透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~

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聖杯の章

♡9 教会で鬼ごっこ

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「えっ?」

 もうどうしようもなくなって、全てを諦めかけた時。

 悠真の口が唐突に塞がれた。
 なぜ急にこのタイミングでキスをされたのかは分からない。紅莉の顔が離れた後も、悠真は口を開けて唖然としてしまっていた。


「大好きだよ、悠真君。私、待っているからね。悠真君なら、きっと……」
「紅莉、何をっ――!」

 悠真が手を伸ばして紅莉を止めようとするが、彼女は日々子の前に立ちはだかった。


「貴方が欲しいのはこの本でしょう!?」

 紅莉の手に持っているのは、先ほど汐音しおんから託された手相の本。
 現状、悠真たちに残されている中で、唯一の切り札となり得るモノだ。


「寄越せぇえ……!!」
「だったらこっちに来なさいっ!!」

 勇気を絞り出すように大声をあげ、紅莉は教会の二階へ続く階段に向かって走り出す。
 本という餌を見せつけられた日々子も、星奈の首を放り出して紅莉の後を追い始めた。

 木製の階段が壊れてしまいそうなほどの大きな音を立てながら、女二人は駆け上っていく。
 呆気に取られていた悠真も、紅莉が危ないとようやく理解が追いついた。

 振るえる手と足を支えにしながら、這うように起き上がる。


 急がねば、彼女まで殺されてしまう。
 それは、嫌だ。

 何ができるかとか、あの女を止められる術があるとか、そういうのは全く考えられなかった。身体は逃げたいと悲鳴を上げているが、頭のどこかが逃げては駄目だと叫ぶのだ。

 それはまるで何かの呪いのようだったが、行動を始めるには十分な理由だった。


「紅莉――!!」

 滲む視界の中、二度三度足がつんのめりそうになりながらも階段を上っていく。

 キッチンには居ない。廊下の先にある部屋のドアが開いている。


 ガシャン、と何かが割れる音。
 急いでその部屋に向かう。三日前に悠真が泊まった寝室だ。ベッドの上にガラスが散乱している。

 二人とも、部屋には居ない。ベランダへ繋がる窓を割って、外へ出たようだ。
 そこにも紅莉の姿はなく、日々子は空を見上げて何かを睨んでいるところだった。


 紅莉はまだ捕まっていない。だが、何処へ?

 彼女の無事を確かめるべく、悠真もベランダへ急いで近寄る。
 日々子が窓の脇にあった梯子はしごに足を掛けようとしていた。紅莉は更に上に逃げたらしい。


 ――急がないと。

 悠真がベランダに出ようとした時、窓枠に残っているガラスに身体が引っ掛かった。

 腕に赤い筋が走る。じんわりと熱を感じたが、小さな傷を気にしている場合じゃない。

 梯子は細い鉄製で頼りなかったが、気にせず登り始めた。日々子はすでに屋根の上に立っているのだ。急がなければ。


 悠真が二人に遅れて梯子を上り切ると、二人はそこに居た。
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