上 下
3 / 106

第3話 魔王様、出発です

しおりを挟む
「なんで選んだのかって、迷惑だったか?」

 質問に質問で返されたのが嫌だったのか、リディカ姫は少しだけ眉をひそめてから、ゆっくりと首を横に振った。

「迷惑だなんて、そんなことはありません」
「じゃあ何が不満なんだ?」
「その、私に求婚した理由です。私はミレーユお姉様と違って美しくないし、爵位の低い母の生まれだから……」

 ああ……そういえば王様も去り際に「本当に良いのか?」って顔してたしな。


「でもさ、なんでそんなこと気にしてんの?」
「え?」

 俺はリディカ姫の目をジッと見ながら言葉を続けた。

「別に、親が誰だろうと『この子とは結婚したくない』ってことはないさ。もちろん人によるけど、少なくとも俺にとってはな」

 貴族とか王族には家柄が大事なんだろうけどさぁ、思考が一般市民な俺には正直どうだって良い。
 いやまぁ、逆に庶民の俺が『王族と釣り合わない』とかって言われたら、返す言葉なんてないんだけどさ。


「それにミレーユ姫は騎士団長とデキてるんだろ?」
「えっ、どうしてそれを!?」

 うーん、騎士団長が姫を連れてきたときの雰囲気とか?

 騎士団長、終始俺のこと睨んでたもん。絶対に俺のこと、殺したいとか思ってるよアレ。

「だからリディカ姫も、少なくとも俺相手に引け目を感じる必要は無いぞ」
「……そう、ですか」

 俺の言葉に、ようやく彼女はホッとした表情を見せた。


「それにリディカ姫だって美人じゃん。ミレーユ姫とはまた違ったタイプの」

 そう言うと、何故か彼女は顔を赤くした。

「……か、からかわないでください!」
「いや、別にからかったつもりは……」

 いや違うわコレ。照れてんだわ。どうやら彼女は褒められ慣れてないらしい。

 そんな反応をされると……なんだろう、もっと褒めたくなるな! 


「……なんだか、以前に聞いていた貴方の印象とはだいぶ違いますね」

 俺が褒めちぎり、彼女が怒るというのを何度か繰り返していると、リディカ姫が小声でボソっと呟いた。

「ん、そうか?」
「はい。勇者ストラゼスは無類の強さを誇る。しかし性格は極めて傲慢で、己の覇道を妨げる者に対しては容赦しない……とちまたでは有名でしたので」
「あー……なるほどね」

 たしかに彼女の言う通り、俺――というか、勇者の評判は酷いものだ。
 いわく、自分が強くなるためには、味方の犠牲もいとわないとかなんとか。アイツのために泣かされた民衆や兵も多いという話は、遠く魔族領にまで届いていた。

 実際に魔王城で戦ったときの鬼気迫ったアイツの表情は……正直言って、魔王の俺も恐怖を感じたほどだった。


「でもこうして実際に会った貴方は、とても優しい人のように感じます」
「そ、そうか?」
「はい。少なくとも私の目には、そう映りました。もちろん、まだ気を許したわけではありませんけど」

 そう言ってはにかむリディカ姫は、お世辞抜きでとても可愛らしい。

 ああ……ダメだわコレ。なんかもう、めっちゃ嬉しいんですけど!
 そんな可愛い笑顔で言われたら、お兄さん照れてしまうよ?

 ていうかどうしよう。今の俺は勇者の体を借りた魔王だ。最初よりも印象が良くなっているのは喜ばしいのだけど、バレたときの反動が怖い。

 ……少なくとも、妻となるこの子には正直に話しておこうか。

 そう思って口を開きかけた――その時だった。


「――ッ!」
「ストラゼス様? 急に廊下の方を見て、どうかしましたか」

 廊下に居る誰かがこちらの様子を窺っている。それもどす黒い殺意をまとって。

 誰か勇者をこころよく思わない奴が俺の命を狙っているな?
 騎士団長か、また別の派閥か……。こりゃあ、ちょっと面倒だぞ?


「リディカ姫、今からハネムーンにお誘いしても?」
「はい、分かりました。……え? ハネムーン?」

 部屋の外から、複数の鎧の音が聞こえてきた。彼女に説明している暇はなさそうだ。準備もなく、慌ただしい出発になるのは申し訳ないが――。

「ちょいとお体を失礼」
「えっ、ちょっ……きゃあっ!?」

 俺はソファーに座るリディカ姫を抱きかかえ、転移魔法の発動を始める。

 やっぱり人間の貴族社会は面倒だ。
 これからは、辺境の地で平和なスローライフを目指そうじゃないか。


→第4話 魔王様、噂されています

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

幼女エルフの自由旅

たまち。
ファンタジー
突然見知らぬ土地にいた私、生駒 縁-イコマ ユカリ- どうやら地球とは違う星にある地は身体に合わず、数日待たずして死んでしまった 自称神が言うにはエルフに生まれ変えてくれるらしいが…… 私の本当の記憶って? ちょっと言ってる意味が分からないんですけど 次々と湧いて出てくる問題をちょっぴり……だいぶ思考回路のズレた幼女エルフが何となく捌いていく ※題名、内容紹介変更しました 《旧題:エルフの虹人はGの価値を求む》 ※文章修正しています。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

最強九尾は異世界を満喫する。

ラキレスト
ファンタジー
 光間天音は気づいたら真っ白な空間にいた。そして目の前には軽そうだけど非常に見た目のいい男の人がいた。  その男はアズフェールという世界を作った神様だった。神様から是非僕の使徒になって地上の管理者をしてくれとスカウトされた。  だけど、スカウトされたその理由は……。 「貴方の魂は僕と相性が最高にいいからです!!」 ……そんな相性とか占いかよ!!  結局なんだかんだ神の使徒になることを受け入れて、九尾として生きることになってしまった女性の話。 ※別名義でカクヨム様にも投稿しております。

ゲームの中に転生したのに、森に捨てられてしまいました

竹桜
ファンタジー
 いつもと変わらない日常を過ごしていたが、通り魔に刺され、異世界に転生したのだ。  だが、転生したのはゲームの主人公ではなく、ゲームの舞台となる隣国の伯爵家の長男だった。  そのことを前向きに考えていたが、森に捨てられてしまったのだ。  これは異世界に転生した主人公が生きるために成長する物語だ。

処理中です...