上 下
6 / 106

第6話 魔王様、疑われています

しおりを挟む

 不審者の正体は魔物ではなく、獣人の子供たちだった。

 その数は三人。犬猫鳥とそれぞれ異なる特徴を持っている。
 違う種族同士だが、全員がただの布としか思えない粗末なボロキレをまとっていた。こちらにはまだ気付いていないようで、仲良く身を寄せ合って寝ていた。


「ストラゼス様、この子たちは……」

 いつの間にか背後に来ていたリディカ姫が小声で囁いた。

「おそらく、魔物から逃げる際に置いていかれたんだろう。獣人は都市部じゃみ嫌われているからな」

 人族と魔族は互いに戦争をしちゃいるが、何も全員がそういうわけじゃない。
 特にここは国と国の境目という土地柄もあって、種族を越えて結ばれることが多い。そうして生まれるのが獣人だ。

 だがそれぞれの国の都市部に近付くにつれ、差別されてしまうケースが増える。魔族はともかく、人族は『魔族は悪』と決めつけて戦争を起こしたって理由もあるしな。


「ストラゼス様……」

 そんな子供達を前に、リディカ姫は心苦しそうに俺の名を呼んだ。きっと彼女は、彼らの境遇に同情しているんだろうが――。

「取り合えず、起こして事情を聞いてみよう」

 今俺たちが最優先でしなければならないこと。それは食糧の確保と安全な寝床の確保だからだ。悪いがこの子たちに協力してもらおう。


「おぅ、お前ら。大丈夫か?」

 リディカ姫にテーブルの下で待機してもらいつつ、俺は子供たちに声をかけた。

「……何者ニャ!?」
「うわっ! あぶねぇ!」

 すると突然、猫の獣人が俺に飛び掛かってきた。突然の事に驚いたものの、反射的に避けて身構えた。

 床に落ちた子供はすぐさま起き上がり、またこちらに襲いかかってきた。
 だがその動きは素人目に見ても遅いし、キレもないように見える。そんな子供が繰り出す攻撃をかわすのは容易たやすい。


「落ち着け、俺たちは決して怪しいものじゃない」
「ウソニャ! 人間族は信用できないニャー!」

 猫の少女にまた飛び掛かられるが、それを腕で受け止める。少女は俺の手をガブガブと嚙み付いてくるが、痛くもかゆくもない。

「大丈夫、大丈夫だから……な?」

 そんな少女の体を抱きかかえたその時である。彼女の口から『ガリッ』という鈍い音がしたかと思うと――小さな牙が俺の指の皮膚を食い破った。

 いや本当にちょっと痛かったけど、これくらいなら!


「ほら、危害を加えるつもりは無いから離してくれ」

 そんな俺たちを見て、後方にいた犬耳の少女と鳥少女が、おそるおそる近付いてきた。そして二人はそれぞれ猫少女の体を抱きかかえると、俺を睨みつけてきた。

「……おじさんは敵なのです!?」
「悪い人なのー?」

 どうやらかなり警戒されているみたいだが……まぁそれも仕方がないか。
 だが子供たちは、空腹で元気がないようだ。もう暴れたり威嚇したりするような気力はないらしい。


「違うぞー。俺は勇者ストラゼス。悪者を倒す、正義の味方だ」
「勇者……正義の味方……」

 子供たちが互いに顔を見合わせ、小さな声で何かを話し合っている。そして彼女らの口から出てきたのは、予想通りの反応だった。

「嘘だニャー! そんなぶくぶく太った勇者がいるわけないニャ!」
「まだ魔王って言われた方が納得できるです!」
「善人面してるゲスの顔してるー!」

 うぐ……まぁ中身は魔王なんだけどさ。
 あと顔とデブ体型は勇者のせいだ、俺は悪くない。


「……でもフシに嚙まれても怒らなかったです! 本当に悪者じゃないのですか?」

 フシというのは猫娘のことか?
 取り敢えず、犬耳の少女の言葉に俺は大きく頷く。

「あと、そっちに居るのがこの国の姫さんだ。ほら、勇者と姫。おとぎ話みたいだけど本物だぞ?」

 後ろでコッソリと様子を窺っていたリディカ姫を親指でクイッと差しながら、子供たちに紹介した。

 すると子供たちは、いきなり黄色い歓声を上げ始めた。

「本物ニャー! 本物のお姫様ニャ!」
「疑ってごめんなさいです!」
「可愛いひとー!」

 そんな二人の様子にリディカ姫が苦笑すると、ようやく子供達も警戒をいてくれたらしい。

 おい、なんでアッサリ認めるんだよ。俺のときには全く信じなかったのに。

 ……ま、いいか。

「それよりお前たち。これから一緒にメシを食わないか?」

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

幼女エルフの自由旅

たまち。
ファンタジー
突然見知らぬ土地にいた私、生駒 縁-イコマ ユカリ- どうやら地球とは違う星にある地は身体に合わず、数日待たずして死んでしまった 自称神が言うにはエルフに生まれ変えてくれるらしいが…… 私の本当の記憶って? ちょっと言ってる意味が分からないんですけど 次々と湧いて出てくる問題をちょっぴり……だいぶ思考回路のズレた幼女エルフが何となく捌いていく ※題名、内容紹介変更しました 《旧題:エルフの虹人はGの価値を求む》 ※文章修正しています。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

最強の男ギルドから引退勧告を受ける

たぬまる
ファンタジー
 ハンターギルド最強の男ブラウンが突如の引退勧告を受け  あっさり辞めてしまう  最強の男を失ったギルドは?切欠を作った者は?  結末は?  

我慢してきた令嬢は、はっちゃける事にしたようです。

和威
恋愛
侯爵令嬢ミリア(15)はギルベルト伯爵(24)と結婚しました。ただ、この伯爵……別館に愛人囲ってて私に構ってる暇は無いそうです。本館で好きに過ごして良いらしいので、はっちゃけようかな?って感じの話です。1話1500~2000字程です。お気に入り登録5000人突破です!有り難うございまーす!2度見しました(笑)

処理中です...