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第13話 魔王様、お出掛けです

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「やっぱり、まずは畑を作ろうと思うんだ」

 煮魚定食を囲う夕食の席で、俺は四人に向かってそんな話を切り出した。

「畑、ですか」
「うん。川魚も良いんだけど、他にも食料があった方が絶対に良い」

 首を傾げるリディカ姫に、俺はそう答えた。

 毒まみれだった川に魚が戻ってきたおかげで、当面は飢える心配が無くなった。だけど魚ばっかり食べていては、栄養が偏ってしまう。
 まだまだ育ちざかりな子が居ることだし、三人を預かる大人としてキチンと考えねば。


「フシは別に、毎食がサカナでも大歓迎ニャ」
「俺も魚は好きだけど、バランスを考えようぜ。というか、せめて毎食は勘弁してくれ」

 お魚大好きな猫獣人のフシは構わないんだろうけど、こんな調子では俺が作る魚料理のレパートリーが尽きてしまう。

 今回の煮魚だって、貴重な砂糖や醤油っぽい調味料を使って頑張って作ったのだ。たまに食べるのはいいけど、毎回は勘弁して欲しい。


「それに、今後は住人を増やしていく予定なんだ。備蓄も必要だし、食糧問題は解決しておきたい」
「作りたいなら、作ればいいよ―?」

 鳥獣人のピィは箸に魚を突き刺したまま、それを口の中に入れた。相変わらずお行儀が悪いな……コイツ。

「でも畑はやったことがないのです!」

 魚のあら汁を啜っていた犬獣人のクーが、元気にそう言った。


「もちろん畑の基本的な知識は知ってるから、その点に関しては安心してくれていい」
「ストラ兄って凄いのニャ。見た目はアホっぽいのに、意外に頭がえてるのニャ」
「見た目については言うな。問題は何を植えるのかと、種をどこで調達してくるか……」

 畑を作っても、適当に育ててすぐに収穫出来るわけじゃない。
 どのくらいの規模の畑を耕して、何の野菜を育てるかキチンと計画を立てないと。

 本当なら経験者が村に来てくれれば、その人に任せられるんだが。


「ともかく明日になったら、この近くにある領の街に種を買いに行こう」

 そこでこの土地で育てられる植物の情報を得てから、具体的な畑の運用方法を考えればいい。

 まぁ魔王をやっていた頃に比べたら、なんてことない仕事だ。サクっとこなして、俺の有能さをリディカ姫たちにも知ってもらおう。


 ◇

 今後の会議を終えた翌朝。
 俺と鳥獣人のピィはプルア領の上空を飛んでいた。

「あっちに小鬼の魔物がいるー!」
「おい、あんまり腕の中で動くなって!」

 俺の飛翔魔法は一人用だ。
 だからこうしてピィを腕で抱えながら、不自由な恰好で飛んでいる。

 だというのに、彼女はこっちの心配はなんのその。黄色いショートカットの頭を左右に動かして、眼下の景色を楽しんでいる。


「さっきみたいに、また落ちたらどうするんだよ!」
「えぇー? だーいじょうぶだよー」

 ちなみにだが、さっきまでは俺の背中に乗せて飛んでいた。
 だけど途中で興奮したピィが手を放して、危うく墜落しそうになったのだ。急いで俺がキャッチしたので事なきを得たものの……この子、全然りた様子がない。

「帰りは絶対に転移魔法だ。ピィと飛んでいたら俺の心臓がもたんわ」

 当初の予定では、フシかクーあたりを連れて行く予定だったんだけどなぁ。
 直前でクーが高所は怖いと拒絶し、フシが「ピィが適任だニャ」と言って逃げたのだ。フシのやつ、今ごろ昼寝でもしてサボっているに違いない。

 しかしピィが適任って、どういうことだろう。
 空高くを飛んでいるのに、地上にいる魔物を発見したりと目がかなり良い。何かを探すのには役立ちそうではあるが……。


「村あったよー」
「お、そうか。ありがとなピィ」

 プルア村を出発してから約1時間の空の旅を終え、俺たち二人は隣領にあるティリングの街へと到着した。



 ティリングは広大な平原の中にある、緑豊かな街だ。
 地上に降りて街の入り口に向かうと、たくさんの荷馬車が門を出入りしていた。

「へぇ、ずいぶんと活気があるんだな」
「人たくさんー」

 王都と比べると規模は小さいが、人の多さで言ったら負けていない。
 辺境の近くなのにどうしてかと思えば、この街が穀倉地帯にあるのが理由のようだ。

 ここで育てられた良質な麦を買い付けに来る商人や、その商人を相手に商売する人々が続々と集まってくるらしい。


「なるほどなぁ。他の街と違って、街に入る際の税金を取っていないのか」

 入街税が無ければ商人も来やすくなるし、結果的に街にお金を落としてくれるんだそうで。
 国の中央からは高い税金を要求されているそうだが、そこは領主が上手くやりくりをしているんだとか。

 そんなことを、門で会った商人から教えてもらった。


「種を売っている店も教えてもらったし、さっそく向かおうか」
「すぴー」
「……やっぱり一人で来れば良かった」

 難しい話が始まった途端に寝てしまったピィを背負い、俺はティリングの街へと足を踏み入れた。

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