透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~

ぽんぽこ@書籍発売中!!

文字の大きさ
上 下
80 / 87
聖杯の章

♡7 逃げた先に

しおりを挟む

 薔薇の館を脱出した悠真たちは、一度体制を整えるため、マルコのいる教会へと向かっていた。


「クソッ、どうして花音さんが……」

 悠真はふと、来た道を振り返る。
 薔薇の館がある方角では煙がもうもうと立ち上り、空を黒く染めているのが視界に入った。
 消防車のサイレンが街に鳴り響き、悠真の心を余計に掻き回す。

 せっかく知り合ったばっかりだったのに。
 ただお兄さん想いの良い子だった彼女が、どうしてそこまで……。


「悠真君、今は急がないと……!」
「分かってる! 分かってるけど!!」

 紅莉は今、かなり焦っているように見える。
 花音があの化け物女と繋がりがあったということは、占星術の本はすでに敵側に渡ったと考えていいだろう。

 こちらに残されているのは、汐音から預かった手相の本と、紅莉の持つタロットの本の二冊しかない。つまりこの二冊がある内に、透影の呪いを解除させないといけないのだ。


 そう、悠真たちの影はまだ戻っていなかった。


「良かった、教会は無事のようだぞ……!」

 悠真たちが到着すると、そこには前回来た時のままの天啓教会があった。
 これで教会まで襲撃に遭っていたら、最後の逃げ場まで失ってしまうところだった。

 ここまで足が攣りそうになるまで走ってきた。二人とも汗だくになりながら、教会の前で地面に崩れ落ちる。夏場な上に、今日はやけに太陽が照りつけていたのが余計に恨めしい。


「大丈夫か、紅莉……」

 もともと運動が得意ではない紅莉はヒュウヒュウと過呼吸になりそうになっている。悠真の心配に答える余裕もない。

 だが彼らに、休んでいる余裕など無かった。まずはタロットの本を安全なところに隠さなくては――。


「紅莉、タロットの本はどこに……?」

 悠真は紅莉が本を持っているところを見たことが無かった。
 マルコが本そのものだと言えばそうなのだが。本というからには、紙としてどこかに置いてあるのだろう。


「ふぅ、ふぅ……マルコが、教会のどこかに隠しているはずよ。いきましょう」

 深呼吸で息をどうにか整えながら、紅莉はよろよろと立ち上がった。
 悠真は彼女を支えるようにして、二人は教会の中へと入っていく。


「……マルコ? どこにいるの!?」

 教会の木扉をギギギ、と開けて足を踏み入れていく。
 紅莉がマルコの名を呼ぶが――返事がない。

 礼拝堂にも、懺悔室にも居ない。
 二階に上がってもみるが、そこには冷めた紅茶のカップがテーブルの上にポツンと置かれているだけでどこにも彼の姿が無かった。


「どこかに出掛けているのか……?」
「それはないと思う。彼は本の悪魔。本を置いたまま、この教会からは出られないの」

 マルコは自分では本を移動できないらしい。だからこの教会のどこかに居るはずなのだと、紅莉は言う。

 しかし、どこを探しても居る気配すら感じられないのだ。
 悠真たちは一度礼拝堂まで戻り、マルコの良そうな場所について考えてみるがやはり見当もつかない。


 ――そして、遂に時間切れとなってしまった。


「みぃつけたぁ……」

 最後の本を求めて、鬼がやってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。 山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。 そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。 肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性―― 悲しい呪いをかけられている同級生―― 一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊―― そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王! ゴーストバスターVS悪霊達 笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける! 現代ホラーバトル、いざ開幕!! 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

処理中です...