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金貨の章
♦9 本を探して
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マルコの居る教会で一晩過ごしてみた感想?
……正直に言って、思っていたよりも数段快適だった。
彼――彼女かもしれないが――の作る料理はどれも絶品だったし、個室に清潔なベッドもあった。
テレビやパソコンといった類の娯楽に使えるような家電は無かったものの、シャワールームや洗濯機といった生活必需品はちゃんとあった。
悪魔が風呂に入るのかと疑問にも思ったが、悪魔は意外にも綺麗好きだったようだ。
何不自由ない夜を過ごした悠真は次の日、紅莉と一緒に占星術の魔術書を持っているらしき人物、山科立夏の住むマンションへと向かっていた。
彼女が住んでいるマンションは東京都にある青羽根駅から歩いて十五分ほど歩いた先にある住宅街にあった。
七階建てで、同じ造りでAからCの三棟からなっているようだ。
建物の間には小さな公園があり、ベンチではベビーカーに子供を乗せた主婦たちがペチャクチャと話し込んでいるのが見えた。
その脇を通り過ぎ、悠真たちはC棟へと向かう。彼女はここの最上階に住んでいるらしい。エントランスはオートロック式だったが、運よく出ていく住人が居たのでドアが閉まる前に入れ違いに入らせてもらった。見た目が高校生か中学生の男女二人組なので、住人に怪しまれることもなかった。
無事にマンションの中に入れた悠真たちは、エレベーターに乗って七階へ。
紅莉が調べてきた住所には、七○三号室とある。
廊下を歩き、ルームプレートを見ながら立夏の部屋を探していく。
「ん? どうしたんだ、紅莉。顔が真っ白になってるけど……」
悠真は隣りを歩く紅莉の顔色が悪いことに気が付いた。外は汗ばむほどに暑いというのに、握る手が冷たくなっている。
体調が悪いのだろうか。
それとも、透影になった影響が身体に……。
「実は、高いところがちょっと苦手で……」
「あれ? そうなんだったっけ?」
「う、うん。でも大丈夫。部屋の中に入っちゃえば平気だから」
紅莉はそう言ってはいるが、握る手の力がギュッと強まった。
本当に大丈夫なら良いが、もし無理そうなら彼女を下に置いて自分だけで立夏に会いに行った方がいいかもしれない。
だがそうなる前に、目的地に着いたようだ。
「あ、ほらあったよ。七〇三号室」
紅莉が指差しているルームプレートには、たしかに七〇三と書いてある。名前の部分には、しっかり山科、と書いてある。
さっそく悠真は部屋のインターフォンを押した。
アポイントメントなんて無いが、誰かしらが居れば話ぐらいは聞けるだろう。
……だが、応答はない。
「不在なのかな?」
「そんなぁ……母親も働きに出ているとか、そういうオチなのかなぁ」
眉を下げて、泣きそうな声で弱音を吐く紅莉。
会えないことがショックというよりも、一刻も早く高い所から非難したいようだ。
試しにドアノブを回してみるが、鍵が掛かっていて開かない。
こうなってしまっては手の打ちようがないだろう。
しかし、諦めていったん引き返そうとしたところで悠真が何かに気付いた。
「ん? 誰かが居るようだぞ?」
「えっ、本当!?」
ドアの反対側では、うっすらと物音が聞こえてきている。
「もしかして……」
何か思い当たることがあるのか、バッグからスマホを取り出した紅莉。
彼女は動画配信サイトを開くと、何かを検索し始めた。
……正直に言って、思っていたよりも数段快適だった。
彼――彼女かもしれないが――の作る料理はどれも絶品だったし、個室に清潔なベッドもあった。
テレビやパソコンといった類の娯楽に使えるような家電は無かったものの、シャワールームや洗濯機といった生活必需品はちゃんとあった。
悪魔が風呂に入るのかと疑問にも思ったが、悪魔は意外にも綺麗好きだったようだ。
何不自由ない夜を過ごした悠真は次の日、紅莉と一緒に占星術の魔術書を持っているらしき人物、山科立夏の住むマンションへと向かっていた。
彼女が住んでいるマンションは東京都にある青羽根駅から歩いて十五分ほど歩いた先にある住宅街にあった。
七階建てで、同じ造りでAからCの三棟からなっているようだ。
建物の間には小さな公園があり、ベンチではベビーカーに子供を乗せた主婦たちがペチャクチャと話し込んでいるのが見えた。
その脇を通り過ぎ、悠真たちはC棟へと向かう。彼女はここの最上階に住んでいるらしい。エントランスはオートロック式だったが、運よく出ていく住人が居たのでドアが閉まる前に入れ違いに入らせてもらった。見た目が高校生か中学生の男女二人組なので、住人に怪しまれることもなかった。
無事にマンションの中に入れた悠真たちは、エレベーターに乗って七階へ。
紅莉が調べてきた住所には、七○三号室とある。
廊下を歩き、ルームプレートを見ながら立夏の部屋を探していく。
「ん? どうしたんだ、紅莉。顔が真っ白になってるけど……」
悠真は隣りを歩く紅莉の顔色が悪いことに気が付いた。外は汗ばむほどに暑いというのに、握る手が冷たくなっている。
体調が悪いのだろうか。
それとも、透影になった影響が身体に……。
「実は、高いところがちょっと苦手で……」
「あれ? そうなんだったっけ?」
「う、うん。でも大丈夫。部屋の中に入っちゃえば平気だから」
紅莉はそう言ってはいるが、握る手の力がギュッと強まった。
本当に大丈夫なら良いが、もし無理そうなら彼女を下に置いて自分だけで立夏に会いに行った方がいいかもしれない。
だがそうなる前に、目的地に着いたようだ。
「あ、ほらあったよ。七〇三号室」
紅莉が指差しているルームプレートには、たしかに七〇三と書いてある。名前の部分には、しっかり山科、と書いてある。
さっそく悠真は部屋のインターフォンを押した。
アポイントメントなんて無いが、誰かしらが居れば話ぐらいは聞けるだろう。
……だが、応答はない。
「不在なのかな?」
「そんなぁ……母親も働きに出ているとか、そういうオチなのかなぁ」
眉を下げて、泣きそうな声で弱音を吐く紅莉。
会えないことがショックというよりも、一刻も早く高い所から非難したいようだ。
試しにドアノブを回してみるが、鍵が掛かっていて開かない。
こうなってしまっては手の打ちようがないだろう。
しかし、諦めていったん引き返そうとしたところで悠真が何かに気付いた。
「ん? 誰かが居るようだぞ?」
「えっ、本当!?」
ドアの反対側では、うっすらと物音が聞こえてきている。
「もしかして……」
何か思い当たることがあるのか、バッグからスマホを取り出した紅莉。
彼女は動画配信サイトを開くと、何かを検索し始めた。
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