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聖杯の章
♡8 二度と変わらぬ表情
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教会の入り口に立っていたのは、全身を煤だらけにした長身の女だった。
かつての可憐な乙女だった姿はどこにもない。
長い髪は炎に巻かれてしまったのかボロボロで、ところどころ短くなってしまっていた。
「本をぉお……寄越せぇええ……」
真っ赤に充血した目を剥き出しにして、唸り声を上げている。
知性のようなものはまるで感じられない。狙ったモノは絶対に逃さないといった、肉食獣並みの執念だ。
右手にはもはや元の形状が何だったのかも分からない、細長くて黒い塊を持っている。
そして左手には悠真たちも知っている、あるモノが掴まれていた。
「そんな……嘘だ……」
「駄目っ、悠真君!! 近付いたら殺されちゃうっ!!」
ソレに駆け寄りそうになった悠真を、隣りにいた紅莉が必死に引き留める。
悠真にとって、それは信じがたく……とにかく違って欲しいという願いで、頭がいっぱいだった。
「どうして……星奈っ!!」
星奈と呼ばれたソレは、虚ろな目で悠真を見つめていた。
ただし、頭だけの状態で。
雑に切り離されたのか、首はグチャグチャに潰され、切断面からは赤黒い血肉がボトボトと零れている。
もちろん、そんな状態で生きているはずもない。日々子に髪を掴まれた状態で、鞄のようにブラブラと揺れていた。
「ふっ、ふふっ……せ、なぁ? 私のぉお大事な娘ぇえ」
「ひっ!?」
悠真が叫んだ星奈という言葉に、日々子が反応した。
グイッと自分の目線まで星奈の頭部を持ち上げ、悠真と星奈の間で視線を往復させる。
日々子の血走った瞳に驚いた悠真は、その場で尻もちをついてしまった。
悠真は顔面を蒼白にさせながら、必死に思考を巡らせた。
理解ができない。何をどう考えても、あの化け物女が何を言っているのかが分からないのだ。
星奈が娘? 星奈があの化け物女の娘!?
そんな馬鹿な。星奈は俺の彼女だった子だぞ!?
いや、待て。そういえば星奈の母親を見たことがない。
家に行くと、出迎えてくれたのはいつも父親の方だった。
コイツが母親だったから、会わせたくなかったってことなのか?
「せっ、せせなっ! あの御方のっ私のォおおっ……」
……だとしてもだ。娘の生首をどうして平気な顔をして持っていられるんだよ!
そんなブランドのバッグみたいに持ち歩くモノじゃない。
この女は他人だけじゃなく、実の娘まで手に掛けたのか? それも本のため?
なぜ、そこまでして。なぜ、なぜ。
「どうして……星奈……」
冷たく接され、別れたつもりになっていたとはいえ、嫌いになったわけじゃない。そもそも星奈は自分から好きになって、告白までした相手だ。
いつもケラケラと無邪気な笑顔に溢れていたのに。今では恐怖と絶望で歪まされている。
「悠真君、逃げよう……」
「はあっ!? 今さら、どこにだよ!」
紅莉に腕を引っ張られるが、身体がどうしても動かない。
初めて見る本物の死体。
紛れもない“死”のカタチを見せつけられたのだ。悠真がこれまで誤魔化し続けていた恐怖心がここに来て遂に爆発してしまったのだ。
遂には全身がガタガタと震え、両目から自然に涙がボロボロと出てきた。心臓が胸から飛び出しそうなほど高鳴っていて、呼吸も苦しい。こんな状況で、思考なんてまとまるわけがない。何か言おうとしても、ヒュウヒュウと息が口から抜けていく。酸素を取り込むだけで精一杯だ。助けて、たすけて。
「……悠真君。私を信じてくれる?」
かつての可憐な乙女だった姿はどこにもない。
長い髪は炎に巻かれてしまったのかボロボロで、ところどころ短くなってしまっていた。
「本をぉお……寄越せぇええ……」
真っ赤に充血した目を剥き出しにして、唸り声を上げている。
知性のようなものはまるで感じられない。狙ったモノは絶対に逃さないといった、肉食獣並みの執念だ。
右手にはもはや元の形状が何だったのかも分からない、細長くて黒い塊を持っている。
そして左手には悠真たちも知っている、あるモノが掴まれていた。
「そんな……嘘だ……」
「駄目っ、悠真君!! 近付いたら殺されちゃうっ!!」
ソレに駆け寄りそうになった悠真を、隣りにいた紅莉が必死に引き留める。
悠真にとって、それは信じがたく……とにかく違って欲しいという願いで、頭がいっぱいだった。
「どうして……星奈っ!!」
星奈と呼ばれたソレは、虚ろな目で悠真を見つめていた。
ただし、頭だけの状態で。
雑に切り離されたのか、首はグチャグチャに潰され、切断面からは赤黒い血肉がボトボトと零れている。
もちろん、そんな状態で生きているはずもない。日々子に髪を掴まれた状態で、鞄のようにブラブラと揺れていた。
「ふっ、ふふっ……せ、なぁ? 私のぉお大事な娘ぇえ」
「ひっ!?」
悠真が叫んだ星奈という言葉に、日々子が反応した。
グイッと自分の目線まで星奈の頭部を持ち上げ、悠真と星奈の間で視線を往復させる。
日々子の血走った瞳に驚いた悠真は、その場で尻もちをついてしまった。
悠真は顔面を蒼白にさせながら、必死に思考を巡らせた。
理解ができない。何をどう考えても、あの化け物女が何を言っているのかが分からないのだ。
星奈が娘? 星奈があの化け物女の娘!?
そんな馬鹿な。星奈は俺の彼女だった子だぞ!?
いや、待て。そういえば星奈の母親を見たことがない。
家に行くと、出迎えてくれたのはいつも父親の方だった。
コイツが母親だったから、会わせたくなかったってことなのか?
「せっ、せせなっ! あの御方のっ私のォおおっ……」
……だとしてもだ。娘の生首をどうして平気な顔をして持っていられるんだよ!
そんなブランドのバッグみたいに持ち歩くモノじゃない。
この女は他人だけじゃなく、実の娘まで手に掛けたのか? それも本のため?
なぜ、そこまでして。なぜ、なぜ。
「どうして……星奈……」
冷たく接され、別れたつもりになっていたとはいえ、嫌いになったわけじゃない。そもそも星奈は自分から好きになって、告白までした相手だ。
いつもケラケラと無邪気な笑顔に溢れていたのに。今では恐怖と絶望で歪まされている。
「悠真君、逃げよう……」
「はあっ!? 今さら、どこにだよ!」
紅莉に腕を引っ張られるが、身体がどうしても動かない。
初めて見る本物の死体。
紛れもない“死”のカタチを見せつけられたのだ。悠真がこれまで誤魔化し続けていた恐怖心がここに来て遂に爆発してしまったのだ。
遂には全身がガタガタと震え、両目から自然に涙がボロボロと出てきた。心臓が胸から飛び出しそうなほど高鳴っていて、呼吸も苦しい。こんな状況で、思考なんてまとまるわけがない。何か言おうとしても、ヒュウヒュウと息が口から抜けていく。酸素を取り込むだけで精一杯だ。助けて、たすけて。
「……悠真君。私を信じてくれる?」
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