74 / 87
聖杯の章
♡1 日々子という少女
しおりを挟む今から約十七年前。
とある少女は自身の宿命を知らなかった。
その少女の名前は、日々子といった。
普通の家庭に生まれ、十六年を過ごした。
親と喧嘩し、友人と遊び、髪を染めてちょっとだけ悪いことをした気分になる。そして同い年の男に恋をし、失恋する。
そんな、普通の女子高校生だったのだ。
だが、少しずつ、自分が周りの友人たちと違うことに気が付いた。
たしかに中学時代から目立つほどに容姿が整っていた、というのもあるが、それはまた別の話。
彼女は――人を呪えたのだ。
最初は些細な出来事だった。
自分の悪口を言った同級生が憎い、気になる男子と仲良くなりたい。
思春期の多くの学生が抱く悩みを、その少女も持っていた。
その日、日々子は仲の良い友人と当時流行っていたおまじないを実行した。
自分の血を混ぜたミサンガに願いを込め、近所の川に流すという胡散臭いものだった。
当然、そんなおまじないが成功した、という報告は誰からも聞いたことはない。
ちょっとした憂さ晴らし、その程度の効果しかないはずだった。
しかし、彼女は他の人間とは違ったのだ。
日々子が願いを込めたミサンガを川に流した、次の日。
クラスカーストで上位だった女子学生が、交通事故で骨折する大怪我を負った。
さらには、気になっていた男子生徒が日々子の連絡先を聞いてきた。
そう、偶然としか思えないような、小さな出来事だった。
彼女もそれを幸運だと感じ、ただ喜んだ。
だがそれも、一度ならず二度三度。さらにもっと続けば、さすがに彼女も何かがおかしいと思い始めた。
「どうしよう……私のせいかもしれない……」
彼女に言い寄った教師が学校の屋上から飛び降りた辺りで、自身のせいで他人が傷付いていると確信してしまった。
当時、まだ優しい心の持ち主だった彼女はとても悲しんだ。
親しかった友人たちと距離を取り、家族とも喋らなくなった。
口を開けば、傷付けてしまうと思ったからだ。
相談したくとも、あまりに荒唐無稽過ぎて、誰に相談すれば良いのか分からない。
彼女は孤独に苦しみ、そして誰かに助けを求めて街を彷徨うようになった。
「すみません。占いって、どんな事でも見てもらえるんですか?」
啓介と出逢ったのは、そんな時だった。
当時はまだ無名で、道端で流れの占い師だった彼の前に、日々子が現れたのだ。
「あー、はいはい。四柱推命、星占い。手相もできますよ……っと、君。もしかして」
氷川の母と呼ばれ、テレビなどのメディアに人気占い師として取り沙汰されていた彼の実母とは違い、啓介には占い師としての才能が無かった。
だが人一倍、人を見る観察眼が優れていた啓介は、日々子が禍星の子だとすぐに気付いた。
『自分に才能がないのなら、ある奴を利用すればいい』
この幸運を逃すまい。
啓介はこの時から、出会ったばかりの日々子を自分のものにしようと画策するようになった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ゴーストバスター幽野怜
蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。
山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。
そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。
肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性――
悲しい呪いをかけられている同級生――
一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊――
そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王!
ゴーストバスターVS悪霊達
笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける!
現代ホラーバトル、いざ開幕!!
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
一ノ瀬一二三の怪奇譚
田熊
ホラー
一ノ瀬一二三(いちのせ ひふみ)はフリーのライターだ。
取材対象は怪談、都市伝説、奇妙な事件。どんなに不可解な話でも、彼にとっては「興味深いネタ」にすぎない。
彼にはひとつ、不思議な力がある。
――写真の中に入ることができるのだ。
しかし、それがどういう理屈で起こるのか、なぜ自分だけに起こるのか、一二三自身にもわからない。
写真の中の世界は静かで、時に歪んでいる。
本来いるはずのない者たちが蠢いていることもある。
そして時折、そこに足を踏み入れたことで現実の世界に「何か」を持ち帰ってしまうことも……。
だが、一二三は考える。
「どれだけ異常な現象でも、理屈を突き詰めれば理解できるはずだ」と。
「この世に説明のつかないものなんて、きっとない」と。
そうして彼は今日も取材に向かう。
影のない女、消せない落書き、異能の子、透明な魚、8番目の曜日――。
それらの裏に隠された真実を、カメラのレンズ越しに探るために。
だが彼の知らぬところで、世界の歪みは広がっている。
写真の中で見たものは、果たして現実と無関係なのか?
彼が足を踏み入れることで、何かが目覚めてしまったのではないか?
怪異に魅入られた者の末路を、彼はまだ知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる