透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~

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剣の章

♠19 手形の絵

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「とまぁ、そういうことがあったのよ……」

 応接間らしき部屋に案内された紅莉と悠真。立ち上がるのが難しくなるほど沈むソファーに腰掛けながら、昨日の遭った出来事について家主である洋一に説明していた。


「そうか。遂に動き始めたか……」

 手を組んで大きな溜め息を吐く洋一。
 その両手も火傷の痕で覆われてしまっており、痛々しそうだった。

 悠真は説明を全て紅莉に任せ、洋一は部屋を眺めていた。
 まじまじと人の傷痕を見ているのも失礼だと思ったのだ。

 洋風の部屋なだけあって、天井は高く、照明はシャンデリアだった。
 外から見えた煙突はやはり暖炉の為だったようで、海外の映画で観るような立派なものがあつらえられていた。

 しかしその暖炉は鉄板のようなもので完全にふさがれてしまっている。
 季節はもう初夏だし、服もTシャツで過ごせるほどに暖かい。それに煤などの手入れが面倒だとどこかで聞いたことがあるし、あまり使われていないのかもしれない。


 次に気になったのが、部屋の壁に掛けられている写真や絵の数々だった。いや、敢えて目に入れないように気を付けていたと言うのが正しいかもしれない。


「壁の絵が気になるか?」
「え? あ、はい。すみません……」

 紅莉との話が終わったのか、洋一が挙動不審になっていた悠真に声を掛けた。

 それがただの風景画であれば、悠真もそこまで気にはならなかっただろう。
 だが壁の絵や写真は……芸術とはとても思えない。

 ただ、人の手のひらがあったのだ。ペタペタと、蝶のように。


「ふんっ、謝らなくても良い。おい、紅莉。お前は彼に何も説明せずに、ここへ連れてきたのか?」
「だって、私が説明するよりも実物を見せた方が何倍も手っ取り早いでしょう?」

 悪びれも無くそう言ってのけた紅莉は絵には目もくれず、用意されたダージリンに口をつけた。


「まったく、コイツは。まぁ、いい。前置きが短いのは俺も助かるからな。俺は依頼人の手相を見る仕事をしている。だからこれらはいわば、資料みたいなものだ」
「手相、ですか。あぁ、なるほど……!」
「まぁ、蒐集かしゅうも半分は俺の趣味でもあるけどな。それで? 禍星まがぼしの子である彼はなんのアルカナだったんだ? 占いの種類は?」

 ――アルカナ? あぁ、紅莉が言っていたタロットのカードの話だ。
 禍星の子はタロットカードの種類で宿命があるとか、どうとか。
 だけど、自分が何のアルカナだったかなんで知らないし、占いなんて自分でやったことも無いぞ?

 なんと説明したら良いのか分からず、首を傾げているうちに紅莉が助け舟を出した。


「あー、悠真君は昨日私が説明するまで、禍星の子だって事すら知らなかったんだよ。分かる前に透影とかげになっちゃったから、何のアルカナなのかも不明なの」
「は!? そんな事が有り得るのか!?」
「彼は占いとは無縁の世界に居たから……」

 紅莉の言う通りだ。鏡の中の自分の影を見れば何のアルカナなのか分かるって言っても、そんなの誰かに言われなければ一々確認するわけがない。


「はぁ。それでお前らは俺の所へ来たのか?」

 どうせソイツは他に知り合いなんて居ねぇだろうから、と付け加えた洋一はその人物を睨む。

 ソイツ呼ばわりされた本人は今、紅茶と一緒に用意されていたお菓子を食べ始めていた。
 丸いスポンジの中にカスタードのクリームが入った、宮城県の銘菓。それをハムハムと美味しそうに食べている。

 悠真は昨晩から殆ど何も口にしていなかったことを思い出し、食欲旺盛な彼女を見て少し羨ましくなった。


「うん、それもあるかな。あとできれば、その女に全部の本を奪われる前に私達と共同戦線を張って欲しいんだけど」

 最後の一欠けらを口へと放り込むと、何度か咀嚼したのちに紅茶でゴクンと流し込んだ。可憐な見た目に反して、随分と豪快な食べ方である。


「駄目だ。断る」
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