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第12話 魔王様、浄化です
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それから数日後のこと。
俺が川で釣りをしていると、対岸の方で獣人三人娘たちの姿を見かけた。
どうやらまた魚を獲りに来たらしい。
フシは釣り竿を持ちながら、器用に猫の長い尻尾で糸を手繰り寄せている。
そんな彼女の真似をして失敗する犬獣人のクー。
鳥獣人のピィは……チョウチョを追いかけて遊んでいた。
「長閑な日々って良いですね」
「そうだな……」
俺の隣ではリディカ姫が川に足を伸ばし、プラプラと揺らしていた。
冷たい川の水も、今日みたいな暖かい陽気の日には丁度いい。彼女の言葉に俺は静かに同意する。
「これも姫様が、水を浄化してくれたおかげだな」
川を汚染していたベノムワームの毒は、綺麗サッパリと無くなっていた。
本来なら時間を掛けてゆっくりと洗い流されていくはずだったんだが。まさかのリディカ姫が浄化魔法の使い手だったとは。
「なんであんな凄い力を隠し持っていたんだ?」
俺が彼女にそう訊ねると、「あはは……」と少し気まずそうに答えた。
「別に隠すつもりは無かったんですよ? 単に王都じゃ使い道が無かったというか……」
「まぁ、治療術師や聖職者がいるもんな」
規模と威力に違いはあれど、治療や浄化の魔法は人族も使えるはずだ。それに薬師が作る治療薬も優秀だと聞いている。
今回みたいに広範囲の土地に毒が回っているとかじゃないかぎり、彼女の本領が発揮されるシーンは無かっただろう。
「元々は誰かの役に立ちたいと思って、頑張って特訓をしていたんです。昔、とある人に魔法で助けてもらって……」
「へぇ、そうなのか」
「憧れってやつですね。今じゃその人、どこで何しているか分かりませんが」
恋する乙女のように、頬を染めて空を見上げるリディカ姫。
そうか、本当は彼女にも好きな人が居たんだな。無理やりここに引っ張ってきてしまった罪悪感が、心をズキンと痛ませた。
「これは勇者のストラゼス様だけに教えちゃう、私の秘密なんですけどね?」
「……うん?」
ひみつ?
急にどうしたんだろう。
この場には二人しかいないのに、リディカ姫は口元に手を添えて、俺の耳にコソコソと囁き始めた。
「実は私、幼い頃にこことは別の辺境にある村で、魔物に襲われたことがあって」
「へぇ、魔物に」
辺境は魔物が多いからな。そんなこともあるだろう。しかし子供がそんな目に遭ったら、魔物がトラウマになりそうだな。
「あやうく食べられそうになったところを、カッコイイ魔族の人に救ってもらったんです。とっても強くて、あ、もちろん勇者様も強いですよ? でもその人はとってもクールで、ちっとも恩着せがましくなくって!」
「ん、んん……?」
「お礼を言おうと思ったんですけど、目の前でパッと消えちゃって……」
あ、あれ。それって転移魔法……?
その話って、まさか?
「あとから気付いたんですけどね。その人ってなんと、魔王ウィルクスだったんです! 魔族が人族を助けたなんて、ビックリですよね?」
お、おう。俺もめっちゃビックリした。
そういえば過去にそんなことがあったかも……しれない。
いやゴメン。ぶっちゃけ、あんまり覚えてないぞ……?
「だから私、勇者様のこと内心ではかなり恨んでいるんです。魔王討伐が平和の為だったとはいえ、私の恩人でしたから……」
「……そうか」
「ごめんなさい。本当は言おうか迷っていたんですけど。隠し続けるのも悪い気がして」
だから城で会ったとき、勇者ストラゼスに冷たく当たっていたのか。
しかし魔王が恩人かぁ……なんだか事情が複雑になっちまったな。
「うーん、なんだか喋ったらスッキリしました。やっぱり誰かに聞いて欲しかったのかもしれません」
リディカ姫はそう言うと、川から足を上げて立ち上がった。
そしてクルリと回り、スカートの裾をふわりと浮かせながら俺の方を見る。
「まだまだお互いのことを知るべきだと思うんです、私たち。だからこれから少しずつ仲良くしましょうね、勇者様!」
その屈託のない笑顔を見ていると、なんだか俺の心まで浄化されそうだ。
俺も彼女になら正体を打ち明けられるかもしれない――。
そんな事を思っていると、少し離れた場所から声が聞こえてきた。
「ストラ兄! お魚いっぱい獲れたのニャ! 今日は焼き魚を所望するのニャ!」
「明日はお肉がいいです! お肉狩りにいきましょう!!」
「ちょうちょ、おいしいー」
犬、鳥、猫。
獣人三人娘が両手に魚を抱えながら、こちらに手を振っていた。ピィが口をモゴモゴとさせているが、何を食べているかはあえて聞くまい。
「今日こそは私、お魚を完璧に捌いてみせますよ!」
「……そうだな。じゃあついでに、新しい魚料理を伝授しようか」
「はい! よろしくお願いしますね、先生」
リディカ姫に釣られて笑顔になりながら、俺は彼女たちの下へ歩き出した。
――――――――――――――――――
「ストラゼス様。とある世界で『ファンタジー大賞』が始まったそうですよ」
「あー、らしいな。読者さんの応援で、受賞する確率がUPするんだとか」
「『投票』をしてもらった作者が、気持ち悪い顔をしていたニャ!」
「僕も見たのです!」
「見たのー」
「ちょっ、三人とも……」
「…………あんまり言ってやるな」
「え、えっと。清き一票を入れてくださると……」
「作者はともかく、フシたちのためによろしくニャ!」
「なのです!」
「よろしくー」
俺が川で釣りをしていると、対岸の方で獣人三人娘たちの姿を見かけた。
どうやらまた魚を獲りに来たらしい。
フシは釣り竿を持ちながら、器用に猫の長い尻尾で糸を手繰り寄せている。
そんな彼女の真似をして失敗する犬獣人のクー。
鳥獣人のピィは……チョウチョを追いかけて遊んでいた。
「長閑な日々って良いですね」
「そうだな……」
俺の隣ではリディカ姫が川に足を伸ばし、プラプラと揺らしていた。
冷たい川の水も、今日みたいな暖かい陽気の日には丁度いい。彼女の言葉に俺は静かに同意する。
「これも姫様が、水を浄化してくれたおかげだな」
川を汚染していたベノムワームの毒は、綺麗サッパリと無くなっていた。
本来なら時間を掛けてゆっくりと洗い流されていくはずだったんだが。まさかのリディカ姫が浄化魔法の使い手だったとは。
「なんであんな凄い力を隠し持っていたんだ?」
俺が彼女にそう訊ねると、「あはは……」と少し気まずそうに答えた。
「別に隠すつもりは無かったんですよ? 単に王都じゃ使い道が無かったというか……」
「まぁ、治療術師や聖職者がいるもんな」
規模と威力に違いはあれど、治療や浄化の魔法は人族も使えるはずだ。それに薬師が作る治療薬も優秀だと聞いている。
今回みたいに広範囲の土地に毒が回っているとかじゃないかぎり、彼女の本領が発揮されるシーンは無かっただろう。
「元々は誰かの役に立ちたいと思って、頑張って特訓をしていたんです。昔、とある人に魔法で助けてもらって……」
「へぇ、そうなのか」
「憧れってやつですね。今じゃその人、どこで何しているか分かりませんが」
恋する乙女のように、頬を染めて空を見上げるリディカ姫。
そうか、本当は彼女にも好きな人が居たんだな。無理やりここに引っ張ってきてしまった罪悪感が、心をズキンと痛ませた。
「これは勇者のストラゼス様だけに教えちゃう、私の秘密なんですけどね?」
「……うん?」
ひみつ?
急にどうしたんだろう。
この場には二人しかいないのに、リディカ姫は口元に手を添えて、俺の耳にコソコソと囁き始めた。
「実は私、幼い頃にこことは別の辺境にある村で、魔物に襲われたことがあって」
「へぇ、魔物に」
辺境は魔物が多いからな。そんなこともあるだろう。しかし子供がそんな目に遭ったら、魔物がトラウマになりそうだな。
「あやうく食べられそうになったところを、カッコイイ魔族の人に救ってもらったんです。とっても強くて、あ、もちろん勇者様も強いですよ? でもその人はとってもクールで、ちっとも恩着せがましくなくって!」
「ん、んん……?」
「お礼を言おうと思ったんですけど、目の前でパッと消えちゃって……」
あ、あれ。それって転移魔法……?
その話って、まさか?
「あとから気付いたんですけどね。その人ってなんと、魔王ウィルクスだったんです! 魔族が人族を助けたなんて、ビックリですよね?」
お、おう。俺もめっちゃビックリした。
そういえば過去にそんなことがあったかも……しれない。
いやゴメン。ぶっちゃけ、あんまり覚えてないぞ……?
「だから私、勇者様のこと内心ではかなり恨んでいるんです。魔王討伐が平和の為だったとはいえ、私の恩人でしたから……」
「……そうか」
「ごめんなさい。本当は言おうか迷っていたんですけど。隠し続けるのも悪い気がして」
だから城で会ったとき、勇者ストラゼスに冷たく当たっていたのか。
しかし魔王が恩人かぁ……なんだか事情が複雑になっちまったな。
「うーん、なんだか喋ったらスッキリしました。やっぱり誰かに聞いて欲しかったのかもしれません」
リディカ姫はそう言うと、川から足を上げて立ち上がった。
そしてクルリと回り、スカートの裾をふわりと浮かせながら俺の方を見る。
「まだまだお互いのことを知るべきだと思うんです、私たち。だからこれから少しずつ仲良くしましょうね、勇者様!」
その屈託のない笑顔を見ていると、なんだか俺の心まで浄化されそうだ。
俺も彼女になら正体を打ち明けられるかもしれない――。
そんな事を思っていると、少し離れた場所から声が聞こえてきた。
「ストラ兄! お魚いっぱい獲れたのニャ! 今日は焼き魚を所望するのニャ!」
「明日はお肉がいいです! お肉狩りにいきましょう!!」
「ちょうちょ、おいしいー」
犬、鳥、猫。
獣人三人娘が両手に魚を抱えながら、こちらに手を振っていた。ピィが口をモゴモゴとさせているが、何を食べているかはあえて聞くまい。
「今日こそは私、お魚を完璧に捌いてみせますよ!」
「……そうだな。じゃあついでに、新しい魚料理を伝授しようか」
「はい! よろしくお願いしますね、先生」
リディカ姫に釣られて笑顔になりながら、俺は彼女たちの下へ歩き出した。
――――――――――――――――――
「ストラゼス様。とある世界で『ファンタジー大賞』が始まったそうですよ」
「あー、らしいな。読者さんの応援で、受賞する確率がUPするんだとか」
「『投票』をしてもらった作者が、気持ち悪い顔をしていたニャ!」
「僕も見たのです!」
「見たのー」
「ちょっ、三人とも……」
「…………あんまり言ってやるな」
「え、えっと。清き一票を入れてくださると……」
「作者はともかく、フシたちのためによろしくニャ!」
「なのです!」
「よろしくー」
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