透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~

ぽんぽこ@書籍発売中!!

文字の大きさ
上 下
22 / 87
剣の章

♠22 白薔薇の少女

しおりを挟む
 部屋に入ってすぐ、悠真は驚いた。

 ここだけ和風の部屋だったのだ。


 床には畳が敷き詰められており、壁は土壁、窓には紙の障子がめられている。
 さっきまで寝ていたのか、壁の近くの床には布団が出しっぱなしだ。

 洋の部分と言えば、そこら中に大量の縫いぐるみが置いてあるくらいだろうか。

 他の部屋を全て覗いたわけではないが、なんだかここだけ国が違っているような気分になる。

 とは言っても、日本から出たことの無い悠真はこちらの方が落ち着けるのだが。


 部屋の主は客人を招き入れると、適当なクッション――これも何かのキャラクターなのか可愛らしい――を床に置いた。そして自身は寝床の上に座り、掛布団にくるんと包まった。


 汐音を一言で表すのなら、それは『日本人形』という言葉がぴったりだな、と悠真は思った。もしくは座敷童だ。

 彼女は七五三で着るような着物を見に纏い、赤い薔薇ばらのかんざしを頭に挿している。
 生気を感じられないような、不健康なほどに真っ白な肌。言い方はあれだが、痛々しい火傷が残る彼女の兄とは違い、汐音の顔には一切の瑕疵かひが無い。おそらく、日の光を全く浴びていないのが原因なのだろう。
 花壇を舞う蝶のように、手で捕まえてしまえば簡単に傷付けてしまいそうな、そんな儚さを感じていた。


「……紅莉ちゃんのお友達、ですか?」

 不躾にジロジロと眺めていると、人を品定めするかのような視線を返されてしまった。年下とはいえ、初対面の女の子に失礼なことをやってしまったと悠真は罰の悪さを感じた。


「そうだよ。紅莉とは同じクラスで……」
「ほら、汐音ちゃん。前に話したことのある悠真君だよ!」
「あぁ、そうなんですね……そう、この人が」
「カッコいいでしょ? 学校でも人気者で――」

 悠真は自己紹介さえさせてもらえず、紅莉と汐音の間で会話が始まってしまった。
 しかも内容が内容過ぎて、途中から会話に入りづらい。


「(紅莉、学校の外には友達が居たんだな)」

 仕方なく、悠真は別のことに思考を向けることにした。
 おそらく汐音は中学生なのだろう。しかし洋一の口ぶりとこの生活の様子を鑑みると、学校には行っていない気がする。……その理由は分からないが。


 だがまぁ、初対面の悠真でも二人の仲が良いのだろうと言うのは分かった。
 汐音が発していた警戒心が、紅莉に対してはあまり感じられない。

 楽しそうに話している二人の姿は、テンションの差はあれど、学校で普段よく見るような女友達と同じ光景だった。


 それよりも、悠真は汐音の手元が気になった。

 先ほどは綺麗な肌だと思っていたが、なぜか薄手の白い手袋をしている。
 和装とも合うには合うのだが、記憶違いでなければ、そういった手袋は屋外で使うものだったはず。

 よくよく観察してみれば、手首には幾つもの傷痕がある。視線を少し上げれば、首元にも黒ずんだ痕が――


「うん、それでね! 今日は汐音ちゃんにお願いがあって――」
「お願い?」
「うん。実は禍星の子に関して、洋一さんに協力をして貰いたくって……」

 悠真がボーっとしているうちに世間話が終わったのか、紅莉が別の話題に入っていた。

 もしかしたら紅莉が彼女に会いに来たのは、汐音に協力をお願いすることが目的だったのかもしれない。そうとなれば悠真も他人事ではない。胡坐あぐらから正座へと姿勢を正した。

 だが、ここでもそうは上手くいかなかったようだ。
 それまでニコニコと聞いていた汐音が突然、剣呑な顔つきになって立ち上がった。


「――お断りです!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。 山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。 そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。 肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性―― 悲しい呪いをかけられている同級生―― 一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊―― そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王! ゴーストバスターVS悪霊達 笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける! 現代ホラーバトル、いざ開幕!! 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

一ノ瀬一二三の怪奇譚

田熊
ホラー
一ノ瀬一二三(いちのせ ひふみ)はフリーのライターだ。 取材対象は怪談、都市伝説、奇妙な事件。どんなに不可解な話でも、彼にとっては「興味深いネタ」にすぎない。 彼にはひとつ、不思議な力がある。 ――写真の中に入ることができるのだ。 しかし、それがどういう理屈で起こるのか、なぜ自分だけに起こるのか、一二三自身にもわからない。 写真の中の世界は静かで、時に歪んでいる。 本来いるはずのない者たちが蠢いていることもある。 そして時折、そこに足を踏み入れたことで現実の世界に「何か」を持ち帰ってしまうことも……。 だが、一二三は考える。 「どれだけ異常な現象でも、理屈を突き詰めれば理解できるはずだ」と。 「この世に説明のつかないものなんて、きっとない」と。 そうして彼は今日も取材に向かう。 影のない女、消せない落書き、異能の子、透明な魚、8番目の曜日――。 それらの裏に隠された真実を、カメラのレンズ越しに探るために。 だが彼の知らぬところで、世界の歪みは広がっている。 写真の中で見たものは、果たして現実と無関係なのか? 彼が足を踏み入れることで、何かが目覚めてしまったのではないか? 怪異に魅入られた者の末路を、彼はまだ知らない。

処理中です...