20 / 106
第20話 魔王様、入浴の時間です
しおりを挟む――ブシャアアアア!!
クーがあけた穴から、大量の水が柱となって噴き上がっていた。
「これって……地下水!?」
まさかクーは、水が湧く場所を掘り当てたのか!?
「す、すげー……」
俺は地面に膝をつき、呆然と呟いた。
「ニャニャッ!? これ、あっつい水なのニャ」
顔や体についた土を洗い流そうと近付こうとしたフシが、悲鳴を上げながら戻ってきた。たしかに、ちょっと触れただけでも火傷しそうなほどの温度である。
「ストラゼス様、これって大変な事態なんじゃ……」
「あ、あぁ……ヤバいぞこれは」
顔を真っ青にさせたリディカ姫が、俺の腕をつかむ。彼女の言う通り、これはこの村の未来を左右する大事件だ。
「まさか熱湯が噴き出てくるなんて……こんな危険な場所じゃ、余計に人が避けちゃいますね……」
「――ん? いや、むしろ逆だぞ。これでさらなる人寄せができる!」
「え? 逆??」
「あぁ、温泉っていう大きな観光資源だぞコレ! よくやったぞ、クー。大手柄だ!」
だがそのクーを含め、四人はキョトンとしている。
あぁ、もしかしてこの国には温泉っていう文化が無いのか?
「なら、言葉で説明するよりも実践だ。さっそくみんなで入ってみよう」
◇
「はうぅ……ここは天国だニャア……」
魔法で作った急ごしらえの温泉に、オッサンみたいな声を出したフシがプカプカと浮いていた。
子供とは言え、もちろん湯あみ用の水着モドキを着せている。今回はお試しだし、家族風呂みたいなもんだと思って細かいマナーは置いておこう。
なにより温泉の良さを分かってくれれば、それで良い。
「ピィも入れば良かったのになァ」
「あの子は水に濡れるのが嫌いなのです! 普段から、行水させるだけでも苦労しているのです!」
「まぁいつか慣れてくれるだろ。興味はありそうだったしな」
「なのです~!」
すっかり闇堕ちモードは解除され、いつもの温厚なクーに戻っている。温泉の癒し効果のおかげか?
「ところで姫様は……」
「こ、こっち見ないでください!」
「あー、すまんすまん。見ない見ない」
服を着ているとはいえ、リディカ姫は異性と同じお湯の中へ入ることに抵抗があるらしい。
まぁ普通の女の子ならそうだよな。
魔王時代はあんまり気にしない奴が多かったせいで、すっかりその感覚を忘れていた。
懐かしいなぁ。俺が入浴していると、四天王のアクアや妹のシャルンたちが頻繁に乱入してきたっけ。
「元気しているかなぁ、アイツら……」
懐かしさと罪悪感が混じった溜め息が、湯けむりの中に溶けて消えていく。
戦いで死んで勇者の体を乗っ取ってから、そのまま黙って国を出てしまった。本当は全部説明しておけばよかったんだが、一刻も早く魔王が死んだと伝えて、戦争を終わらせる必要があった。
だけど……今になって思えば、それは間違いだったって分かる。魔王や勇者が居なくなったところで、人間たちの争いは止まらない。
……過ぎたことをいつまでも悔やんでも仕方がない。大事なのはこれからだ。
「まぁ互いに生きていれば、アイツらとはまた会うこともあるだろう」
シャルンや四天王は優秀な奴らだ。むしろ俺よりも上手く、魔族をまとめてくれるに違いない。
そんなことを考えていると、クーが俺の隣にやってきた。
「ストラ兄さん」
「ん? どうした?」
彼女は俺の隣に座ると、温泉を手のひらで掬って水面を見つめ始めた。しばし無言の時間が流れ……おもむろに口を開いた。
8
お気に入りに追加
1,078
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる