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剣の章
♠13 禍星の子
しおりを挟む「まず、悠真君が出逢ったのは、生きた人間よ」
干からびかけていた身体を潤すべく。悠真は自販機で買って来たスポーツドリンクを飲みながら、紅莉の話を聞いていた。だが『生きた人間』という言葉を聞いて、思わずペットボトルから口を離した。
「アレが、人間だって……?」
あの常軌を逸した存在が人間だなんて、俄かには信じられなかった。
むしろ、妖怪か何かの類だと言って欲しかった。
あんな人間が、この世にそう簡単にいられてたまるか。
「いや、人間の方が良いのか?」
悠真は怒りの声を上げそうになったが、ふと冷静になった。
二度と出くわすのは御免だったが、いつどこで再び出逢ってしまうか分からない。
今この公園にだって、また現れてもおかしくはないのだ。
「生きている人間であれば、警察がどうにかしてくれるんじゃないか? そ、そうだ。警察っ」
こうなれば早く通報しなければ。
悠真はポケットに入ったままのスマホを取り出した。通報は生まれて初めてだが、今は躊躇なんてしている場合じゃない。
震える指で一一〇番をタップする。だがそれを、紅莉の手が遮った。
「落ち着いて、悠真君。きっとその人はもう、悠真君の所には来ないよ」
「ど、どうしてそんなことが言い切れるんだよ! アイツの目的が分からない限り、安心なんてできないじゃないか!」
相変わらず落ち着き払っている紅莉に、悠真は遂に怒鳴り声をあげる。
「あれは犯罪者だろ! 警察呼んで捕まえてもらわなきゃ!」
「うん、でも悠真君。それを警察に、なんて言うつもりなの?」
「――えっ? そ、それは……」
言われてみて、気が付いた。
たしかに、被害の証拠がない。女に追い掛けられて、本を寄越せと言われただけだ。
それだけでも警察は動いてくれるだろう。だが詳しく事情を説明すればするほど、話の信憑性が低くなる。下手すれば、悪戯目的の通報だと思われるかもしれない。
「それよりもね。いま、悠真君にとってとても大事なことがあるの。それをちゃんと説明するから、いったん落ち着いて聞いてくれる?」
「痛っ!? わ、分かったよ……」
普段は柔らかい物腰の紅莉が、悠真の手をギュッと強く握った。それも、真剣な表情で。
さっきの女に見つめられた時とはまた違う種類の怖さに、身体がビクッと竦んでしまう。
今目の前に居るのは、普段から声も小さく、か弱いイメージだった紅莉ではない。
それに気付いた悠真は、自然と彼女の話を受け入れようとしていた。
「おそらく、その女の人は禍星の子と言われる人間よ」
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