透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~

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剣の章

♠16 薔薇の洋館

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 呪物の書で呪われてしまった悠真は翌日、紅莉の案内でとある場所に来ていた。
 河口駅から電車に乗り、宮野駅へと向かい、そこからバスに乗り継いで二十分ほど掛けて行った先に目的地があった。

 それは薔薇ばらの生垣に囲まれた敷地にある、洋風の館だった。


「ここが紅莉の知り合いが住んでいる場所なのか? まるで風見鶏の館みたいだな」

 悠真は何年も前に家族旅行で立ち寄った、神戸の異人館に似ていると思った。
 この家には風見鶏は無いようだが、同じように壁はレンガでできているし、中に暖炉があるのか屋根の上には煙突のようなものが立っていた。
 風見鶏の館ほど立派で大きな館ではないが、それでも一般人が住むには十分すぎるほどの規模だった。

 当然、中の住人は金持ちなのだろう、というアバウトな想像は高校生である悠真にもできた。
 だが普通の家に生まれ育った自分には、実際にどんな人物が住んでいるのかまでは予想ができなかった。


『……少々、お待ちください』

 インターフォンを押すと、ボイスチェンジャーが使われたような中性的な声が聞こえてきた。

 仕方なく、家主が現れるまで二人は立ったまま入り口の門で立っていることにした。
 だが、どうにも悠真の調子が芳しくない。


「悠真君、大丈夫?」
「あ、あぁ。ちょっとボーっとしてたみたいだ」

 昨晩、公園から無事に帰宅することができた。しかし、悠真はずっと落ち着くことができなかったのだ。

 もちろん、女に襲われた恐怖もある。だがそれ以上に、自分の命が八日で尽きようとしているという事実をどうしても飲み込むことができなかったのである。


 嘘だと信じたいが、鏡を見れば自分の影が映らないという確固とした証拠がある。これがある限り、現実から逃げようとする悠真をどこまでも追い掛けてくるのだ。
 そう、まるであの女が死神として命を刈り取る瞬間まで常に自分を監視しているかのような錯覚に陥っていた。


 そんな状態で満足に眠ることなぞできるわけもなく、ほとんど一睡もしていない状態でここまでやってきた。いくら現役高校生で体力があるとはいえ、精神的にかなり響いていた。

 唯一心が安らいだのは、先ほどのバスの中だった。
 紅莉が隣りに居ることに安心して、少しウトウトすることができたのだ。


「(でも紅莉ってここまで頼りがいのあるやつだったっけか……?)」
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