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聖杯の章
JOKER 透影の紅
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「そんな、俺は、でも紅莉を愛していたのに……」
「あははは!! そうだよ。両想いだったんだろう? まったく、笑っちゃうよね。でも、紅莉は昔からずっと考えていたんだ。悠真クンを手に入れるにはどうすれば良いかって。その為に、幼馴染とその母親を利用した。あの女を唆したのが誰か分かるかい? ……紅莉だよ。自分が悪魔を復活させたから協力しろ。今度こそ、一緒に暮らせるようにしてやるから、って。わざわざ鳥かごのカッコウになっていた日々子の元に会いに行ってまでしてさぁ」
紅莉は星奈の母親のことを知っていた……?
ぜんぶ、俺と星奈を別れさせるために……?
「紅莉がずっと日々子と連絡を取っていたのだって、気付いていなかったのかい? 星奈のスマホを盗んで日々子に持たせていたけど?」
「まさか、星奈と連絡が取れなかったのも……どうして、そこまでして……」
「日々子がボクを神と崇め、ボクを手に入れようとしたように。紅莉にとっての神は悠真クン、キミだった。自分を絶望から救ってくれた人と、たとえ死んでも離れたくない。――だからあの子は、思い付いたんだ。本の中でなら魂はずっと一緒だと」
長椅子の上にあった黒い本……あの日々子が持っていた呪術の本を取り、俺の前でヒラヒラとこれ見よがしに見せつけてきた。
「本を集めればボクの力は戻り、永遠に本の中の世界は守られる。紅莉が目指したのは、本の中でキミと暮らすこと」
「そんな……ならどうして俺は星奈を……あの女をこの手で殺してまで……」
思い出したくもない、肉が抉れていく感触が手に戻る。ガタガタと震えてきた。
手も真っ赤で、ぬるぬるで……
「いくら他人を護るためとはいえ、人を殺めた。純粋だったキミが罪を犯す過程は……ふふっ。実に見ものだったよ」
「そ、それじゃあ……俺の、呪いは……」
「術者が死んでも消えることはない。解くには本が必要だったから。そしてその本は……ふふふ。この通り、ボクの手の中にある」
「よ、寄越せよっ!!」
興奮し過ぎたのか、今度は鼻から血が流れてきた。鼻が詰まって、さっきから漂っていた臭いにおいが分からなくなったから丁度いい。
ラブホテルで出逢った時のカズオのように、甘酸っぱい臭いがしていたから。
その代わり、かゆい。かゆいかゆいかゆい……。
「嫌だよ。これはボクのものだ。それにどちらにせよ、もう時間だ」
「え――」
マルコが紅莉の持っていたコンパクトミラーを取り出し、見せてきた。
鏡に映っていた俺は真っ赤で……
ドロドロと流れた紅い影が……
透明だった……俺の……
「さようなら悠真クン。本の中で紅莉と末永くお幸せにね。ふふっ、ふふふふ。あははは!!」
遠くなっていく意識の中、悪魔のような笑い声が教会に木霊していた。
―了―
「あははは!! そうだよ。両想いだったんだろう? まったく、笑っちゃうよね。でも、紅莉は昔からずっと考えていたんだ。悠真クンを手に入れるにはどうすれば良いかって。その為に、幼馴染とその母親を利用した。あの女を唆したのが誰か分かるかい? ……紅莉だよ。自分が悪魔を復活させたから協力しろ。今度こそ、一緒に暮らせるようにしてやるから、って。わざわざ鳥かごのカッコウになっていた日々子の元に会いに行ってまでしてさぁ」
紅莉は星奈の母親のことを知っていた……?
ぜんぶ、俺と星奈を別れさせるために……?
「紅莉がずっと日々子と連絡を取っていたのだって、気付いていなかったのかい? 星奈のスマホを盗んで日々子に持たせていたけど?」
「まさか、星奈と連絡が取れなかったのも……どうして、そこまでして……」
「日々子がボクを神と崇め、ボクを手に入れようとしたように。紅莉にとっての神は悠真クン、キミだった。自分を絶望から救ってくれた人と、たとえ死んでも離れたくない。――だからあの子は、思い付いたんだ。本の中でなら魂はずっと一緒だと」
長椅子の上にあった黒い本……あの日々子が持っていた呪術の本を取り、俺の前でヒラヒラとこれ見よがしに見せつけてきた。
「本を集めればボクの力は戻り、永遠に本の中の世界は守られる。紅莉が目指したのは、本の中でキミと暮らすこと」
「そんな……ならどうして俺は星奈を……あの女をこの手で殺してまで……」
思い出したくもない、肉が抉れていく感触が手に戻る。ガタガタと震えてきた。
手も真っ赤で、ぬるぬるで……
「いくら他人を護るためとはいえ、人を殺めた。純粋だったキミが罪を犯す過程は……ふふっ。実に見ものだったよ」
「そ、それじゃあ……俺の、呪いは……」
「術者が死んでも消えることはない。解くには本が必要だったから。そしてその本は……ふふふ。この通り、ボクの手の中にある」
「よ、寄越せよっ!!」
興奮し過ぎたのか、今度は鼻から血が流れてきた。鼻が詰まって、さっきから漂っていた臭いにおいが分からなくなったから丁度いい。
ラブホテルで出逢った時のカズオのように、甘酸っぱい臭いがしていたから。
その代わり、かゆい。かゆいかゆいかゆい……。
「嫌だよ。これはボクのものだ。それにどちらにせよ、もう時間だ」
「え――」
マルコが紅莉の持っていたコンパクトミラーを取り出し、見せてきた。
鏡に映っていた俺は真っ赤で……
ドロドロと流れた紅い影が……
透明だった……俺の……
「さようなら悠真クン。本の中で紅莉と末永くお幸せにね。ふふっ、ふふふふ。あははは!!」
遠くなっていく意識の中、悪魔のような笑い声が教会に木霊していた。
―了―
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