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聖杯の章
♡12 悪夢と悪魔
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「起きて、悠真くん……」
誰かの声に導かれるように、悠真はゆっくりと覚醒していく。
んん、と何回か身じろぎをした。
目蓋がやたらと重たく感じる。というより全身が物凄く怠い。それに……なんだだろう。どこかで嗅いだことのある甘酸っぱい匂いが、ツンと鼻を刺した。
「まぶしい……」
太陽の光が差し込んでいるのか、眩しい。視界がぼんやりとしている。
逆光になっているが、誰かが自分を見下ろしているようなシルエットが目に入った。
……そうだ。前にも似たようなことがあった。あれはたしか、公園で――。
「あか、り……?」
そうだ、間違いない。あの時のように、紅莉が俺を起こしてくれたんだ……。
まばたきを何度か繰り返り返しているうちに、悠真はようやく意識がハッキリとしてきた。
俺は何で寝ているんだ?
胸を刺された紅莉を助けようとして、俺は化け物女を……それから……それから、どうした!?
「紅莉っ!?」
がばっと上体を起き上がらせる。
俺は気を失っていたのか?
いや、誰かが俺達を助けてくれたんだ。だって目の前にいるのは――!!
彼女の無事を確かめようと、目を良く凝らす。だが、そこに居たのは――紅莉ではなかった。
「女神の……像?」
まだ幾らか眩んでいる頭を片手で押さえながら、辺りを見回してみる。
どうやらここは教会の礼拝堂のようだ。自分は祭壇の前に寝かされている。
そして紅莉だと思っていたのは、祭壇にある女神の像だった。面影は似ているが、断じて彼女ではない。
「あれは……マルコ? どうしてここに……」
礼拝堂には自分の他に一人しか人の影は無かった。
マルコは長椅子に足を組んで座り、平和そうなニコニコとした表情でこちらを眺めていた。
「どうしてって、まだ寝ぼけているのかい悠真クン。ここはボクの教会だよ?」
「いや、それは……俺は、いったい……?」
「君は丸二日も寝ていたんだ。ボクがその間の世話をしていたんだよ」
「二日も!? って、紅莉はどうなったんだ!? アイツ、胸を刺されて――」
「残念だけど、ボクが見付けた時には紅莉はもう亡くなっていたよ」
マルコは本当につらそうな表情でそう告げた。だが悠真はその言葉の意味を理解できなかった。
「は……? し、死んだ……?」
「満足そうな、安らかな死に顔だったよ。まったく、自分勝手で酷いよね~」
死んだ。紅莉が、死んだ……?
俺が見た時には、まだ生きていたはずだ。病院に連れて行けば助かったはずだ。
それを、目の前の悪魔は『死んだ』だって?
「おい、お前は何を呑気に言っているんだよ!! そ、そうだ。神の眷属なら、どうにかできるだろ!? 紅莉を生き返らせてくれよ!」
「残念ながら、死んだ魂を元に戻すことはできないんだ。時を巻き戻せないのと同じくね」
「そんな馬鹿なことがあってたまるか! お前だって紅莉が好きだったんだろ! どうして助けないんだよ!!」
「――それに、だ。紅莉はそんなことを望んじゃいなかった」
そんな馬鹿な。
紅莉は俺と一緒に居たいと言っていた。
生きて、これからもっともっと楽しいことを分かち合うはずだったのに!!
「気付いていないようだから、代わりにボクが教えてあげよう。これは全て、紅莉が望んだことなんだ。最初から、ね」
「はぁ? 最初からって、どういうことだマルコ!」
「簡単に言えば、キミは最初から紅莉に騙されていたんだ。――正直言って、キミは紅莉のことを何にも分かっちゃいなかったんだ」
「お前に俺の何が分かるっていうんだ!!」
なんなんだ。紅莉が望んだって。
そんなわけがあるわけがない。この数日間、俺と一緒に生き延びるために必死で呪いに抗って来たじゃないか。
「キミは覚えているかい? 紅莉がここでキミの運勢をタロットで占った時のことを」
誰かの声に導かれるように、悠真はゆっくりと覚醒していく。
んん、と何回か身じろぎをした。
目蓋がやたらと重たく感じる。というより全身が物凄く怠い。それに……なんだだろう。どこかで嗅いだことのある甘酸っぱい匂いが、ツンと鼻を刺した。
「まぶしい……」
太陽の光が差し込んでいるのか、眩しい。視界がぼんやりとしている。
逆光になっているが、誰かが自分を見下ろしているようなシルエットが目に入った。
……そうだ。前にも似たようなことがあった。あれはたしか、公園で――。
「あか、り……?」
そうだ、間違いない。あの時のように、紅莉が俺を起こしてくれたんだ……。
まばたきを何度か繰り返り返しているうちに、悠真はようやく意識がハッキリとしてきた。
俺は何で寝ているんだ?
胸を刺された紅莉を助けようとして、俺は化け物女を……それから……それから、どうした!?
「紅莉っ!?」
がばっと上体を起き上がらせる。
俺は気を失っていたのか?
いや、誰かが俺達を助けてくれたんだ。だって目の前にいるのは――!!
彼女の無事を確かめようと、目を良く凝らす。だが、そこに居たのは――紅莉ではなかった。
「女神の……像?」
まだ幾らか眩んでいる頭を片手で押さえながら、辺りを見回してみる。
どうやらここは教会の礼拝堂のようだ。自分は祭壇の前に寝かされている。
そして紅莉だと思っていたのは、祭壇にある女神の像だった。面影は似ているが、断じて彼女ではない。
「あれは……マルコ? どうしてここに……」
礼拝堂には自分の他に一人しか人の影は無かった。
マルコは長椅子に足を組んで座り、平和そうなニコニコとした表情でこちらを眺めていた。
「どうしてって、まだ寝ぼけているのかい悠真クン。ここはボクの教会だよ?」
「いや、それは……俺は、いったい……?」
「君は丸二日も寝ていたんだ。ボクがその間の世話をしていたんだよ」
「二日も!? って、紅莉はどうなったんだ!? アイツ、胸を刺されて――」
「残念だけど、ボクが見付けた時には紅莉はもう亡くなっていたよ」
マルコは本当につらそうな表情でそう告げた。だが悠真はその言葉の意味を理解できなかった。
「は……? し、死んだ……?」
「満足そうな、安らかな死に顔だったよ。まったく、自分勝手で酷いよね~」
死んだ。紅莉が、死んだ……?
俺が見た時には、まだ生きていたはずだ。病院に連れて行けば助かったはずだ。
それを、目の前の悪魔は『死んだ』だって?
「おい、お前は何を呑気に言っているんだよ!! そ、そうだ。神の眷属なら、どうにかできるだろ!? 紅莉を生き返らせてくれよ!」
「残念ながら、死んだ魂を元に戻すことはできないんだ。時を巻き戻せないのと同じくね」
「そんな馬鹿なことがあってたまるか! お前だって紅莉が好きだったんだろ! どうして助けないんだよ!!」
「――それに、だ。紅莉はそんなことを望んじゃいなかった」
そんな馬鹿な。
紅莉は俺と一緒に居たいと言っていた。
生きて、これからもっともっと楽しいことを分かち合うはずだったのに!!
「気付いていないようだから、代わりにボクが教えてあげよう。これは全て、紅莉が望んだことなんだ。最初から、ね」
「はぁ? 最初からって、どういうことだマルコ!」
「簡単に言えば、キミは最初から紅莉に騙されていたんだ。――正直言って、キミは紅莉のことを何にも分かっちゃいなかったんだ」
「お前に俺の何が分かるっていうんだ!!」
なんなんだ。紅莉が望んだって。
そんなわけがあるわけがない。この数日間、俺と一緒に生き延びるために必死で呪いに抗って来たじゃないか。
「キミは覚えているかい? 紅莉がここでキミの運勢をタロットで占った時のことを」
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