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聖杯の章
♡11 夢の中で
しおりを挟むかろうじて、まだ生きてはいるのだろう。
ただ、それは魂が彼女の身体にこびり付いているだけ。それもいつ剥がれてしまうか分からない状態だった。
「どうして……紅莉……」
悠真の声にまばたきで反応するも、目が見えていないのか焦点が定まっていない。
割れてしまった砂時計のように、彼女から熱を持った赤い液体が流れ落ちていく。
「う、あぁ……」
上か下かの二分の一の勝負に勝利した日々子が、先に意識を取り戻した。
右手を骨折したのか、起き上がろうとして失敗していた。
それでも諦めず、今度は紅莉の傍に落ちていた本に向かって地面をずるずると這い始めた。
もはや日々子は、本に対する執念だけで動いている。
「お前が……お前の、せいで……!」
それは十六年間という悠真の人生で、初めて湧いた感情だった。
自分たちを追いつめた、全ての元凶が憎い。
紅莉がこんな可哀想な姿になったのに、どうしてコイツが生きている。
コイツがこの世に存在している理由は一体なんだ?
たくさんの人を殺した犯罪者を野放しにしていいのか?
一刻も早く、目の前から消し去ってしまわねばならないだろう。
間違いない。コイツが悪で、俺が正義だ。
いや、自分がどんな罪を被ろうと構わない。
このままでは俺も殺される。紅莉に護ってもらったのに?
そんなことは、許せない。絶対に、赦せない。
気付けば悠真は行動に移していた。
紅莉に刺さっていた棒状の異物を素早く抜き去り、害虫の如く這いまわる日々子に跨ると、ソレを彼女の背中に目掛けて力の限り突き刺した。
何度も、何度も。
グチャッ、グチャッと音を立てながら肉が掘削されていく。
肉片が自分の顔に飛び跳ねようが構わない。
日々子はそれでも必死に本へと手を伸ばそうとするも、悠真が馬乗りになっているために届かない。
途中で何か断末魔のような怨嗟の声を上げるが、悠真の耳には全く入っていなかった。
ただ、それもしばらくすると聞こえなくなった。
それでも、悠真の手は止まらなかった。
ただ肉をミンチにするような音が、神の居る教会の前で響いていた。
やがて、悠真の体力にも限界が訪れる。
その頃には、日々子はもう日々子でなくなっていた。
ただ失敗した昆虫標本のように、無残な姿となった肉の塊が地面に縫い止められていた。
悠真はだらりと項垂れた。
これで終わったのだ。すべてが。
自分の身体はもはや誰の血かもか分からないほどに、真っ赤に汚れきっている。
涙のように、顔からぼとりぼとりと雫が落ちていった。
「あか、り……」
悠真が愛した女はもう、息をしていなかった。
もう、死んでもいい。
ここに神様が居るのなら、どうぞお好きに自分をあの世に連れて行ってくれ。
そう思いながら、悠真の意識は闇に落ちていった。
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