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杖の章
♣4 女装好きのイケメン神父
しおりを挟む悠真をひたすらに揶揄って遊んでいたマルコだったが、それに怒った紅莉に引っ張られてどこかの部屋へ連れて行かれた。
その後すぐに二人は戻ってきたのだが――
「え、なに? この状況……」
どういうわけか、マルコは神父服からメイドの給仕服へと着せ替えられていた。
その姿のまま、メイドの彼は慣れた手つきでカモミールティを悠真に提供し始めた。
「これは、罰だよ」
「罰?」
「人の所有物を奪おうとした罪。大丈夫だよ。そういうの、好きだからコイツ」
カチャリ、と少し雑な動作でカップをソーサラーに置くと、紅莉は冷たい視線をマルコに向けた。それは部屋の温度が数度下がったと錯覚させるほど冷え切っていた。
「(誰が誰の所有物なんだろう)」
悠真は敢えて言葉にせず、スルーすることにした。
大人しい人を怒らせると怖い、ということが良く分かっただけで十分である。
それにしても、マルコは男なのにメイド姿が良く似合っていた。
彼は背が高いし、どちらかと言えば堀の深い顔も本場のメイドっぽく見える。
流麗な所作と相まって、ただのコスプレと言うにはいささか本格的過ぎる。
「どうかな、悠真君。似合ってる?」
「え? あ、はい。猫耳とか付けてもいいんじゃないっすか?」
「残念ながら、それは採用できないね。ボクは猫が嫌いだし、犬派なんだ」
「そ、そうですか……」
冗談、というか揶揄われた意趣返しのつもりだったのだが、マルコには通じなかったようだ。むしろワザと声のオクターブを上げて遊んでいる。
「はぁ、お茶が美味しい」
「ふふ。そう言ってくれると嬉しいわ」
「女口調はやめてください」
疲れていたのか、心なしかハーブティの鎮静効果がより効いてくれている気がする。
マルコが作ったらしい焼き菓子も食べてみたが、そちらにも何かのハーブが練り込んであるらしく、とても味も優しい甘さがあって美味しい。
「……むぅ。私もメイド服着ちゃおうかな?」
「紅莉はお願いだから、そのままでいてくれ。可愛いメイド姿の紅莉を見たら、俺の心臓がもたないかもしれない」
「え~? うーん、それじゃあ仕方ないなぁ」
かなり恥ずかしいことを言っていることに、悠真本人は気が付いていない。
だがそのお陰ですっかり機嫌がよくなった紅莉は、ニコニコとした顔で焼き菓子を貪り始めるのであった。
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