16 / 21
第16話 フロアボスと新たな力
しおりを挟む新宿幻妖ダンジョンの十階。
無人になった駅のホームで、俺たちはフロアボスとの戦闘を繰り広げていた。
「そっちに行ったぞヴァニラ!」
「まかせて!」
ボスは二メートルを超える、一本角のオーガ。鬼の怪物で有名な、あの茨城童子だった。
「さぁ、私と踊りましょう?」
『グアァアァアッ!』
茨城童子が左手で巨大な金棒を振るい、ヴァニラが自前の戦鎚で受け止める。
正面からぶつかり合った金属同士が鈍い音を立て、紅い火花がホーム下の線路へと落ちていった。
「くっ……隻腕なのに、なんてパワーなの!」
「そりゃ日本最強の鬼に並ぶバケモンだからな、油断すんなよ!」
茨城童子は“女”という説がある。
それに倣ったのかは分からないが、コイツは美しい顔をした女型の鬼だった。
巨体から放たれる一撃はどれも重く、ハンマーゴリラのヴァニラと力はほぼ互角。しかも茨城童子に右腕はなく、左手一本でこの強さである。
まさに修羅の鬼。
長い黒髪を振り乱し、ヴァニラを殴り殺さんと執拗に責め立てる。
(ヴァニラはどうにか耐えているけど、このままじゃ押し負けるだろうな……)
そう判断した俺は、ヒルダに「援護を頼む」と視線で合図を送る。
無言で頷いたヒルダは、メイド服のスカートをたくし上げた。太ももに隠してあったナイフとフォークを取り出し、茨城童子の両足へ高速で撃ち放つ。
「ちっ、脳筋に見えて意外と冷静ですね」
茨城童子は、それらを右腕で難なく弾き飛ばした。そう、無いはずの“右腕”だ。
まるで糸のついたマリオネットのように、茨城童子の右腕が奇怪な動きで飛びまわる。そしてお返しとばかりに、ヒルダに向けて腕が飛んでいった。
「ヒルダ!」
俺はとっさに叫んだが、彼女は慌てる素振りも見せず冷静に対処した。
背中に目がついているかのような動きで体をひねり、ジャンプで右腕を躱して自動販売機の上にふわりと乗った。
そして変形させた火炎放射器で反撃を試みるという、まさに忍者のような身のこなしだ。
(……す、すげぇ)
ダンジョンボス戦では油断で負傷していたが、彼女の本気をここで改めて実感した。
しかしヒルダも戦闘特化ではないためか、優勢とまではいかないようだ。茨城童子からしたら蚊に刺された程度にしか感じないようで、鬱陶しそうに右腕を振っているだけだった。
とはいえ、さすがの茨城童子も、素早い二人の相手に手いっぱいとなったようだ。
(さすがに三本目の腕はねぇだろうよ)
女二人が体張って隙を作ってくれてるんだ。男(?)の俺がこのまま指を咥えて見てるワケにはいかない。
「銀大福、力を貸してくれ!」
『ぷっぷー!』
右手に握る俺の武器、金属バットに銀大福が飛びつき、コーティングするように形を変えていく。
そして出来上がったのは、先端に小さな角を生やした銀色の棍棒。銀大福を融合させて作った、俺の新武器“金砕棒”だ。
(攻撃のスピード、振り下ろしの癖。お前の攻撃パターンは、だいたい見させてもらったぜ!)
ホーム上で繰り広げられる戦闘を横目に、俺は線路に降りると、茨城童子の背後へと忍び寄った。そして高く飛び上がり、力の限りを込めた横スイング攻撃を仕掛けた。
とはいえ隠密のスキルなんかは持ち合わせていない。当然ながら振り向かれて、相手の金棒に防がれてしまう。
『ガァアアッ!』
「うおっ……重てぇ!」
想像以上のパワー。金砕棒から伝わる衝撃が、両腕をビリビリと痺れさせた。
ダンジョンマスターになって身体能力が向上したとはいえ、渾身の一撃でビクともしないなんて。マトモに喰らったら、俺なんかは一瞬でミンチ肉にされそうだ。
(あ、やべっ!?)
金砕棒へさらなる衝撃が走ったかと思えば、次の瞬間には自分の体が宙を舞っていた。
まるでトラックに跳ねられたような勢いだ。強烈な反撃を喰らって、後方へ吹き飛ばされてしまった。
「ナオト!」
「大丈夫、あとは任せろ」
だけどこれは想定通り。ヴァニラを下がらせることには成功だ。代打の底力を見せてやるぜ。
着地と共に跳躍し、再度アタック。
迫り来る茨城童子の頭に合わせて、俺は金砕棒を振り下ろす。
しかし今度はガードもせず、茨城童子は余裕の笑みを浮かべて飛び込んできた。
「避ける必要もねぇってか? だがその油断は命取りだぜ……?」
『……ガッ!?』
ミシリと何かが軋む音と同時に、茨城童子の動きがピタリと止まる。
脳天に直撃した金砕棒が、想像した以上の痛撃だったようだ。
「どうだ? 格下から喰らう痛みの味は?」
『……!? !?!?』
「はは、どうしてって顔してんな。だが説明はしねーから、身をもって理解しろ」
ボサっと突っ立っているうちに、俺はもう一度金砕棒を握りしめる。
今度は振り上げ、俺の頭上にある茨城童子の顎を狙った攻撃だ。
「おらっ!」
肉と骨がつぶれ、砕けるような鈍い音がした。俺の放った会心の一撃で、茨城童子は膝をつき倒れこむ。
(……やっべぇなこの武器)
銀大福と融合させることで、攻撃力も防御力も大幅にアップした。けれどそれ以上にヤバいのが、特殊効果だ。
【鬼の目にも涙】
・攻撃を受ける度に、自身の攻撃力UP。
・増加する割合は敵の力に依存する。
<あの攻撃ヤバくない?>
<急にダメージ入り始めたよね>
<銀ちゃん凄い!>
今回は食堂の宣伝を兼ねているので、戦闘中もカメラは回しっぱなしだ。耳に装着したマイク付きイヤホンから、読み上げたコメントが聞こえてくる。
「いや、たしかに銀大福のおかげだけどさ……」
俺が下剋上をし始めたことに驚く声もあるが、大半は銀大福を褒め称えるものばかり。
なんだかちょっとだけ納得のいかなさを感じつつ、今は追撃に集中する。
次第に攻撃力を増していく俺の殴打に、茨城童子は為す術がない。フロアの床に蹲ってしまった。
このままどこまで攻撃力が上がるのか試してみたいところだが、もういいだろう。奴の頭に、俺は金砕棒を振り下ろす。
そして――
「おらっ、トドメだ!」
彼女の頭を容赦なく粉砕した。
「ふぅ、終わったな」
茨城童子の体が崩れ落ちるのを見た後、俺は金砕棒を元の形に戻して銀大福を回収する。
するとヴァニラが駆け寄ってきた。怪我の有無を確認しようと手を伸ばしてきたので、「大丈夫だよ」と手で制止する。
ふっふっふ、これでヴァニラの腰巾着という汚名は返上だな。今の俺って、結構カッコよかったんじゃないか?
<あそこまでボッコボコにした必要ある?>
<女に手を上げるなんてサイテー>
<最後の方、笑ってたんだけど……(怖)>
<クソDV男じゃん>
「いやなんでだよ!? 相手はモンスターだぞ、やらなきゃこっちが殺されるっつーの!」
<うわ、モラハラですか>
<絶対結婚しちゃいけない男No.1>
<さすが童貞(笑)>
<ユウキ君がマジ可哀想>
「だからなんで俺の味方がゼロなんだよ!?」
みんな好き勝手言いやがって……。
だがまぁ、これでこのフロアも制圧した。経験値もガッポリだし、なにより――。
「宝箱が出たな」
「お宝ね」
「中身が楽しみですね」
『ぷっぷー!』
ホームにあるベンチの上に、巨大な段ボールが出現した。
しかも横にはデカデカと通販サイトの名前が書いてある。でもなんでAMAZ〇N?
「開けてみるか……」
外見が何であれ、これは宝箱だ。
ロマンもクソもないけど、これを開けて中に入っているもの次第じゃ、俺たちの旅はもっと楽になる。
「じゃあ開けるぞ……せーのっ!」
俺は段ボールの蓋に手をかける。そして一気に開け――ようと力をこめた時だった。
「お、こんなところに人がいるじゃねーか! ……なぁ、悪いんだが誰か酒を持っていないか?」
――酒?
三人と一匹が声のした方を振り返る。
そこには草臥れたスーツ姿に無精ヒゲを生やした、赤ら顔のオッサンが立っていた。
0
新作です!HOTランキングにも登場中!?ぜひ見てみてください!【ブヒィ!?】悪徳な白豚勇者と呼ばないで~辺境で健全なスローライフを始めたら痩せてイケメンに!?可愛くて有能なモフモフも集まって大盛況~
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

異世界に来たからといってヒロインとは限らない
あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理!
ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※
ファンタジー小説大賞結果発表!!!
\9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/
(嬉しかったので自慢します)
書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン)
変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします!
(誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願
※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。
* * *
やってきました、異世界。
学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。
いえ、今でも懐かしく読んでます。
好きですよ?異世界転移&転生モノ。
だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね?
『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。
実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。
でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。
モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ?
帰る方法を探して四苦八苦?
はてさて帰る事ができるかな…
アラフォー女のドタバタ劇…?かな…?
***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる