25 / 106
第25話 魔王様、ホンモノです
しおりを挟む『この辺境では、人族と魔族の争いにより沢山の命が奪われてきた』
さっきまでのふざけた雰囲気は消え、守護聖獣様は腹に響くような低い声で語り掛けてくる。
見た目はモコモコした、可愛らしいデカくて丸い兎なのだが、それはさておき。
『このまま土地が血で穢され続け、怒りと悲しみの感情が空気を満たせば……。いずれこの地に封印されている、悪しき神が復活するであろう』
「悪しき神ですって!?」
俺の隣で話を聞いていたリディカ姫が、驚きの声を上げた。
なんだその不穏すぎるワードは。そんなヤバそうな邪神様なんて、魔王時代にも聞いたことが無いぞ?
「リディカ姫は知っているのか?」
「はい。遠い昔に邪神が魔物という災いをこの世にもたらし、当時の勇者らによって封印されたという伝説があるんです」
なるほど?
要するに魔物のボスがその悪しき神ってことか。
でも俺たちに、どうしろっていうんだ?
まさか勇者(中身は魔王)である俺に、その邪神を倒せって言うんじゃ……。
『だが安心するがいい。この地を守護する我がいる』
「守護聖獣サマが?」
『いかにも。我がこの地に顕現したのは、その悪しき神が復活を阻止するためだ』
その言葉を聞いて、俺は思わず「おおっ!」と歓喜の声を上げた。
「では、具体的にはどんなことをするんです? 魔物退治? それとも聖なる結界で浄化するとか……」
『ん? 別にしないンゴ』
いや、しろよ。
俺の期待を返せ、聖獣!
そんな俺の心中を、リディカ姫が代弁してくれた。
「え、しないのですか?」
『うむ。神やその眷属である我は、人々に認識され、崇められてこそ存在できる。この辺境に住まう人の子たちが、我の存在に気づくまで……我はこの地に降り立てなかった。だから今は、この地に宿る魔力を使って顕現するのが精一杯なのだ』
「そ、そうなのですか……」
『しかし安心したまえ。いずれは力を取り戻し、この地に住む者に我の加護を与えようぞ! さすれば邪神を再封印することも、必ずや可能となるであろぉぉおう!』
守護聖獣様はそこまで言うと、カッと目を見開いて天を仰いだ。と同時に、長くて白い兎耳がファサッとめくれ上がる。
「す、すごいです!! 聖獣様の加護をいただけるなんて!」
『うむ……だがそのためには、この地に清らかなる心を持つ住人を増やし、我の力を溜めねばならん!』
リディカ姫が守護聖獣様の言葉に感嘆の声を上げ、俺も同意する。
しかし守護聖獣様は、俺たちに向かって力強く語り始めた。
『そして人族と魔族の争いが長引くことで発生する、負の気と感情エネルギー。まずはその根源を断ち切る! それこそが邪神復活の最善手じゃ!』
おぉー、なんだかホンモノの聖獣っぽいことを言い出したぞ?
「では私たちはこの村を争いの防波堤とし、両種族が手を取り合える場を提供できれば……」
『そうじゃ。魔王が勇者に討ち果たされたことで、一旦は戦争が止むだろう。だがそれも長くはもたん。人族の侵略や魔族の逆襲が始まる前に……ん?』
リディカ姫の言葉に答えていた聖獣様が、ふと俺たちに視線を向けた。正確には、俺を見詰めて目を丸くしている。
『おぬし!? その身に宿す魔力はもしかして……』
あっ、やばっ!?
なんか気付いたぞコイツ!
『……まぁよい。おぬしをここの代表とみて、ちょいと話がある。耳を貸せ』
「な、なんだよ……」
『おぬし――魔王じゃな?』
0
お気に入りに追加
1,078
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる