透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~

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杖の章

♣21 カレイドスコープ本拠地

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 やはりここは、少し治安が悪そうだ。
 通りすがる人の目が、醜い欲にまみれている気がしてならない。

 以前、悠真は友人たちとここへ来たことがあった。その時は確か、カラオケボックスを探していたとかそんな理由だったっけ。その時は放課後だったこともあって、もっと雰囲気が悪かった。スーツを着たホストや、キャバクラの客引きが何人も居たのを覚えている。


「どうしたの、悠真君?」
「え? あ、いや……何でもないよ」

 無意識に護らなきゃ、と思ったのかもしれない。
 つい握る手に力が入ってしまっていた。


「あ~、もしかして悠真君。ここに入ろうとしてた?」
「え?」

 いったいなんのことだ?
 そう思いながら紅莉の視線の先を辿ると、そこには白い建物とピンク色の看板が立っていた。
 少し老朽化はしているが、これはいわゆる恋人たちの愛の巣――ラブホテルだ。


「ち、ちがうよ! そんなわけないじゃん!」
「ホントにぃ? いいよ、私は。悠真君とだったら……」

 ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべ、紅莉は悠真の腕を抱きしめた。
 手とは比べ物にならないほどの紅莉の女性らしい柔らかな感触が伝わってきた。

「ばっ、馬鹿!! ほら、行くぞ!!」


 一見すれば、タイムリミットが迫っているはずの彼らには、無駄な時間だっただろう。
 遊んでいる場合ではないのは、悠真も重々分かっていた。

 それでも敢えてそんな時間を過ごしていたのは、そんなひとえに現実からの逃避だった。
 紅莉は悠真のような焦りや疲れは見せていないが、心の中では不安を感じているに違いない。だからこそ、悠真もそんな彼女に付き合うことにしたのだ。


 しばらく歩いていくと、紅莉はスマホを片手に「あのビルみたい」と呟いた。

 事前に聞いていたビルの名前は『御幸みゆきビル』。
 視界の数メートル先にあるビルにも、同じ名前が書かれた看板が入り口の脇にあった。どうやら迷わずに目的の場所を見付けられたようだ。


 悠真はそのビルを、入り口のある一番下から上まで眺めてみる。
 いち、にぃ、さん……五階建てだ。一階には小さな紫色の看板で『百色眼鏡カレイドスコープ』とある。これはたしか、万華鏡の別名だった気がする。

 バーの上にある階には事務所が入っているのか、特に店の看板はない。
 マルコが表向きは占い専門の会員制バーだと言っていたが……ハッキリ言って、お隣りのビルと見た目はほとんど変わらない。

 建てられて十数年が経っているのか、壁や窓ガラスは雨風で多少汚れている。特別な力で守られているだとか、変なオーラが漂っているだなんてこともない。
 とてもじゃないが、ここが政治家も頼る日本有数の占い師が集まっている場所だとは思えない質素さだ。

 唯一、他のビルと違っているといえば――


「で、どうする? これじゃあ中に入るなんて無理そうじゃないか?」

 御幸ビルが数人の男に包囲されている。それも、紺色の制服に金色のバッジが付いた帽子を被った男たちにである。


「警察かぁ……さすがにこれは予想してなかったかな」

 何か事件があったのだろう。随分と物々しい雰囲気だ。
 ビルの入り口も封鎖されており、ドラマで見るような鑑識っぽい職員が黄色いテープをくぐるようにして出入りしていた。あの様子では関係者以外は入れそうにない。

 こちらは学校をサボっている身分なので、迂闊に近付くこともできない。
 さすがに別件を捜査中の人間が、見た目が高校生の自分達をわざわざ捕まえにくるとは思えないが。


「ねぇ、悠真君。野次馬が結構いるし、そこに混ざれば様子が窺えるかな?」
「止めておいた方がいいんじゃないかな。なんだか揉めてるっぽいし」

 野次馬の中に、動画の配信者らしきマスクをした人物がスマホを使って実況している。それを警察官がうっとおしそうに下がるよう叫んでいるのが聞こえていた。

 何があったかは知りたいが、警察とは揉めたくはない。


 仕方なく、二人は現場のビルから少し離れた喫茶店に移動した。
 何が情報が転がっていないか、スマホを使って手分けして調査することにしたのだ。


「うーん。なるほどね」

 二人でアイスコーヒーを飲みながら調べているうちに、幾つか分かったことがあった。


「これ見てみろよ」

 そういって悠真はスマホを紅莉の目の前に置いた。
 画面に表示されていたのは、一週間前に起きたとある事件のニュース記事だった。


『氷川市で男性殺害。ビル内で意識不明の状態で発見、病院で死亡が確認された。死因は首を絞められたことによる他殺とみられる。犯人とみられる妻は行方不明』
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