、新たに稼いでくる必要があった。
仕方ないので、俺は森で魔物を狩り、それを街で売ってきた。何だか最近、村で過ごすよりも森にいる時間の方が長い気がするな……?
「そういえば領地は貰ったけど、王様から支度金を貰っていなかった気がするな?」
……ま、いいか。
月イチで王城に行くし、きっとそのときに貰えるんだろう。
「おう、ストラの兄ちゃん! 木材の調達は上手くいきそうかい!」
「おかげさまで、なんとかなりそうです。ちょうど売り手に困ってる木材屋が街に居たので、安く譲ってもらえました」
声を掛けてきたのは、今回ナバーナ村から派遣されてきたゲンさんだ。彼は大工さんで、なんとこの道50年の熟練らしい。
「……(じー)」
「オベールさんもお疲れ様です」
「……(ぺこっ)」
それとゲンさんの弟子であるオベールさん。とても寡黙な人で喋っているところを聞いたことがない。だけど腕の方は確かで、この二人のおかげで建設がスムーズに進んでいる。
しかもこの二人は魔族なだけあって、魔法を使った建築をしている。浮遊魔法で木材を持ち上げたり切ったりと、重機要らずなのだ。しかもそれがまた早い。この調子でいけば、予定よりも早く完成しそうだ。
「いやぁ~。『森の木を用意したから、これで家を建ててくれ』なんて言われたときは、ビックリしたぜ!」
「ははは、すみませんゲンさん。本当に知識が無かったもんで……」
「まぁ勇者つっても、できねぇこともあらぁな! まぁ俺っち達に任せてくれ!」
日焼けした顔でニカッと笑うゲンさん。
彼のいう通り、恥ずかしながら俺は、森の木があれば家が建つと思っていたのだ。
だがゲンさんいわく、切ったばかりの木材は建設に向かないらしい。
じっくり水分を抜いたり、柱や板材として適した形に変えたりと専門的な技術が要るんだとか。
結局その木材は俺が転移で別の街で売り、専門店で買い直すことになった。まぁ、今となればいい経験となったかな。
だから今はゲンさんにすべてお任せすることにした。指示を出してもらって、それを俺たちが従う。適材適所ってやつだね。
「しっかし、ストラの兄ちゃん。本当に良かったのか? こんな老いぼれ職人に大金を渡してよ。ありゃあ相場よりだいぶ高い給料だぜ?」
「良いんですよ、ゲンさん。その代わり、ナバーナ村の人たちにプルア村は良いところだって宣伝しておいてください」
「んなははは! そりゃあ金なんて貰わずともしてやるさ! なにしろプルア温泉は肩凝り腰痛、擦り傷にまで効く万能温泉だしな!」
ゲンさんが、グッと親指を突き出した。
彼は大金だと言っていたが、俺はそう思っていない。
たとえ相手が老人や女子供だろうと、技術に見合った分はキチンと給金を出すのが当たり前だ。
資金を稼いでくるのは確かに大変だけど、良い人材を引き入れる。そうすればゆくゆくは村のためになる……これは先行投資なのだ。
「ところで、ゲンさん」
「あぁ、アレか? アレは……あんま気にしないでやってくんな」
「う、うーん……」
俺とゲンさんは、村の中央にあるプルア温泉旅館(仮)の建設作業をしている赤髪の男を見やる。
もちろんその男とは、四天王のクリムである。しかも隣にはウチの犬獣人であるクーもいる。パワータイプ同士で気が合ったらしく、一緒に旅館を建てるんだと二人ではしゃいでいた。
「なんで魔王軍のトップが、人族の村で大工仕事を……」
「アイツはたまに行動力がバグるんだ。俺はもう、諦めたよ……」
「クリム様はすごい人だと、憧れていたんだがなぁ……」
ゲンさんは皺だらけの顔で遠い目をしながら、悲しそうに呟いた。
0
お気に入りに追加
1,078
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる