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第5話 ちょっとやり過ぎた……?
しおりを挟むヴァニラ達がラストフロアまで侵入したタイミングで、俺達は仕掛けたエロトラップを発動させた。
放送事故になりかねないヒルダの案だが、その効果は絶大だった。
「な、なんだこれは! 体が動かん!」
「ぬぅぅ、ボクの服が溶けてるっ!?」
モンスターの大群で通路を塞ぎ、毒霧で視界を奪い、落石で退路を断つ。そこで落とし穴と武装解除の罠が発動。
為す術もなく落ちた三人は、地上から首だけが出た状態で、悲鳴を上げていた。
(まさにチートダンジョンだな……)
そこに感覚遮断の弱体効果を持つ触手スライムの沼まで加われば、もう勝ち目はない。
後は三人が大人しくなるまで待つだけだ。
「とはいえ、こんなにも上手くいくとは……」
ゴブリンの姿に擬態した俺は、少し離れた位置からその現場を見つめていた。
これは我が眷属となった、シルバースライムの能力を借りたものだ。
隣では小さいロックゴーレムの見た目になったヒルダが、腕を組んで満足そうに頷いている。
「ヒルダ、恐ろしい子……ここまでする必要はなかっただろうに……」
「何を言っているんですか。彼女たちには散々酷いことを言われましたし、これくらいやってもバチは当たらないでしょう?」
やれやれと首を左右に振るヒルダ。
たしかに、この光景を見ている俺もスッキリしているけど……。
「でもお前の主であるヴァニラまで、あの落とし穴の中だぞ?」
「……あとで、わたくしの代わりに謝っておいてください」
「俺のせいにする気かよ!?」
ヒルダは一瞬の間のあとに、俺とは真逆の方向に視線を向けた。さすがに触手スライムをヴァニラに襲わせてはいないが……絶対に怒るだろうなぁ。
「そういえば配信のコメント欄は大丈夫なのか?」
「…………」
無言で差し出されたタブレットを見て、俺の選択は間違いだったと理解した。
<何もできずに捕まったぞ!?>
<あの狂人スカーレットが……>
<まさか雑魚モンスターで油断を誘った?>
<このダンジョン、侮れないぞ……>
「な、なんだこの罠は! 何かに体をまさぐられているのに、感覚が無くなっていくぞ!?」
「スカーレット殿、ボクを助けてくれ! なんだかすごく嫌な予感が……あっやめてくれ、ボクのパンツが脱がされてる!」
二人はもがくように体を動かしているが、すでに下半身は丸出し。そしてじわじわと体力と服を溶かされている。
あれ?
ちょっとコレやりすぎじゃない?
「んっ。口に触手が……ウグッ、苦しい!」
「や、やめろ! ボクは絶対に屈しな――んほぉぉぉっ!?」
半狂乱になっていたユウキは、白目を剥いて気絶してしまった。イケメンの顔が台無しである。
それを間近で見たスカーレットは、涙目で頭をイヤンイヤンさせている。
<お、恐ろしい……>
<落とし穴の中で何が起きているんだ?>
<あの地球人、すごい顔をしたぞ>
<今すぐ救出に行くべきだろ!?>
そのコメント欄を見ていた俺とヒルダは、同時に悟った。
(……このダンジョン、潰されるわ)
その後もしばらく配信を続けたが、もはや俺達の悪評しか広まらなかった。
スカーレットとユウキは何度か気絶と覚醒を繰り返し、しまいには反応が無くなってしまった。たぶん生きてはいると思うが……涙と涎で酷い有様だ。
「どうしようこの状況――ん?」
「じぃっ……」
沈黙した現場をヒルダと眺めていたら、ヴァニラと目が合った。
「なぁヒルダ。俺たち見られてないか?(小声)」
「見てますね。というか、すごい怪しんでますよね(小声)」
「だよな……。しかもなんでずっと黙ってるんだ?」
ヴァニラは喚いたり怒ったりもせず、ただ沈黙を貫いているのだが、その理由が分からない。
……と思ったら、ヴァニラが口を開いた。
「二人とも、これはどういうことですか?」
「!?」
ここへ来るまでの、怒り狂った般若のような怒りは消えてはいる。だが、とても静かな口調だ。むしろ今の方が怖いかもしれん。
「私たちを穴に落としたのは誰ですか?」
「す、すみませんお嬢様! すべてはナオトさんがいけないのです!」
「ちょっ、ヒルダ!?」
「あっ」
淡々としたヴァニラの喋り方にビビったのか、ヒルダがあっさりとゲロってしまった。
簡単に裏切りやがって……。
このポンコツメイド、本当に俺の眷属か?
「つまりナオトが元凶だと」
「えっと……その……」
下を向いて黙ってしまったヒルダは、スカートの裾をギュッと掴んで体を震わせ始めた。
あ、駄目だコイツ。
飼い主に逆らえない犬の状態だ。
「二人の仕業なのね?」
(隠し通すのは無理か……)
もう誤魔化しようがないと悟った俺達は、ヴァニラの前で土下座した。
「申し訳ございませんでしたァ!」
「わたくしたちも、スカーレット様たちを止めるために、仕方が無かったんです!」
このまま殺されても仕方ない、という覚悟で頭を下げる。二人してスマホのバイブみたいにブルブルと震えている。
そんなことをしていると、なぜかヴァニラはクスクスと笑い始めた。
「別に私は怒っていないわよ?」
あ、あれ……?
意外な反応に、思わず拍子抜けした。
「だって私……見た目が違っていても、すぐに貴方たちだって気付いていたもの」
「お嬢様……」
「だけど無事だったなら、先にそう教えてほしかったわね」
安堵混じりの笑顔を向けられ、俺達はようやく顔を上げた。
心配をかけてしまったのは、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「それに落とし穴は、さすがにやり過ぎよ」
「わ、悪かった」
「うぅ……すみませんお嬢様……」
ぐぅの音も出ねぇ……。
至極まっとうなお𠮟りである。
「それで? こんな状況になっているってことは、二人のどちらかがダンジョンマスターになったのよね?」
「ボスに止めを刺したのは俺だ。なりゆきだけど、俺がダンマスになっちまった」
「そう、ナオトが……」
ヴァニラは眉を下げた。
少し困った顔だ。
「そうなると、船のみんなを説得する必要があるでしょうね」
他のメス星人を説得……それも当然か。
事故とはいえ、地球人がダンマスだもんな。
「地球人嫌いのシルヴィア様にバレたら、ダンジョンごと一瞬で灰にされるかもしれません」
「あ~、それはマズいわね」
そんな物騒なヤツがいるのか?
二人が警戒するくらいだから、よっぽどヤバいヤツなんだろう。なんとなくだけど、スカーレット以上に危険な匂いがする。
うん、絶対に会いたくないな。
「さっきのシーンも配信されたんでしょう? たぶん、警戒されちゃったわね」
「それは主に、ヒルダがやり過ぎたせいだけどな」
「お嬢様の悪口を言われて、つい……」
しかし説得っていってもなぁ。
俺がダンジョンの管理者でも役に立つ。そう思ってもらえれば良いのか?
メス星人を魅了できるような、何か……。
「……よし!」
俺は一つの決断をした。
それはこの先も自分が生き残る上で、重要なことだ。そのためなら手段は選ばない!
「二人とも」
「はい?」
「なにかしら」
「これから俺は、メス星人を食事で説得しようと思う」
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